内田篤人は川崎フロンターレ戦で伊藤翔の同点ゴールをアシストした【写真:Getty Images】

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内田らしさが詰まった絶妙アシスト

 鹿島アントラーズが苦しんでいる。川崎フロンターレと対戦した1日のJ1第2節で引き分け、リーグ開幕から2試合勝ちがない。そんな中、キャプテンの内田篤人は訴える。タイトルを勝ち取るために何が必要なのか、今のチームは何をしなければならないのか。背番号2は熱かった。(取材・文:舩木渉)

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 右ひざには黒いサポーターが厳重に巻かれ、接触プレーで地面に倒れこめばヒヤリとする。これ以上彼のプレーが見られなくなってしまうのではないか…というくらいの脆さすら感じさせる。だが、内田篤人は何度でも立ち上がり、勝利に向かって走り続ける。

 現代のサイドバックのお手本のような選手だ。プレーの1つひとつが実に知的で、スマートさも泥臭さも兼ね備える。いまだに日本代表に彼がいれば…と思ったことは一度や二度ではない。その存在感は今季の鹿島アントラーズでも健在だった。

 去る1日に行われたJ1リーグ第2節の川崎フロンターレ戦で、内田は今季初のスタメン出場を果たす。おそらくコンディションは6割か7割か、いずれにしろ万全でないのは一目でわかった。それでもパフォーマンスの質の高さは相変わらず。伊藤翔のゴールをアシストしたロングフィードの判断には内田らしさが詰まっていた。

「本当は適当にボンって前に蹴ろうと思ったんだけど、翔が裏に動き出したら速いボールを蹴ろうかと。でも、速いボールだと裏につーんと抜けちゃうから。もう足を振りかぶっていたからわからないけど、たぶん翔とDFがぶつかっているんだよね。それで『これはいける』と思って、GKとDFの間に途中で変えた。翔がよく決めたよ、あれは。トラップもうまかった。キックした人もうまかったけどね(笑)」

 飄々と語り、最後に冗談を付け加えるから軽い内容に聞こえてしまうが、まさに駆け引きの妙が詰まっている。右サイドバックとしてボールを受け、プレッシャーも受ける中で、最も遠くにいるFWの動きも確認して、その次の展開も予測したうえで、プレーの判断を一瞬で変える。これを同じように再現できるサイドバックが日本に何人いるだろうか。

小笠原満男がいなくなり…

 試合は1-1の引き分けに終わった。フロンターレのスタイルと強さは重々承知の上で、鹿島としては押し込まれる時間が長くなることも織り込み済み。大分トリニータと対戦した開幕戦を落として迎えたアウェイでの一戦、2連覇中の相手から勝ち点1をもぎ取っても、内田は「結果には満足していない」と言い切る。

「早い時間に1点取られても、逆にまだ追いつける時間もあれば、憲剛さんのフリーキックがきれいすぎたので、『しょうがない』という雰囲気はありました、正直。そこから前半は1-1に追いつけたので、あれで0-1のまま前半終わると、1-1でロッカーに帰って監督の指示を聞いたり、俺が喋るとかがあれば粘れる。でもOKじゃない。むしろ俺らはアウェイで、フロンターレはああいうチームで優勝しているから、現状に満足はしていない」

 クラブの象徴だった小笠原満男が昨季限りで引退し、内田は今季からキャプテンマークを巻く。これまで以上に影響力が大きくなって、一時代を築いてきた選手たちがいなくなったからこそ、背番号2は鹿島の「鹿島らしさ」を取り戻そうと若手の増えたチームにメッセージを発信し続ける。

 昨年のある時、彼はこんなことを言っていた。「ヤナギさん(柳沢敦)がある試合のウォーミングアップの前に、『アントラーズはいっぱいタイトルを獲ってきたけど、その時々の人が頑張ってきた。名前で獲れるものではない』と言ったんだよね。本当にそう。今出ているメンバーで勝たなきゃいけない」と。

 当時トップチームのコーチを務めていた柳沢は、鹿島の選手としてリーグ優勝5回、ヤマザキナビスコカップ(現YBCルヴァンカップ)優勝3回、天皇杯優勝3回など数々のタイトルを獲得してきた。今につながるクラブの歴史を築いてきたレジェンドの言葉は重い。

 昨年初めてAFCチャンピオンズリーグを制して20個目のタイトルを獲得したが、リーグ戦は3位、天皇杯とルヴァンカップはともにベスト4と、“常勝”と言われるかつてのような姿を取り戻すにはあと一歩が足りなかった。

 ならば今季、小笠原がいなくなったチームで強い鹿島を体現しよう。内田はその思いを胸に刻み、周りの選手たちにもより強く成長することを求める。フロンターレと引き分けて、何が今の鹿島に足りないのかも明確になった。

「チームとして今日のテーマに『忍耐』というのはあったと思う、正直。パスを回して、自分たちからスペースを取りにいって、それを相手に使われるくらいなら、カチッと守ろうとすれば、たぶん鹿島は守れる。それを変にプライドを持って、取りにいこうとしたら、やられると思う、今の鹿島は。俺が昔いた時は、1人ひとりがサッカーを知っていた。昔の中盤、黄金世代のね、特に戦術はなかったけど、あの人たちは時間と相手チームと(自分たちの)チーム状況を考えて、勝ってきた

若手に求める圧倒的な成長

 ただ、もう「昔の中盤、黄金世代」はいない。若手も増えた。今季から10番を背負うことになった安部裕葵は20歳になったばかりで、フロンターレ戦に左センターバックで先発した町田浩樹も21歳、左サイドバックには23歳の安西幸輝が起用されていた。

 内田は言う。

「今はみんなまだ若い。裕葵も若いし、町田も、ワンちゃん(犬飼智也)も。レオ(・シルバ)とか(クォン・)スンテとか、ポイント、ポイントでやってくれる選手はいるとはいえ、ポテンシャルはあるけどまだ若いし、昔の人たちの方がサッカーを知っていた。その中で俺みたいなやつが声を出して粘れるところまでいけば、ポテンシャルはあるから。そこからはあいつらの技量に任せる感じだね」

 フロンターレ戦での内田は、アシストの場面以外で決して目立たなかったかもしれない。だが、選手のパフォーマンスを点数化している『Sofascore』のレーティングでは10点満点中「7.6」を記録し、これは鹿島の選手の中で最も高く、試合全体を見ても相手の中村憲剛に次ぐ数字だ。

 地味でも際立ったパフォーマンスを見せれば正当に評価される。確かに要所には必ず黒いサポーターを右ひざに巻いた内田の姿があった。フロンターレに押し込まれてゴール前での守備を強いられれば、最後の最後まで粘って足を出す。攻撃に移れば、スッと前に出て相手の選手の背後を突いたり、前がかりになる見方の後ろに入ってサポートしたり自在に動き回った。どんな時でも身振り手振りを交えながら周りの選手に指示を出して、盤面を動かす。

 サイドバックは単にタッチライン際を上下動するだけではなく、ゲームメイクもできる。その現代的なプレースタイルの基準を内田は身をもって示している。「今日はサボりたいから、しゃべって周りを動かしていただけだよ」とうそぶくが、90分間で10.115キロという走行距離も「サボり」が一切なかったことを証明していた。

内田がサポーターに「言い返した」理由

 そんな内田が、試合後に珍しく“キレた”。しかもサポーターに対して。等々力陸上競技場のアウェイ側スタンドから、開幕して2試合勝ちのないチームへの不満が噴出した。しかし、キャプテンとして矢面に立った彼は面と向かって言い返した。サポーターも“鹿島らしく”あってほしい。内田なりのメッセージだった。

「今日の戦い方に関して、あーだこーだと言われるのは、キャプテンマーク巻いていますけど、そこはちょっと納得できなかった。こうやって平日に応援しにきてくれているのは本当にありがたい。その中で、アウェイの(相手の)サポーターが見ている中で、自分たちのサポーターにブーイングされるのは、『ああ、鹿島うまくいっていないんだ』と思われても仕方ない。そこは隠してでも、次に向かわなきゃいけない。

そこは選手だけじゃなくてサポーターも、1個レベルの高い話だけど、そういう関係性を築きたいなと思っているし、僕も向かっていきましたけど、笑いながら話せるくらいの代表者が1人くらいいてくれたらいいというか、いや感謝していますよ。そういう声で僕なんかやってきて、若い選手のプレッシャーだったり、チームとしての勝たなきゃいけないという雰囲気を作ってくれるので。そういうのはあった方がいい。ただ、みんなを守らなきゃいけないのでね、僕は。チーム自体を、選手を。だから言いました」

 サポーターとのやりとりを見て、昨年末にスペインで観戦したレアル・マドリーの試合を思い出した。ホームでラージョ・バジェカーノに大苦戦を強いられたマドリーの選手たちは、1-0で勝利したにもかかわらずスタンドのファンからブーイングを浴びた。翌日の『マルカ』紙の1面は「退屈なベルナベウ」と見出しが打たれ、不甲斐ないマドリーに対して辛辣な記事が並ぶ。

 彼らはピッチ上の“勝者”でありながら、同時に“敗者”でもあった。「マドリーたるもの王者たれ」というファンからのメッセージ。一時の勝利にあぐらをかくのではなく、常に勝者でなければならない。それこそが“王者”だと。あのラージョ戦の後、マドリーはすぐにUAEに飛んでクラブワールドカップに臨んだ。鹿島はそこで再び“白い巨人”に敗れ、力の差を見せつけられた。本当の意味での強さを手に入れるには、まだまだ道半ば。常に勝者であり続けるため、内田はサポーターにも単なる“勝者”を超えた振る舞いを求める。

 昨年ドイツから日本に復帰して、右ひざの状態を確かめながら徐々に週1試合のペースで出場するようになったが、まだ万全な状態から程遠い。今季開幕前のキャンプは別メニュー調整が続いたという。でも、内田にはまだまだチームに貢献できる自信はあるし、キャプテンとして先頭に立って鹿島を引っ張っていかなければいけないという自覚や責任もある。

 その強い思いで、内田はピッチに立ち続ける。キャプテンとして臨む今季は、リーグタイトルを取り戻して鹿島の強さを証明するためのシーズン。誰かが1人で頑張るのではなく、チームとして勝ち続けるためには若手の成長も、サポーターの成熟も必要だと彼は考えている。名前や過去の栄光だけでタイトルが獲れるわけではない。

 鹿島に負けは許されない。引き分けでもダメ、追い求めるのは勝利のみ。鹿島アントラーズよ王者たれ――それこそが内田篤人という男が背中で示し続ける、唯一にして無二のメッセージなのではないだろうか。

(取材・文:舩木渉)

text by 舩木渉