昨年、日本では多くの業界で副業が解禁されました。今後、われわれの働き方はどう変わっていくのでしょうか(写真:Geber86/iStock)

今から20年前、筆者がミュージシャンを生業としていた頃は、ライブハウスで、毎晩のように“ギグ”をやっていた。ギグとは「中小規模なライブハウスなどで行われるライブ」と思われがちだが、本来は「1回単位での契約に基づいて行われる仕事」のことを指す。つまり、その日だけの単発のライブのことだ。

欧米では4、5年ほど前から、このギグという語が転用され、音楽だけではなく幅広い形で「単発の仕事を受注する働き方や、その単発の仕事によって成り立つ経済活動」を指す形で使われ始めている。いわゆる「ギグエコノミー(Gig Economy)」と呼ばれるものだ。多くの場合、メインの仕事、いわゆる本業に対してサイドギグ(副業)という形で使われている。

以前は、こういった副業は「ムーンライトジョブ(Moonlight Job)」と呼ばれた。(本業が終わった後の)夜間に行う仕事という意味合いが非常に強かったが、近年では副業をしやすくする環境が整ってきたことで、あえて夜間のバイトでなくても十分副業が可能な状況が生まれている。

アメリカ人の25%が副業を持っている

そういった流れを受けてか、今やアメリカの成人男女の4人に1人は副業を持っているとも言われている。さらにミレニアル世代(1987年から1995年あたりに生まれた世代)に限定すれば約半数が副業持ちだ。また今後は、この動きがさらに加速していくことが予測されている。2018年10月時点で、アメリカ内でフルタイム、パートタイムを問わず、何らかの形でフリーランスとして仕事を得ている労働者は約5670万人になるそうだ。

この中で、フルタイム(つまり、まったく企業や組織などから雇用されていない)のフリーランスは28%。つまり72%は、どこかに雇われながら、フリーランスとしても活動している。これは、いわゆる副業としての扱いとなるし、そう考えると、アメリカで副業は半ば当たり前のような状況になっている。

一方で日本は、これまで副業の是非、そしてあり方が盛んに議論されていたが、昨年から一気に副業が容認される方向へと転じている。実際、2018年はまさに「副業解禁元年」だったと言えるだろう。これまでは副業を容認している企業といえば比較的IT企業が多かった印象ではあるが、昨年からエイチ・アイ・エス(HIS)、ユニ・チャーム、そして新生銀行など、幅広い業界で副業が解禁されるようになった。

日本で「副業」が注目集める理由

昨年が「副業解禁元年」となったのには、大きな理由がある。それは1月に厚生労働省が行った「モデル就業規則」の改定だ。もともとは、戦後、旧労働省が作った就業規則の雛形の中で、副業に関する遵守事項として「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という形で、原則禁止となっていたことに端を発している。

昨年の改定で、この記載が削除され、新たに「副業・兼業」という章が追加された。これには「勤務時間外において他の会社等の業務に従事することができる」と、副業を容認するスタンスが示されている。つまり「原則禁止」から「原則自由」へと、180度変わってしまったわけだ。

最も、180度変わったからとはいえ、いきなりアメリカのような“副業大国”になるということはないだろう。それは、日本企業における雇用形態によるところが大きい。

モデル就業規則には、昨年「第14章」として設けられた「副業・兼業」という章には「事前に、会社に所定の届出を行う」ことによって「勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」と書かれている。だが、これは「労務提供上の支障がある場合」「企業秘密が漏洩する場合」「会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合」、そして「競業により、企業の利益を害する場合」においては、企業は副業の禁止や制限を行うことができるとされている。

いわゆる日本企業式の雇用形態を前提に考えると、これらを、どう線引きするかが、アメリカ企業と比べて難しくなる。なぜなら、多くの場合、社員がどういう業務をするべきかが、アメリカ企業ほど明確に定義されていないからだ。

少なくともアメリカ企業の場合、企業は社員に対して、本来遂行すべき業務と、期待される結果、つまり「ジョブディスクリプション(Job Description)」を定義する。社員は、ジョブディスクリプションによって定義された業務を遂行し、期待される結果を出せば、あとはいくらでも副業に時間を充てることが可能になる。もともとすべき業務が明確になっているからこそ、その業務に割当てられる時間も明確になるし、そのうえで、どの程度の時間を副業に充てられるか、つまり「労務提供上の支障」が発生しない時間を考えやすい。

また、社員が本来するべき業務が明確に定義されていれば、何が「競業により、企業の利益を害する場合」となるかも明確にしやすくなる。本来社内で業務としてやらなくてはならないことが明確になっていることで、何を社外に提供することで「競業」となるかも、合わせて明確にすることができる。

しかし、日本企業の場合、このジョブディスクリプションが明確になっていないことが、本業と副業の境界線を曖昧なものにしてしまっている。副業をしやすい状況を作るのであれば、まずは、個々の社員のジョブディスクリプションを明確にするべきだろう。

2027年にはフリーランスが「多数派」に

ジョブディスクリプションが明確になることで、社員は本当の意味で「プロ」になることが求められる。ジョブディスクリプションが定義されるということは、言い換えれば「業務が専門化される」ということだ。その業務に従事する社員は、もちろん、その専門化された業務においてスペシャリストになることが期待されているし、当然高いプロ意識が求められる。

社員が、それぞれの担当領域において高いプロ意識を持ち、スペシャリストとなるということが求められれば、企業と個人の関係は、よりドライなものになってくる。社員には「より自分を高く買ってくれる企業に対して、自分の専門性を売る」という感覚が強くなるだろうし、企業には「より専門性の高い社員を雇う」という感覚が強まるはずだ。いわば、企業とフリーランスの関係に近くなる。

これは、まさにアメリカ内でフリーランスが増えてきている背景でもある。ある調査では、2027年にはフリーランス人口が非フリーランス人口を上回るとも予測されている。

副業が当たり前になるということは、言い換えれば、社員のフリーランス化が加速するということ。それは、今まで以上に実力社会に突入するということを意味しているのだ。