世界中で多くの企業が誕生していく中で、大きな成功を収めることができるのはほんの一握りです。しかしまれに、起業からわずか数年で巨額の利益を生み出す企業が現れることがあります。

そこで今回は、起業に関するビジネス用語「ユニコーン企業」について解説します。

ビジネス用語「ユニコーン」の意味を理解していますか?


○ユニコーン企業とは

ユニコーン企業とは、急成長を遂げ、世界的に高い評価を得ている未上場(ベンチャー)企業のことを指します。ユニコーン企業とされる具体的な条件としては、以下の3点が挙げられます。

企業価値(推定時価総額)が10億ドル以上

創業10年以内

非上場

一つ目の条件は、「企業価値(推定時価総額)が10億ドル以上」ということです。日本円に換算すると、1ドル110円の場合で約1,100億円以上になります。では、1,100億円という金額がどれほどのものなのか、1万円札を積み上げてみましょう。

日本のお札の厚さは0.1mとされており、実際に10枚分の厚みを測ってみたところ、ほぼ1mmでした。ということは、1万円札を1,100億円分積み上げた高さは1,100m。東京スカイツリーが634mですから、途方もない金額であることが分かりますね。

ちなみに、100億ドル以上の企業のことを「デカコーン企業(decacorn)」、1,000億ドル以上の企業を「ヘクトコーン企業(hectocorn)」と呼びますので、併せて覚えておきましょう。

二つ目の条件は、「起業してから10年以内」であることです。これは、ユニコーン企業=ベンチャー企業であるためで、「新事業」「急成長」といえる一つの基準として、10年という期間が設けられているようです。

三つ目の条件は「上場していないこと」で、ユニコーン企業のほとんどが小規模・中規模の企業から誕生します。

以上3点がユニコーン企業の必須条件です。そのため、一度ユニコーン企業と認識されても、10年以上経過あるいは上場した時点でユニコーン企業から除外されることになります。

○ユニコーン企業の語源

これほどの急成長と大きな成功を収める企業は、起業が盛んな米国でも極めて稀です。

ベンチャー企業を専門とする投資会社のことを「ベンチャーキャピタル」というのですが、その一つである『カウボーイ・ベンチャーズ』(米国・シリコンバレー)の創業者アイリーン・リーは、そんな希少な企業のことを、誰も見たことのない幻の一角獣ユニコーンになぞらえて、2013年に「ユニコーン企業」と命名したといわれています。

巨額の富をもたらしてくれるユニコーン企業の存在は、投資家にとってもまた、幻想のように希少な存在なのでしょう。

○日本のユニコーン企業

米CBインサイツによると、2019年7月末時点における日本のユニコーン企業は、AI開発の「プリファード・ネットワークス」と仮想通貨取引業の「リキッドグループ」の2社。

しかし、つい最近(2019年8月)になって、ニュースアプリの「SmartNews」の評価額が1,200億円に達し、ユニコーン企業の仲間入りを果たしました。これにより、現在の日本のユニコーン企業数は3社となっています。

○プリファード・ネットワークス(Preferred Networks)

AIの深層学習によって制御技術の開発を行う、いわゆるAI企業です。設立は2014年。主に製造業に向けてサービスを提供しており、トヨタ自動車、日立製作所、NTTといった大手企業と提携を結ぶなど、企業の評価額は3,515億円といわれています。

なお、同社は以下3つの事業に重点を置き、さらなるイノベーションの実現を目指しています。

(1)交通システム/自動運転およびコネクテッドカーに関する研究開発

(2)バイオヘルスケア/医用画像の解析、血液によるガンの早期診断技術の研究開発

(3)製造業/ロボティクスや工作機械への応用。物体認識・制御・異常検知・最適化技術の研究開発

○リキッドグループ

いち早く仮想通貨のプラットフォームをつくり、アジアを中心に事業を拡大。2014年の創業から5年の歳月を経て、今年(2019年)、ついに評価額が10億ドルを超えユニコーン企業となりました。現在、日本オフィスに約120人が働いているほか、ベトナム、フィリピン、シンガポールなど、世界で350人ほどが働いており、今後は、国境を超えたデジタル金融機関として事業を拡大していくという。

○スマートニュース(SmartNews)

スマートニュースは2019年8月5日、日本郵政キャピタルをリード投資家として総額31億円の増資を実施したことを表明。これにより、評価額は1,200億円を超え、ユニコーン企業の仲間入りを果たしました。同社は2012年に設立。ニュースアプリの開発で急成長を遂げ、日本と米国における利用者数は、あのヤフーをも凌ぐ月2,000万人に達し、世界で4,000万以上ダウンロードされています。

○メルカリ(※元ユニコーン企業)

フリーマーケットアプリの「メルカリ」は、かつて日本を代表するユニコーン企業でしたが、2018年6月に東証マザーズへ上場したことから、ユニコーン企業を卒業。その際、創業者である山田氏は「新たな価値を生み出す世界的マーケットプレイスを創る」というミッションのもと、世界挑戦を続けていく考えを示しています。

ちなみに、現在は上場しているフェイスブック社やツイッター社も、かつてはユニコーン企業でした。ユニコーン企業の多くが、世界的に有名になる傾向にあることが伺えますね。

○日本のNEXTユニコーン

評価額が10億ドルに満たないものの、ユニコーン企業まであと一歩という位置にいる企業のことを「NEXTユニコーン」と呼びます。スマートニュースも、つい最近までNEXTユニコーンでした。ここで、日本におけるNEXTユニコーンをご紹介しましょう。

※( )内は推定評価額。

Sansan /AIで名刺を資産に変えるクラウドサービスを提供。(506億円)

FiNCテクノロジーズ /健康管理アプリを開発。(356億円)

エリーパワー /大型リチウムイオン電池等の開発。(404億円)

フリー /クラウド型会計システムを提供。(394億円)

ビズリーチ /ハイクラス求人を主に扱っている転職サイト。(341億円)

Dely /レシピ動画サービス「kurashiru」を運営。(313億円)

○世界のユニコーン企業

米CBインサイツによると、2019年4月時点における世界のユニコーン企業数は335社。うち7割をアメリカ(151社)と中国(82社)が占めており、続く3位のイギリス(16社)や4位「インド」(13社)に大差をつけ、2強状態にあります。

同年1月時点では305社だったものの、およそ3カ月の間に新たに30社のユニコーン企業が誕生するなど、その数は急速に増えており、今では有名なウーバーやTikTokといったサービスも、ユニコーン企業の一つです。

では、世界にはどんなユニコーン企業が存在するのか。いくつかご紹介しましょう。

○ウーバー(Uber)・アメリカ

・評価額720億ドル

・配車サービス

スマートフォン経由で、運転手付きの高級車を呼ぶことができるライドシェア事業を展開。世界のユニコーン企業の代表格として名を馳せたが、2019年5月10日、ソフトバンクグループを筆頭株主に新規株式公開(IPO)を実施し、ユニコーンを卒業している。

○ウィーワーク(We Company)・アメリカ

・評価額470億ドル

・コワーキングスペースの運営

2018年8月時点で、世界23カ国287拠点においてコワーキングスペースを提供。「ただ生きるのではなく、生きがいを感じられる世界をつくる」というミッションのもと、世界中のクリエイターに機能的で快適なワークスペースを提供することはもちろんのこと、そこから生まれるコミュニティ作りや、多様なサービスの提供を行っている。

○バイトダンス(Bytedance)・中国

・評価額750億ドル

・アプリ運営

2018年、世界で最もダウンロードされたアプリTick Tockを運営。Tick Tockとは、15秒のショート動画をシェアできるアプリで、ダンスや口パクといった動画が若者を中心に人気となっている。

○ディージェイアイ(DJI)・中国

・評価額100億ドル

・ドローン

民生用のドローン市場で世界シェアの7割を担う、マルチコプターの世界的リーディングカンパニー。ドローンの活用方法は空撮だけに留まらず、農業(観察・農薬肥料散布)、交通インフラ(橋の点検など)、救援活動(被害確認・救助者探索・物資搬送)など、今後も多方面における活躍が期待されている。

○オヨ・ルームズ(Oyo Rooms)・インド

・評価額43億ドル

・格安ホテル予約サービス

30項目の厳格なチェックリストを通過したホテルのみを掲載することで、安心して格安ホテルを予約できるサービスを提供している。

○ユニコーン企業になるために

ユニコーン企業とされる条件についてはお話ししましたが、では、どうすればユニコーン企業になれるのでしょうか。

世界のユニコーン企業を業種別にみると、「ソフトウェア&サービス」や「eコマース」「フィンテック(金融×IT)」が多くを占め、次いで「AI」「ヘルスケア」「運送・配送業」と続き、ソフトウェアやIoT関連の分野から多く輩出されていることが分かります。

また、タクシー配車サービスのUberのように、いち早く決済サービスにITを取り入れたことで成功を収めた例も多く、IT技術をいかに事業に活用するのかが、ユニコーン企業への第一歩になるのかもしれません。

とは言え、資金が調達できなければビジネスは進展しません。アメリカには、ベンチャー企業を専門とする投資会社「ベンチャーキャピタル(VC)」が多数存在しており、ここから資金を調達するのが一般的です。

ただし、VCから投資してもらうには、それだけの価値と魅力がある企業(事業)であることを明確に示さなければなりません。

まずは、しっかりとしたビジネスモデルを確立し、「この企業には、このビジネスには10億ドル以上の価値がある!!」と思わせるだけの将来性をいかにアピールできるかが重要といえるでしょう。

○なぜ日本にはユニコーン企業が少ないのか

先に述べたとおり、日本のユニコーン企業数は非常に少ないのが現状です。なぜでしょうか。

まずは、資金調達が困難な環境であることが挙げられます。前述のとおり、VCから資金を調達できればいいのですが、そもそも日本は、他国に比べて投資家の数が少ないのが現状です。

さらに、VCが2017年に投資した年間総額は、日本が2,000億円弱であるのに対し、中国は3兆円強、アメリカは9兆5,000億円を超えるなど、その差は歴然です。

日本における資金調達は、金融機関からの融資が主流であったため、ビジネスに失敗した際の起業家本人が負うダメージは非常に大きく、個人破産に追い込まれるケースも少なくはありません。

こういった事例から起業に対してネガティブなイメージを抱いている日本人は多く、起業家を目指す人が非常に少ないのも日本の課題となっています。

さらに、保守的な日本人の性格から、成功よりも失敗した時の損失を恐れて尻込みしてしまう傾向にあり、たとえ本人にやる気があっても、家族など周囲の反対を受けて断念する人も多いのではないでしょうか。

一方アメリカでは、VCから資金を調達することで、たとえ失敗しても起業家が損害を被ることはなく、損をするのは出資者です。

また、アメリカでは起業家や投資家だけでなく、スタートアップを加速させるのを得意とする人など、起業後、急成長を成し遂げるのに必要な人材が豊富です。さらに、一度起業に失敗しても、二度、三度と挑戦する人が多いのも、日本との大きな違いといえるでしょう。

こういった環境や考え方の違いが、日本のユニコーン企業の誕生を阻む大きな要因となっていることは否定できませんが、中には、単に母体となる人口数が少ないためであり、人口比率で比較すれば、日本のユニコーン企業数が少ないとは言い切れないという見解もあるようです。

いずれにせよ、大きな成功を収めようと強い野心を持った起業家と、そこに夢をみようとする投資家。両者が揃いタッグを組んだところに、ユニコーン企業誕生の可能性が芽生えるのではないでしょうか。

○ユニコーン企業の今後と経産省の取り組み

経済産業省は2018年6月より、グローバルに活躍するスタートアップを創出するためのプログラム『J-Startup』をスタートさせました。同プログラムの目的は、「2023年までに、ユニコーン企業または2018年度当初時点で創業10年未満(未創業も含む)であった上場企業を20社創出すること」とされています。

はじめに、実績のある外部有識者からの推薦に基づき、J-Startup企業を選定。2019年の選定については、「オープンイノベーションの促進」「海外展開」「地域の有望スタートアップの発掘」の3つの観点が重視され、結果、49社の新たなスタートアップがJ-Startup企業として選定されました。

経産省は、こうして選ばれたJ-Startup企業に対して、官民が連携して集中的に支援を行っていくとしています。

いくら起業しやすい環境が整備されたとて、ヒットしなければユニコーン企業にはなれません。ユニコーン企業への最大の鍵は、「いかにユニークで新しい事業を発想できるか」にあるのではないでしょうか。

今後、日本にどんなユニコーン企業が現れるのか、新たなビジネスの誕生に期待したいと思います。