バックチェリーが約3年ぶり通算8枚目となる新作『Warpaint』を3月6日に日本先行リリースする(海外発売は3月8日)。1999年のデビュー以来、内容/セールスの両面で快進撃を続けるLAロック・バンドの歩みを振り返りつつ、ニューアルバムでの最新モードに迫る。

バックチェリーはAC/DC、エアロスミスなど偉大なるロックンロール・レジェンドたちと同じ系譜に位置するバンドである。彼らは綺羅星のごとくシーンに現れ、セルフタイトルを冠した1stアルバムでデビューを飾った。遡ること、20年前の出来事だ。僕も冒頭の2曲「Lit Up」「Crushed」を聴いて、当時体中に電流が駆け抜けてバックチェリーの虜になった1人だ。この1stアルバムが出た1999年と言えば、猟奇趣味的激烈音楽集団・スリップノットが同じくセルフタイトルを付けた1stアルバムを発表し、メタル/ラウド・シーンを激震させた年でもある。その一方で、混淆物なしのロックンロールで真っ向勝負を挑むバックチェリーの音色に目が覚めるような衝撃を覚えた。

あれから20年、ここにオリジナルとしては通算8枚目になるニュー・アルバム『Warpaint』が無事完成した。無事、と書いたのには理由がある。ご存知の方も多いかもしれないが、前作『Rock n Roll』(2015年)発表後、ジョシュ・トッド(Vo)と共にバンドを立ち上げたオリジナル・メンバーでもあるキース・ネルソン(Gt)、加えて、2005年に加入したイグザビエル・ムリエル(Dr)のメンバー2人が2017年に脱退した。特にジョシュと二人三脚で苦楽を共にしてきたキースの脱退には心底驚いた。

時間軸を一気に巻き戻すことになるけれど、2ndアルバム『Time Bomb』(2001年)を発表後に当時のメンバーがバタバタと辞めてしまい、ジョシュとキースだけが残される形となり、バンドは機能停止状態に陥った。事実上の解散だ。その後、ジョシュは自身の名義でソロ作『You Made Me』(2004年)を発表したものの、しばらくしてバックチェリーは再結成に向けて動き始めた。そして、ジョシュとキースの深い絆をもとに新生バックチェリーは2005年に3rdアルバム『15』を作り上げる。この作品がじわじわとセールスを伸ばし、全米だけで100万枚という大ヒットを記録した。ちなみに表題は15日間でレコーディングしたことを意味しており、内容も生々しいヴァイブスを封印した会心のロックンロール作に仕上がっていた。

ジョシュとキースの2本柱にスティーヴィー・D(Gt)、ジミー・アシュハースト(Ba)、イグザビエル・ムリエル(Dr)の5人編成で再スタートを切った彼らは4thアルバム『Black Butterfly』(2008年)、5thアルバム『All Night Long』(2010年)と順調に作品をリリースし続ける。それからキリスト教の"7つの大罪"をテーマに据えたコンセプチュアルな色合いを浮かべた6thアルバム『CONFESSIONS』を完成。だが、その後にマネージメントと契約が切れてしまい、2014年に自身のレーベル「F-Boms」からド直球のタイトルを冠したEP『Fuck』を発表し、怒りをぶちまけたような切れ味鋭いロックンロールを叩き付けた。

2015年2月、バックチェリーはVAMPS主催のロックフェス「VAMPARK FEST」に招かれ、自身初になる日本武道館の舞台にも立っている。そこでジョシュとキースに対面取材した際、メンバー2人共にチープ・トリックの『at武道館』が行われた歴史的な場所だと、興奮気味に語っていたことを思い出す。また、現在のバンドの状態について尋ねると、「今はバンドの結束力が強いんだ。もはや家族のような存在だからね」とキースは答えてくれた。その言葉を裏付けるようにバンドは引き続き7thアルバム『Rock n Roll』を作り上げた。取材時に次作の構想について、「テーマ性も特にないし、あまり考えずに作りたいんだ」とジョシュは語ってくれたが、まさにそんな意気込みを反映した一枚であった。しかし、どれだけ親しい間柄でも、いつか亀裂は生じるもの。繰り返しになるが、ジョジュの同朋キースは抜け、イグザビエルがそれに続く形となり、バックチェリーはまたしてもバンドの再建を余儀なくされる。もはやオリジナル・メンバーはジョシュだけとなったが、彼はバックチェリーの看板を背負い続ける覚悟を決めたのだろう。

現在のラインナップはジョシュ、スティーヴィー・D(Gt)、ケヴィン・レントゲーン(Gt)、ケリー・レミュー(Ba)の4人。その編成で作り上げたのが、この8thアルバム『Warpaint』になる。今回はパパ・ローチ、ヘイルストーム、オール・ザット・リメインズなどの作品を送り出し、起死回生の3rdアルバム『15』を手がけたマイク・プロトニコフをプロデューサーに起用している。過去作と比較しても今作には新しい風が吹き込まれ、いい意味でバラエティに富んだ曲調が揃っている。1曲1曲が粒立ち鮮やゆえに、作品トータルで楽しめる一枚と言っていい。従来のバックチェリー・ファンを満足させながら、冒険心に溢れた作風がバンドを新たなフェーズに導いている。そこが素晴らしい!

今作の表題についてジョシュは「子供の頃はネイティヴ・アメリカンやウォーペイント(ネイティヴ・アメリカンの男子が戦いに出かけるときに顔や体に施す化粧)に魅了されたんだ。俺は救命ボートを断ち切って、命がけで何かに取り組んで振り返らない人が好きなんだ」と熱く語っている。それはまさしく今作の内容にも言えることだ。

1stシングル「Bent」で聴くことができる、勢いに満ちたモダンなロック感は文句なしのかっこ良さ。さらに驚くのは3曲目にナイン・インチ・ネイルズの1stアルバム『Pretty Hate Machine』のオープナー「Head Like A Hole」を収録していること。ジョシュ本人はトレント・レズナーと直接的な面識はないようだが、自分たちらしいサウンドを築き上げているという意味において、密かに憧れを抱いているそうだ。しかも原曲の力を借りているとはいえ、いままでのバックチェリーではあり得ないほど重心の低いヘヴィなサウンドでカヴァーしている。これはジョシュがスティーヴィー・Dに声をかけ、ジョシュ・トッド&ザ・コンフリクト名義で2017年に出した『Year of the Tiger』のフィードバックもあるのではないか。これまでになくラウドに振り切った音色がマッチした好作品だったから。まだ未聴の方がいたら、是非チェックして欲しい。

ほかにも「Backdown」「No Regrets」では女性コーラスを大胆に導入したりと、バックチェリーかくあるべし、という呪縛から解き放たれたような風通しの良さを今作から感じる。聴く者のケツを蹴り上げる豪快なロックンロール・ナンバーを揃えながら、多彩なアプローチを試みた今作は戦い続ける男・ジョシュの生き様が刻まれているようだ。

<リリース情報>



バックチェリー
『ウォーペイント』
発売日:2019年3月6日(水)日本先行発売
品番:SICP-6017
価格:¥2,400+税

=収録曲=
1. ウォーペイント
2. ライト・ナウ
3. ヘッド・ライク・ア・ホール ※ナイン・インチ・ネイルズのカバー
4. レディオ・ソング
5. ザ・ヴァキューム
6. ベント
7. バック・ダウン
8. ジ・アラーム
9. ノー・リグレッツ
10. ザ・ハンガー
11. クローザー
12. ザ・デビルズ・イン・ザ・ディテールズ
13. ジャングル・ラヴ ※日本盤ボーナストラック、ザ・タイムのカバー
14. バーン・レート ※日本盤ボーナストラック
15. カミカゼ ※日本盤ボーナストラック

配信先リンク:https://SonyMusicJapan.lnk.to/Warpaint