優秀なビジネスパーソンは「話し上手」といわれる。だが実際には「トーク力には自信がない」と答える人が多い。なぜイメージと矛盾するのか。7人のプロに話を聞いた。第5回は起業家の「聞く力」――。(全7回)

※本稿は、「プレジデント」(2018年12月17日号)の掲載記事を再編集したものです。

■社内の内線にまで相手に気を使えるか

会社の顔である受付嬢には、丁寧で品のある受け答えが求められる。ディライテッドCEOの橋本真里子さんは、かつて上場企業5社以上の受付で延べ120万人以上に応対した受付嬢。訪問客を虜にする応対の秘訣を聞いた。

受付は決まった案内をするだけだから、話し方・聞き方はいつも同じでいい――。そのようなイメージをお持ちの方が多いでしょう。しかし、会社を訪問する方の目的や状況は多種多様。相手に合わせて対応を変える必要があります。いきなり用件に入るお客様には、手短に情報を伝えるし、おっとりした印象のお客様なら、丁寧にゆっくりお話しする。このように臨機応変に対応するのが受付の腕の見せどころでした。

ディライテッド 代表取締役CEO 橋本真里子氏

また笑顔や姿勢に気を使うのはもちろんですが、私は声にも細心の注意を払っていました。たとえば内線で社内の人と話すとき、電話で顔が見えないからといって油断していると、愛想のない話し方に聞こえてしまうものです。そこで笑顔を見せられないときは、「笑声」で話して気持ちを伝えます。具体的には、声のトーンを2つほど上げて、相手の発話にかぶらないように語尾までしっかり聞き、相槌ははっきり打つ。これらを意識するだけで、顔の見えない相手にも誠実さや明るさが伝わり、話しやすくなります。

受付には横柄で、後で上司が来ると態度を百八十度変えるような人は、傍から見ていると仕事の能力を疑われてしまいます。それに対して社内の内線で声にまで気を使える人は、好印象ですよね。いつか独立することがあったときでも、きっと応援してくれる人が多いはずです。

私は学生のころからテレホンアポインターのバイトをしていたこともあり、一対一の対応は昔から得意でした。話し方の壁にぶつかったのは、起業してからです。営業やプレゼンは一対多で、それまで培った話し方が通用しませんでした。

一対多だと、一人一人に合わせるのは不可能です。むしろ自分のペースに相手を引きこむ工夫が必要だと学びました。いまは身ぶり手ぶりをつけたり、衣装や髪形のビジュアルで最初の関心を引くことを意識しています。最悪、話の内容が残っていなくても、自分の存在を記憶してくれれば、次につながりますから。ただ服装や髪形が多様な女性に比べて、男性の選択肢は限られています。その場合、スティーブ・ジョブズのようにいつも同じ格好をしたり、必ず同じ色のネクタイをしたり、こだわりを演出すると印象に残りやすいのではないでしょうか。

一対一でも一対多でも共通していたのは、知ったかぶりは危険ということです。受付嬢も社長も「会社の顔」ですから、聞かれたことには何か答えたくなるもの。ただし受付嬢が会社について知らないことも、社長が細かい数字を失念することもあります。そこでむりやり取り繕おうとしても、相手にすぐ気づかれます。「わかりかねます」「後ほど担当者から回答させていただきます」と正直にお伝えしたほうが適切でしょう。

私の必殺トーク術:声のトーンを上げ、相槌ははっきり

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橋本真里子
ディライテッド 代表取締役CEO
大学卒業後、上場企業5社以上で受付を経験。16年、ディライテッドを設立。クラウド型受付システム「RECEPTIONIST」を開発・提供する。

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(ディライテッド 代表取締役CEO 橋本 真里子 構成=村上 敬 撮影=岡田晃奈)