1月のアメリカ・デトロイトモーターショーでお披露目されたトヨタの新型「スープラ」(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

今年1月のアメリカのデトロイトモーターショーにて、新型トヨタ・スープラが公開され、豊田章男社長がスープラ復活への思いを熱く語った。日本での発売は、今春の予定だ。

スープラの誕生は、1978年にさかのぼる。当時国内では、セリカXXとして発売された。セリカXXは、1970年に誕生したセリカが直列4気筒エンジンを搭載したのに対し、直列6気筒エンジンの上級車種として追加された経緯がある。

アメリカ市場で人気沸騰した日産フェアレディZとの競合が望まれたという説もあるようだが、フェアレディZが2人乗りスポーツカーであったのに対し、セリカXXは後席のある5人乗りだ。ただ、直列6気筒エンジンを搭載するところは共通する。

セリカXXは、そのようにアメリカ市場を視野に入れていたことは間違いなく、輸出に際してはスープラの車名が当初から使われてきた。XXという表現が、映画の成人指定などで使われる現地の状況に配慮したとも言われる。

直6エンジン搭載は原点回帰

いずれにしても、直列6気筒エンジンであることがセリカXXおよびスープラの起源であり、デトロイトショーで発表されたスープラが直列6気筒エンジンを搭載したことは、原点回帰であるのだ。ただし今回は、直列4気筒エンジン車も併売される。


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直列6気筒エンジンは、エンジンとして最高の持ち味を発揮できる形式としてクルマの愛好家から長年にわたり熱い視線を注がれてきた。理由は、6気筒が順に燃焼することにより振動が少なく、回転が滑らかで、上質な加速を味わえるからである。同じことは、直列6気筒エンジンを2つV型に並べたV型12気筒エンジンにもいえる。

その昔、ガソリンエンジン自動車が誕生して間もない時代には、直列8気筒エンジンなどという長いエンジンもあったが、自動車技術が発達する過程で直列は6気筒までが常識となった。8気筒以上は、V型とすることでエンジン本体の全長を短くし、車体に搭載しやすくした。

6気筒エンジンも1990年代以降、衝突安全への期待が高まるとともにV型6気筒へ移行し、直列6気筒エンジンは極めてまれな存在となった。実際、スープラも2002年に生産をいったん終了している。エンジン全長を短くすることにより、前面衝突の際に衝撃を吸収する空間をフロントバンパーから客室の間に確保する必要が生じたからである。

同じ6気筒でも、直列6気筒とV型6気筒では、振動の要件が異なる。V型6気筒は直列3気筒エンジンをV型に並び替えたのと同じであり、直列3気筒エンジン特有の振動が残るのである。

したがって、同じ6気筒とはいえ、直列6気筒エンジンに憧れてきた人たちにとって、V型6気筒エンジンはもはや憧れる存在ではなかった。それなら、V型8気筒エンジンのたくましい振動のほうがましというものだ。というのも、V型8気筒はいうまでもなく直列4気筒をV型に並べたものであり、直列4気筒エンジンは独特の振動を伴いながらも、刺激的な加速をもたらすエンジン形式であるからだ。

以来、直列6気筒エンジンはV型12気筒エンジン含め、世の中からほとんど消えたと言っていい。わずかに、BMWが特別なスポーツ車種や、ハイブリッドシステムに直列6気筒エンジンを残す程度となった。

ベンツS450に直6エンジン搭載

しかしここにきて、直列6気筒エンジン復権の動きが起きた。昨年発売されたメルセデス・ベンツS450に、直列6気筒エンジンとISG(モーター機能付き発電機)を組み合わせて新開発し、搭載してきたのである。

このエンジンは、徹底的な寸法の縮小と、通常エンジンの前側にあるベルト駆動による補器の可動部分を電動化によりなくすことによって、エンジン全長を短くした。ボンネットフードを開けてエンジンを見ると、とても直列6気筒とは思えない短さだ。

S450の乗り味は、まさに直列6気筒エンジンの滑らかを存分に発揮し、洗練された加速をもたらす。なおかつ、ISGと電動スーパーチャージャー、さらには排気によるターボチャージャーの組み合わせにより、発進の低回転域から力強く速度を上げていく。その感触は、あたかもモーターのようだ。

メルセデス・ベンツは、電動化の時代を前にモーターへの橋渡しとして直列6気筒エンジンを復権させたのだと私は考えた。エンジンの中で最も上質で滑らかな加速をもたらすのが直列6気筒エンジンであり、それはモーター時代への架け橋になる。実際、S450はエンジンで走っていながら、エンジンであることをあまり意識させない。よほどアクセルペダルを深く踏み込まなければ、モーターで走っていると言われてもおかしくないほどだ。

究極のエンジンとして憧れられてきた直列6気筒エンジンやV型12気筒エンジンが求めてきたものは、まさにモーターらしい滑らかさと静粛性だといえる。かつて、V型12気筒エンジンを搭載したジャガーXJは、走ってきてもほとんど排気音を気づかせないほどであった。

直列6気筒エンジンの価値は、原動機として究極を表現できるところにある。メルセデス・ベンツにより新たな直列6気筒エンジンの姿が提示されたあと、スープラやBMWのZ4に直列6気筒エンジンが搭載されることは、両車が究極を目指したスポーツカーである証しといえるだろう。1990年代以降強く求められた衝突安全との両立を可能にする最新の技術が投入されていると想像される。

まだ試乗の機会はないが、豊田章男社長が熱弁をふるったように、直列6気筒エンジンを搭載した新型スープラが天にも昇る上質な加速をもたらすであろうことは想像できる。そして、スープラの復活を単にスポーツカーの充実にとどめるのではなく、最上の乗り味を与えることにトヨタはこだわり、BMWとの共同開発を決意したのだろう。

水平対向4気筒エンジンを搭載したトヨタ86とスバルBRZのうえに、最上のスポーツカーとしての新型スープラがあっていい。走行性能だけでなく、高性能を上質に味わう運転の機会が与えられるのである。

共同開発によるメリット

このことはまた、BMWにとっても、長年にわたり直列6気筒エンジンにこだわりを持ってきた自動車メーカーとして、よい機会になったのではないだろうか。共同開発をすることにより、開発の手間や原価をトヨタと分け合うことができる。

そのことを揶揄する声もなくはない。しかし、トヨタはすでにスバルとの間で86/BRZの経験を持っているが、その2台はスープラとZ4以上に外観を含め共通性が高かった。だが、運転してみればまったく乗り味は異なり、トヨタとスバルの愛好家をそれぞれ満足させるものであった。

またマツダは、ロードスターのフルモデルチェンジに際して、フィアットとアバルト124の誕生で協力し合っている。この2台は、外観はもちろんのこと、搭載するエンジンも異なるという特徴をもたせることで、それぞれのブランドの独自性を表現した。

以上の例は、もし、それぞれの自動車メーカーが独自開発しようとすれば誕生しえなかったかもしれない。協力することで、消費者に喜びと選択肢をもたらした。

まもなく、スープラとZ4を試乗できる機会が訪れるだろう。どのような持ち味を発揮するのか、また直列6気筒エンジンはどのような運転の歓びをもたらしてくれるのか、楽しみな春の訪れとなりそうだ。