スマホゲームのビジネスモデルについて考えてみた!

今年1月、スマートフォン(スマホ)向けゲーム界隈に小さくない動揺が走りました。2018年第4四半期(10〜12月)のスマホゲームメーカー各社の売上や収益が軒並み激減し、ヒット確実とまで言われていたような大作までが急ブレーキ状態だったのです。

筆者も昨年10月に執筆したインディゲームについてのコラムの中で「ユーザーが『課金疲れ』によって大手ゲームメーカーのスマホゲームから離れ始めている」という状況をお伝えしましたが、それを裏付けるような数字ばかりが並びました。

一方で、業績不振に喘ぐ他社をあざ笑うかのように収益のV字回復を遂げた企業&ゲームもあります。一体それらのゲームは何が違ったのでしょうか。感性の原点からテクノロジーの特異点を俯瞰する「Arcaic Singularity」。今回はスマホゲーム界隈の現状と打開策、そして課金モデルの新たな挑戦について考察します。


業績悪化に苦しむスマホゲーム業界に打開策はあるのか


■スマホゲーム暗黒時代
はじめに大手スマホゲームメーカーの2018年10月〜12月の決算状況についておさらいしてみましょう。

・ミクシィ
売上高……349億円(-4.2%)
営業損益……62億円(-36.3%)

・サイゲームス
売上高……364億円(-1.3%)
営業損益……32億円(-26.4%)

・DeNA
売上高……264億円(-22.9%)
営業損益……-21億円(55.6%)

・グリー
売上高……177億円(-2.4%)
営業損益……10億円(-40.3%)

・コロプラ
売上高……99億円(-22.6%)
営業損益……-2億円(9.0%)

・Klab
売上高……77億円(-13.6%)
営業損益……10億円(-27.9%)

※サイゲームスはサイバーエージェントのゲーム事業で集計
※カッコ内は前年同期比

ここでは過去にヒットゲームを生み出した主要企業のみを抽出してみましたが、その他の企業の業績も全体として著しく悪化しており、コンシューマ向けゲームも並行して手がけている大手ゲームメーカーを含め、業界全体の8割近くが減収減益、もしくは増収減益といった状況です。

業界全体での売上高自体は、2015年あたりから伸び悩みつつも緩やかな成長を続けていますが、営業利益については2015年をピークに急速に落ち始めており、すでに2016年あたりから各社の消耗戦が始まっていた様子が伺えます。

ユーザーの射幸心を煽り、ひたすら課金ガチャを回させるために投資合戦を繰り広げた結果、あとに残ったのは焼け野原だった、といったところでしょうか。


DeNAの決算資料より引用。次期推移予想が甘過ぎるように思うのは筆者だけだろうか


■業績低迷脱出を図るガンホー
このような中で、1社だけ業界の低迷に逆らうかのような企業があります。ガンホーです。2018年10月〜12月期の売上高は303億円(前年同期比59.2%)、営業損益は93億円(85%)と大きく業績を回復させました。

ガンホーが誰も予想しなかったほどのV字回復を遂げた大きな理由に、同社のロングランヒット作「パズル&ドラゴンズ」(パズドラ)でのリタイアユーザーの呼び戻しがあります。

同社も他社と変わらず2016年頃より売上の低迷と緩やかな営業損益の右肩下がりを続けていましたが、パズドラで過去に例のないゲーム内アイテムの大量配布や復帰プレイヤーがゲームに戻りやすいキャンペーンを次々と打ち出し、それまで離れていたライトユーザーの掘り起こしに成功したのです。


2019年2月に7周年を迎えたパズドラ。人気復活の裏にはビジネスモデルの転換があった


魔法石を大量に配布し、その魔法石で好きなだけガチャを回させ、「もう少し回したい」というユーザーの欲求を引き出す施策は成功しました。しかしこういった課金ガチャに頼った従来型の施策は一時凌ぎのカンフル剤でしかありません。やっていることは今までと同じ射幸心を煽るビジネスであり、この施策の効果が長く続くことはないでしょう。

一方で、パズドラでは新しい試みも見られました。単なる課金ガチャではなく、一定額を支払うことで高確率で強いキャラクターが手に入ったり、特定のキャラクターが必ず手に入る(ガチャではなく直接購入できる)というものです。

もはやパズドラ1本が命綱とも呼べるガンホーの業績回復の立役者としては、こういった確定ガチャやキャラ販売の導入のほうが大きかったのはないでしょうか。そしてこの新施策には、スマホゲーム業界が取るべき1つの道筋があるように思われます。

■課金ガチャは「死を呼ぶビジネスモデル」だった?
いわゆる「F2P」(Free to Play=基本料金無料ゲーム)がメジャーであるスマホゲームには、「ユーザーピラミッド」とも呼べるようなものが存在します。

無課金でゲームを楽しむライトユーザーが7〜8割近くを占め、2割強程度の人が月額500円〜5,000円程度の「少額課金」ユーザーです(俗に言う「微課金」)。いわゆる重課金(廃課金)と呼ばれる月額数万円以上の課金を行っている人は、ほんの数%しかいません。

調査機関やアンケートの内容によって若干の差異はありますが、基本的にはどのようなゲームアプリであってもその傾向には大差がありません。

例えば2018年7月にヴァリューズが公開した「アプリ内課金実態調査」によれば、ゲームアプリの課金率は25%程度、その課金者の中で月額1万円以上払っている割合は10.6%です。ゲームアプリへの課金者全体からの比率で言えば、実に2.7%程度の人しか月額1万円以上を課金していないのです。


月額5,000円以上で考えたとしても5.3%程度だ(ヴァリューズ調査結果より引用)


ユーザーの射幸心を煽り多額を使わせる課金システムは短期的な高収益こそ狙えるものの、「P2W」(Pay to Win=課金者有利の法則)が強く働きすぎてしまい、無課金や少課金で楽しみたいというユーザーを切り捨て、結果としてユーザーピラミッドは長く続かず崩壊します。

F2Pを基本とするスマホゲームにとって、無課金ユーザーは口コミを拡散する重要な層です。ユーザー数の大小に拘らず課金者比率はある程度一定となるため、無課金ユーザー層が広ければ広いほど課金者数は増え、口コミ効果も高まります。つまりユーザーピラミッドの崩壊(無課金層の離脱)はF2Pゲームの収益モデルそのものの崩壊を意味するのです。

これが単なる集金詐欺的な短期ビジネスであれば収益のみを上げて終わることもできますが、ゲームを継続運営するためのオンラインサーバを必須とする現在のスマホゲームにおいて、短期戦略のみで大量に集客してもその後の収益力が続きません。運営コストやシステムの維持コストばかりがかさんでいく負のスパイラルへ確実に落ちてしまいます。

つまり、ユーザー層の厚さこそが命綱であるスマホゲームにとって、現在まで主流であった課金ガチャ一辺倒のビジネスモデルは、実はそのユーザーピラミッドを長期的に維持するにはあまり適していない「死のモデル」だったのです。

■脱・課金ガチャモデルとしての「割引セット販売」
そこで登場するのが「アイテムやキャラの割引セット販売」です。ユーザーは無料からも遊べ、課金ガチャなども楽しめる一方で、一定額を払うことで確実に一定以上楽しめる要素を追加するというものです。

一昔前であれば、こういった割引セット販売モデルはPC向けのMMORPGなどで多く採用されてきた方式でした。月額課金によるビジネスモデルではユーザーを集めきれなくなったMMORPGの運営各社が、導入はF2Pとしつつもゲームコンテンツをより充実した状態で快適に遊べるように、アイテムの定額パックなどを用意し実質的な月額課金としたのです。

MMORPGというゲームジャンル自体が衰退してしまった現在、そのビジネスモデルも失敗であったかのように思われがちですが、課金ガチャが持つ短期的な収益力や集客力の高さと組み合わせることで、バランスの良いビジネスモデルの構築が可能になるかもしれません。


ガチャとは書いているが、実際は魔法石とキャラの割引セット販売だ


例えばミクシィの「モンスターストライク」では、2017年9月に月額480円の月額課金サービス「モンパス」が導入されました。

金額設定を見ても無課金ユーザーの取り込み(課金誘導)を目的とした施策と見られ、その目的はパズドラにおけるお得ガチャや確定ガチャと非常に近いものだと考えられます。

実際にモンパスを開始した四半期の決算は、それまでの下落傾向が続いていた決算動向から大きく外れ、増収増益を達成しています。


広く浅い少額課金による安定運営を目指した「モンパス」



ミクシィの決算資料より引用。無課金層や少額課金層への訴求は一応の効果を見せたと言える


しかし、その後の売上高や収益は再び下落の一途を辿ります。それまでの課金ガチャ偏重によるユーザー離れや課金疲れが定額課金サービスの導入程度では補完しきれなかった点や、月額課金というシステムへの抵抗感もあったものと考えられます。

かつてMMORPGが、どんなに少額であっても月額制であるというだけで嫌われてしまった事実を鑑みても、スマホゲームでの月額制サービスはあまり良い手段ではないのかもしれません。

また月額制のデメリットとして、その月にそれ以上の課金を促せないという点もあります。ユーザーの「欲しい」という欲求行動を満たしつつ反芻的な購入への敷居を下げる施策としては、あまり適していません。

アイテム課金は、飽くまでも「買いたい時に手軽に安心して買えるシステム」であることが重要なのです。


要不要に関わらず毎月自動的に引き落とされる、という点がユーザーを遠ざけてしまう


■ゲームをゲームとして楽しむために必要なもの
スマホゲームにおいて、無課金プレイヤーが無課金にこだわる理由の1つには「ギャンブル的なガチャにお金を払いたくない」、「ガチャは一度課金したらその後が怖い」という心理的な恐怖感や忌避感があると思います。

しかし「1,000円で追加キャラとゲーム内マネーを割引購入できます」となれば、そこにギャンブル要素はありません。単なる「お得なセット販売」です。

ハイリスク・ハイリターンのガチャを回すか、リターンは少ないがリスクなく確実にゲームを楽しめる少額のセット販売にするかの選択肢をユーザーへ提示することによる安心感が、無課金や少額課金で我慢していたユーザーの課金率を引き上げた可能性は決して否定できないでしょう。

これまでの「重課金者から限界まで搾り取る」というビジネスモデルから、「すべてのユーザーから少しずつ集金する」というビジネスモデルへの転換が必要な時期が来ているように思います。そしてそのビジネスモデルは、間違いなく長期的なランニングコストを必要とするスマホゲームの運営に合致したものだと考えます。


スマホゲームは半永久的に続く運営コストを捻出し続けなければいけない


かつてガンホーはパズドラの運営方針について、北風と太陽の童話を例えに「ポカポカ運営」という言葉を用いて講演を行いました。北風のようにユーザーを強く刺激する(射幸心を煽る)のではなく、太陽のように暖かく迎える(ゲーム本来の面白さを重視する)ことで、ユーザーが自発的に課金したくなるビジネスモデルを目指すというものです。

しかしその講演から何年も経たず、パズドラは課金ガチャ偏重のゲームバランスへと変化し、多くのライトユーザーが離れていったのです。当時「運営に裏切られた」という言葉すら、ユーザーの間では聞かれるほどでした。

そして今、かのゲームはかつてのポカポカ運営に戻るのではなく、課金ガチャと少額のセット販売をハイブリッドにした、新しいビジネスモデルにチャレンジしています。ガンホーがそのビジネスモデルへ転換してまだ半年も経っておらず、その結果を問うのは時期尚早ですが、少なくともゲームユーザーの間での評判は悪くありません。

ゲームがゲームとして楽しいというのは何よりも基本的なことです。しかしスマホゲームでは、その基本が蔑ろにされてきた時代があったように思います。一度はゲームを辞めたユーザーが「また遊んでみようかな」と再開するだけのゲーム性がパズドラにはありました。その事実は、ゲームがゲームとして楽しいことが何よりも重要であったという反証でもあります。

「スマホゲーはオワコン」、「儲からないビジネス」などと囁かれるばかりの今、各社にそのビジネスモデルを転向する勇気と決断力はあるでしょうか。ガチャを回すこと自体がゲーム性そのものになっているようなゲームが淘汰される時代は、もうそこまで来ています。

ゲームを愛好する者として、筆者はスマホゲームが健全に楽しめるジャンルとなることを心から願っています。


ゲームが面白いから課金してみた。そう言えるゲームが増えることを願いたい


記事執筆:秋吉 健


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