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●『デザイナー 渋井直人の休日』で連続ドラマ初単独主演

数々のドラマ・映画などで名バイプレイヤーとして活躍し、芸歴40年を迎えた俳優・光石研。現在、初の連続ドラマ単独主演作である『デザイナー 渋井直人の休日』(テレビ東京毎週木曜25:00〜)が放送中だ。渋谷直角の最新コミックを実写化した同作は、スマートに生きているように見える52歳独身のデザイナー・渋井直人が、次々に現れるヒロインたちに玉砕していく様を、クスッと笑える絶妙なさじ加減で描いている。

同局では2017年〜2018年には、テレビ東京系ドラマ『バイプレイヤーズ 〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜』に出演し、話題となっていた光石。なぜ今、光石研が求められているのか、本人にインタビューした。

○■原作漫画から「ぴったり」と言われていた

――光石さんがファッションやインテリアが好きということは、ちらりと知っていたのですが、このドラマの縁はどこから始まったんですか?

僕がこの作品を最初に知ったのは、「単行本の帯にコメントを書いてください」と言われたときなんです。渋谷(直角)先生のお友達のカメラマンの方が、「これはモロ、光石さんだよ」って言ってくれたみたいで。それで帯を頼もうとなったみたいですね。

――実際に読んでいかがでしたか?

確かにジャンルは違えど音楽が好きだったり、インテリアや洋服が好きだったりするところも似てるし、世代も近いですしね。

――渋井さんは毎回、最後にフラれてトホホなことになるんですが、光石さんはいかがですか?

怒られてトボトボ帰るみたいなことはしょっちゅうありますよ(笑)。仕事場では怒られることは減りましたけど、事務所の社長にいろいろ指摘されてトボトボ帰るとかね。

――渋井さんは惚れっぽいところもありますが。

なぜかテレ東さんのドラマではそういう役が多くて(笑)。『バイプレイヤーズ』では実名の役で、そこで不倫してる設定だったし、『下北沢ダイハード』でも実名の役で、タイトルも「違法風俗店の男」でしたからね。だから、これは僕じゃないよ、そんなことしてないよって言ってたんですけど、そういうイメージがあるんですかね(笑)。でも、この体で遊んでもらったらいいと思ってます。俳優ってそういうものですから。

――光石さんは、カルチャーを雑誌から学んだということでしたが、10代からずっとそうなんですか?

そうですね。田舎に住んでたから都会への憧れもあったんでしょうね。70年代中盤にカルチャー誌が出てきたときに、田舎の少年として飛びついたんです。音楽はこうだ、ファッションはこうだ、みんなはこんなところに住んでて、こんな遊びをしてて、とかそういうことを吸収してたんですかね。

――その頃、音楽的にはロックとかの時代でしたか?

当時はフォークが全盛で、ロックはKISSとかディープ・パープルとか、日本だとクリエイションとか。僕はオールディーズとかベイ・シティ・ローラーズとかのポップさに惹かれてて、明るいものにすごく惹かれたんですよね。

――その頃、周りの友達とはどんな話をしてましたか?

音楽はこいつ、ファッションはこいつ、という感じでそれぞれ別の友人と話してました。ファッションは田舎じゃなかなか買えないので、スーパーの2階にボタンダウン風のものがあったら、それを買ったりしてて。

――そんな学生時代に俳優になるわけですが、そこはカルチャーが好きな光石少年とはつながってることだったんですか?

映画に出たことに関しては、そこは全然関係なくて。ほんのちょっと「映画ってどんなもんだろう」という気持ちはあったんですけど、応募してくれたのも友達だし、俳優になりたいということではなかったんです。

――そこから憧れていた東京に来たときにはどうでしたか?

その頃には、俳優になると決めて出てきたので、俳優を職業としてやるという楽しみもどんどん膨らんでましたね。並行して、音楽に対しても嗜好が変わってきたりして、いろんなものを買えるようにもなってきたりしてきました。

――今は、上京したときの光石さんの年齢の後輩俳優さんとも共演がたくさんありますね。

今回で言うと、(岡山)天音くんとかもずっと一緒だけど、しっかりしてるな、と。僕のときはもっとふわふわしてましたからね。あの年代でプロフェッショナルとして立ってるから、僕が言うことなんてないし、こっちが勉強になるくらい。

――ドラマの中のアシスタントの杉浦くんとは真逆なんですね。

杉浦くんみたいな感じはないですよ、全然。ああいう役も台本を理解してものの見事にやってのける、自然だしテクニックもあるし、メンタルの感じもすごくいいですしね。

●上の人に押さえつけられる経験を、させたくない

――光石さんは、若手の頃にご一緒した先輩で思い出深い人は……。

それこそ、同じ事務所の先輩だった緒形拳さんにくっついて、いろいろ出させてもらいました。でも、甘えから生意気なことも言ってたと思うし、そんなに堂々と芝居してなかったし、ちゃらちゃらした芝居してたんじゃないかなって。

――現場とかの雰囲気も違ってたんでしょうね。

怖い先輩やスタッフさんもいました。それで礼儀や居方を覚えたってこともあったけど、やっぱり怖かったです。

――ドラマの監督の松本佳奈さんも記者会見で、「光石さんの威圧感のなさが良い」と言われてましたね。

やっぱり、上の人に押さえつけられるのは嫌じゃないですか。そんな思いはさせたくないというのは、どっかにありますね。ただ僕だって人間ですから、そういう思いを表に出してしまうときもありますよ。でもまあ、基本はフラットにやっていきたいというのはありますね。

――役になると、『共喰い』のときの怖い父親の役も、渋井直人のようなトボけた味わいの役もどちらもできるというのは珍しいのかなと思います。

僕の中ではどっちも自然で。もしかしたら『共喰い』のお父さんも、ああいうシーンの描かれ方だから怖い人みたいになってるけど、トホホなお父さんな部分もあったのかもしれないって。そこまで変わらないような気もしてるんです。

――オファーされる役って、どういうときから変化してきましたか?

20代のときは普通の男の子の役が多かったんです。30代になって青山真治さんの映画『Helpless』で、片腕のヤクザという役をいただいて、これまでそんな役をやったこともないのに振ってくれて、そこからそういう役も来るようになりました。ある人には普通のサラリーマンのイメージだし、ある人にはそういうヤクザのイメージも持ってもらえたみたいで、そこから幅が広がった感じですね。

――今までにやったことのない役をするときの気持ちは。

面白そうだと思いました。興味のほうが大きいというか。ホワイトカラーの官僚や銀行員をやるときは身構えることもあるんですけど、アウトローのほうが興味持てますね。

――両極端な役をやるというのは難しいものですか?

子供の頃から、僕の住んでた街にはいろんな人がいて、物まねするのが大好きだったんですよ。酒屋のおじさんのまねとか。そういうことが原点にあるので、違和感なくいろんなことをやれてるんですかね。それプラス、いただいた仕事を夢中でやってるのが大きいかな。それこそ『Helpless』のときなんて、それまでやったことない役だったからこそ、必死でやってましたもん。

○■未だに嫉妬することも

――光石さんは『バイプレイヤーズ』を見てもわかるんですが、何年も一緒にやっている俳優仲間がいるというのも、心強いのかなと思いますが。

そうは言ってもベタベタしてるわけでもないので、そこがいい距離感なのかなって。そういう人がいるというのは、ものすごく刺激にもなるし、うれしいですよね。ただ、ほかの人がどう思ってるかはわからないけれど、僕自身はすごく意識もするし、羨んだこともあるし、嫉妬したこともあいます。嫉妬は未だにします。「あの役やりたかったな」と思うこともあります。

――長年やってるとご苦労された時期もあると思いますが、それを乗り越えられたのは?

やっぱり腐っちゃうと終わりですから、腐らないようにはしました。僕がそれができたのは、末っ子だったこともあるんですけど、どっか楽観的なところがあるからでしょうね。若手の方にも、のびのびと思ったやり方をしてほしいし、自分もいろいろ押し付けないようにしたいなと思います。

――さっきも出ましたが、そういう光石さんの「威圧感のなさ」はけっこう今、ドラマでも求められてるのかなって。

そこは自分ではわかんないですけど、僕らも今までつけていた鎧をどんどん外しだしたんですかね。前よりももっと自然体になってきたというか。それは年齢によるのものかもしれないし、時代もあるかもしれないし、いろんなことが関係してそうなってるんですかね。

――だから、今「渋井直人」で主演するというのも、すごくあってるなって思います。

これはもう、僕がやりたいと言ってやらせてもらうわけでもないので。ほんとにありがたいという話でしかないですね。せっかくいただいた熱を、ほかの仕事にも生かしたいし、このテンションを保っていきたいと思っています。

■光石研

1961年9月26日生まれ、福岡県出身。1978年、16歳の時に映画『博多っ子純情』のオーディションを受け、主役に抜擢される。以降、様々な作品に出演し、大河ドラマやNHK 連続テレビ小説でも名バイプレイヤーとして活躍。2011年には第3回TAMA映画賞最優秀男優賞、2016年には第37回ヨコハマ映画祭・助演男優賞を受賞する。2017年〜2018年には、テレビ東京系ドラマ『バイプレイヤーズ 〜もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら〜』に出演し、話題を呼んだ。2019年はドラマ『インハンド』(TBS)、映画『ザ・ファブル』(6月21日公開)などに出演する。