たいしたことのない話でも面白くしてしまう、「ウケる」話術とは?(写真:metamorworks/PIXTA)

最近は「コミュニケーション能力」が新入社員に求められる能力の1位となるなど、「面白い話をすること」に対するニーズが、以前より高まっています。その一方で、どんなに頑張っても「面白い話ができない」「スベってその場の空気が凍ってしまう」という悩みを持つ人も増えています。
そこで今回は、「一般社会でウケるために必要な “ちょっとしたコツ”」について、放送作家の渡辺龍太氏が、著書『ウケる人、スベる人の話し方』から解説します。

聞き手の想像を裏切る話の構成になっている

冷静に聞くと、たいした内容ではないのに、ウケる人が話すと、面白く聞こえるということはよくあります。例えば、千原ジュニアさんは、テレビで腹が立った後輩の話などを、よく披露して笑いを取っています。しかし、そのダメな後輩について、ジュニアさんほど売れていない芸人が語ると、たいして笑えなかったりするのです。

どうして、同じ人物の話をしているのに、笑いに違いが生まれるのでしょうか? それは、ウケる人は、つねに聞き手の想像を裏切るように、話を構成しているからです。一方で、スベる人は、聞き手の予想と実際の話とのギャップが小さめで、事実を時系列順に淡々と伝えているだけだったりします。

さて、私にも、笑える困った後輩がいます。その人のダメっぷりを、先に紹介したジュニアさん風に紹介すると、次のようになると思います。

「1年ぐらい前、アラサーの後輩たちと一緒に旅行に行く予定だったんですよ。でも、1人から出発の2日前にLINE で『旅行はキャンセルさせてください』って連絡が入ったんです。その理由が、アホすぎてビックリしました! だって、『自主映画の制作のため』ですよ(笑)。斜め上を行きすぎでしょ!

しかも、そいつに『何で急に映画を撮ることにしたの?』って聞いたら、『金欠だったから』とかわけのわからないこと言うんですよ。

だから、『どういうこと?』って聞いたら、自分なら映画祭で賞金取れるって感じて、全然違う仕事してるのに、自腹切って、生まれて初めて映画撮影したらしいんですよ。そしたら、思ったより大変だったらしく旅行に行けなくなったって言ってました。完全に世の中なめてますよね! ちなみにですけど、その後輩、結局賞金は取れなくて、制作費の出費だけが残ったって言ってました!(笑)」

早速、聞き手の予想と、実際の話とのギャップを順番に見ていきましょう。そもそもの基本として、意外なことと、笑いとは近い関係にあります。ですから、とにかく、相手に「えー!?」と言わせるように話すのがポイントです。

最初、「旅行のドタキャンが起きた」と言い、聞き手に、その理由を想像させます。重要なのは、その次の発言「その理由が、アホすぎてビックリしました!」です。なぜなら、これを言うことで、聞き手に「身内の不幸などの一般的な理由ではない、アホなドタキャン理由って何だろう?」と、想像する時間を与えているからです。

聞き手に先の展開を読む行為を促す

そしてその直後、キャンセル理由が「自主映画の制作」であると明かされます。おそらく、理由を聞く前に「自主映画の制作」と想像できる人は、1人もいないはずです。ですから、聞き手は「えー!?」となって、笑いが生まれるのです。その後も、同じ仕組みで、聞き手の予想を裏切る、驚きの笑いの連続になっています。

・「映画を撮った理由は何?」→「金欠だから」→「えー!?」
・「映画撮ると稼げるの?」→「うん、でも映画撮るのは初めて」→「ええー!?」

先の例文で下線が引いてある部分は、聞き手に「あなたの予想は何ですか?」と考えさせる時間を作るための部分です。そこで時間を設けて、聞き手に先の展開を読むという行為をあえて促すことが重要です。なぜなら、それをした後に、とても意外な展開を話し手が提示すると、聞き手の驚きは倍増するからです。

自分の体験をウケる話として披露したければ、「意外なことを言う前に、相手に予想させる」ことを肝に銘じてください。それだけで、話がかなりウケるようになります。

また、今、紹介したような構成テクニックを使って、ウケる話をするために知っておくべきこととして、「ウソなく正直に気持ちを伝えること」があります。

NHKの『鶴瓶の家族に乾杯』という番組を見たことがあるでしょうか? 司会の笑福亭鶴瓶さんが、町で出会ったさまざまな素人の方と接して会話を繰り広げていく番組です。

この番組で、鶴瓶さんは、強烈なボケをかました素人の腕を掴んだりしながら、「この人、こんなこと、言うてはりますけど、ホンマはスゴイ社長さんでっせ!」と、満面の笑みで会話をしながら笑いを取っています。

大物はウソを言わない

その発言は、ただテンションを上げようとしている若手芸人と違い、ウソっぽくなく、自分の感じたことを正直に表現しているように見えます。だから、視聴者も「そうだよね!」と共感して、思わず笑ってしまうのです。

一方、こうした大物タレントの「正直さ」について、私の目から見て、多くの人が誤解しているな、と思うところが2つあります。

まず1つ目は、大物タレントの演技力が高く、ウソをウソっぽくなく見せる技術が高いという誤解です。もちろん、そういう技術を持っている人もいます。しかし、実はウソをウソっぽくなく見せるスキルは大変に高度な技術です。むしろ、多くの大物が持っている技術は、自分の正直な気持ちをウソなく正確に伝えるという技術なのです。

2つ目に、彼らは大物であるためにウソをつく必要がなく、いつでも自分の思ったことを言えているという誤解があります。しかし、これは順番が逆です。自分の正直な気持ちをウソなく正確に伝える技術を磨いたからこそ、大物になったのです。それだけ、ウケる人になるためには、ウソを避けるということが、とても重要なのです。

それにしても、どうして話にウソがあると、スベる人になってしまうのでしょうか? 実は、笑いが起きるためには、その過程のすべてがクリアである必要があるのです。要するに、会話の内容や流れがよくても、ウソっぽい感じが少しでもした瞬間、聞いている側は「それ、ウソだよね?」と困惑して意識が逸れてしまい、笑えないのです。

そうはいっても、ウケようと思うあまりに、ついついウソをつきたくなってしまうこともあるはずです。そこで、正直に話すためのコツを紹介します。とにかく、会話をしている相手を信頼することです。あなたが面白いと感じることを伝えれば、ウソをつかなくても、相手は、必ず面白いと感じるのです。

そういったことを続けていくと、一石二鳥で、聞き上手にもなります。そして、相手の話を聞いて、自分が正直に面白いと思ったところを、相手に詳しく質問してみましょう。

相手が興味のない話をしているときはどうする?

この流れがうまくいくと、正直に話す人と思われるだけでなく、「他人の面白い話を引き出すことができる人」と周りから見え、ウケる人と思われる可能性が飛躍的に高まります。


とはいえ、相手が自分にとって興味のない話ばかりしている場合は、どうしたらよいのでしょうか? そういうときは、とにかく、自分がその話に興味を持てるように、細かく「どういうこと?」と、質問してみましょう

話題を細かく掘り下げると、「そういうことだったんですね!」とか、「難しすぎましたね」と、どこかでお互いが共感する瞬間がやってきます。そういうときは、あえて冗談などを言って笑いを起こすのとは違う、「共感」から発生する自然な笑いが起きることが多くなります。

このように、会話している相手を信頼して、自分が興味を持てることについて正直に話すこと。これが、自然にウケるための何よりの最短距離なのです。