餃子チェーン「大阪王将」の冷凍餃子が売れている。運営会社「イートアンド」は外食企業だが、ここ数年、冷凍餃子の売上が伸びており、2019年3月期第3四半期決算ではついに店舗の売上と並んだ。なぜ人気なのか。ジャーナリストの長浜淳之介氏は「油も水もフタも不要にした進化系冷凍餃子を生み出し、他社との差別化に成功している」と分析する――。

■創業50周年外食企業のもうひとつの顔

大阪王将」を主力に、「よってこや」、「太陽のトマト麺」といった人気チェーンを展開するイートアンドが、今年9月に創業50周年を迎える。同社のもう1つの顔をご存じだろうか。実は、冷凍焼餃子で味の素冷凍食品に次ぐ業界2位につけ、冷凍水餃子では堂々のトップシェアを誇る、冷凍食品で急成長する注目の食品メーカーなのである。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Janna Danilova)

外食で著名な大衆ブランドを有し、かつスーパーなどで販売する冷凍食品のビッグブランドを持つのは、日本ではイートアンドただ1社だ。

イートアンドは自社工場を設けて食材の製造・販売を行い、外食と冷凍食品の物販、両チャネルに振り分け、効率的な市場両取りを実現している。成長の柱が3本あり、容易には崩れない強靭な体制を構築した。

同社ではこのユニークなビジネスモデルを、“フルライン型フードメーカー”と呼ぶ。イートアンドの成長エンジン、拡大する食品事業にフォーカスしてみよう。

■売上比率はすでにほぼ50:50

2018年3月期決算によれば、イートアンドの冷凍食品を中心とする「食品」カテゴリーの実績は、140億1042万円(前年同期比109.6%)。「外食」カテゴリーの実績は、141億5599万円(前年同期比104.7%)で、後発の「食品」のほうが前年比は高く、「外食」に売上で追いついた。

すでに売上比率は49.7:50.3、四捨五入すれば50:50で拮抗している。19年3月期第3四半期決算では、「食品」が111億1593万円(前年同期比107.3%)に対して、「外食」が107億2642万円(前年同期比101.9%)と、早くも逆転している。

イートアンドの社史は、1969年に大阪・京橋で創業した餃子専門店「大阪王将」の展開に始まる。18年12月末日現在、国内で主力業態「大阪王将」350店、ラーメン業態の「よってこや」17店、「太陽のトマト麺」24店、「R Baker Inspired by court rozarian」などカフェ32店。その他の店や海外店舗52店も合わせて、全体で491店にまで成長した。

一方で、冷凍食品は93年に生協向けの商品を販売開始。物販のノウハウを蓄積し、2001年に発売した「大阪王将 餃子」で量販店向け市場に進出した。さらに、2005年3月に「大阪王将 たれ付餃子」を開発。この商品がたれも専門店の味だと好評を博して、競合他社との差別化に成功。ビッグヒットとなった。

■油も水も不要、さらに「ふた」も不要に

大阪王将 たれ付餃子」は改良を重ね、11年に具材を全て国産にリニューアル。いわゆる中国産毒入り餃子事件によって、海外の安価な食材に対して消費者が持つ疑念を払拭し、安全安心をアピールした。

さらには、13年には油が要らない製品にリニューアル。調理の簡便性が向上すると共に、食後のにおいが気にならない加工を施したニンニクの使用を開始した。餃子は好きでもニンニクのにおいを気にして食べたがらない女性が多いが、購入を避けるバリアーを破った。

そして、14年8月「大阪王将 羽根つき餃子」を発売開始。“油いらず、水いらず”にかじを切った。しかし、羽根つき餃子を冷凍食品で出しているメーカーは当時珍しく、しかも油も水も不要で、フライパンで手軽に焼ける簡便な商品であることが受けて、人気が爆発。

そして、18年9月に“油いらず、水いらず”に加えて、今度は“フタいらず”の仕様にリニューアルした。

大阪王将 羽根つき餃子」(画像提供=イートアンド)

■「焼き目が見えてうまく焼ける」

一般に家庭で餃子を焼くには、フライパンに油を敷き、水を加え、ふたをして過熱し、蒸し焼きにする。しかし、冷凍餃子の改良で、まず油が不要になり、水も不要になった。今、冷凍餃子の売り場では“油いらず、水いらず”は一般的だ。

そして、ついにふたまで不要になったのかと、業界に大きな衝撃を与えた。“フタいらず”は革命的な進化形冷凍餃子の発明であった。

「お客様からのアンケートで、ふたをしているとどこまで焼けているのか全く見えないので、ついつい焼き過ぎてしまったり、焼き目が薄いまま食卓に出してしまったり、うまく焼けないとの声が上がっていたのが開発のきっかけでした。ふたいらずにするまでには500回以上のテーブル試験を繰り返し、ようやく発売にこぎつけました」(イートアンド株式会社取締役常務執行役員 星野 創)。

ふたなしで焼けるようになって以来、顧客からは「焼き目が見えるようになって、うまく焼ける」と好評である。

そこで、イートアンドでは焼き肉のように卓上のホットプレート、屋外のバーベキューで餃子を焼いて楽しむパーティー、“ギョパ”を新たに提案している。ギョパは餃子パーティーの略称。今や餃子は技術革新により、並べただけで焼き上がる手軽な食品に変貌を遂げた。熟練した職人しか、餃子が最適に焼き上げられなかった時代は終わったのだ。

■冷凍水餃子は売上ナンバーワン

冷凍餃子は、上位2社が市場の8割を握る寡占化が進んでいる。市場調査会社・インテージの調査によれば、首位の味の素冷凍食品が48.3%、2位のイートアンドが32.7%になっているとされる(2018年4月〜12月累計)。

そのうちイートアンドが圧倒的に優位に立つのは、実は水餃子である。同社の水餃子のシェアは7割超とのデータもあり、他社の追随を許さない。

大阪王将 ぷるもち水餃子」(画像提供=イートアンド)

主力の「大阪王将 ぷるもち水餃子」は煮込んでも崩れにくい、プルプルでもちっとした皮が特徴。電子レンジでも簡単に調理でき、さっと食事を作りたい時にとても便利だ。

この皮はスイーツで使われるタピオカでんぷんを練り込んでおり、喉越しが良い。鍋の食材としても使いやすく、“ギョパ”でも楽しめる。

イートアンドの冷凍餃子の購買層は、30〜40代が中心で比較的若い。肉感のあるしっかりとした味付けが特徴で、おかずやお弁当の用途にとどまらず、家で飲むビールなどお酒のおつまみにも合うように設計されているのが、差別化のポイントだ。

■取り扱い量販店は4年で激増

イートアンドの冷凍餃子の成功は、1980年代から90年代のコンビニの急成長でテイクアウトの弁当や総菜市場の拡大をにらみ、「冷凍食品に商機あり」ととらえた慧眼があった。

家庭用冷凍庫の容量拡大や電子レンジの普及と共に、冷凍食品の市場は拡大。メーカー各社の努力で、かつてのチープな食品という冷凍食品の悪しきイメージは払拭されてきた。冷凍チャーハンでは「お店の味に匹敵する」と言われる商品もあるほどだ。

近年は雇用の拡大で、共働きの家族が増えている。それと共に、夕飯のおかずにも冷凍食品を使う人が増えた。これまで冷凍食品を「便利だから」と使っていて、味にさほど期待していなかった消費者も、今やお店並みの味を期待するようになった。

イートアンドは有名外食チェーン「大阪王将」を擁し、店の味を食卓に届けることができる。「大阪王将」の餃子専門店としての信頼感で、冷凍餃子の売れ行きを伸ばしてきた。羽根つき餃子の取り扱い量販店は、14年春夏が1万4685店だったのが18年春夏は2万2143店と4年間で1.5倍に増えた。ぷるもち水餃子の取り扱い量販店も、14年春夏に7719店だったのが、18年春夏には1万6064店へと2.1倍に増加している。

■外食ブランドの知名度を活かす

冷凍食品市場では、多くのメーカーが外食の人気店の監修を受けるようになってきている。

例を挙げれば、マルハニチロの譚彦彬「赤坂璃宮」オーナーシェフ直伝「あおり炒めの焼豚炒飯」、ニッスイの「いきなり!ステーキ」監修「ビーフガーリックピラフ」、セブンプレミアムの「蒙古タンメン中本」店主白根誠監修「蒙古タンメン中本 汁なし麻辛麺」などの商品群である。

これは外食の冷凍食品への進出が加速しているとの見方もできるだろう。しかし、こうした商品はあくまで冷凍食品メーカーが主導しており、外食企業は監修という役割にとどまっている。イートアンドのように「大阪王将」ブランドの知名度を活かして、外食企業が冷凍食品の市場に本格的に取り組む展開は異例だ。

■消費税増税でも成長のチャンスになる

今年10月に消費税が10%に値上げされると、食品の物販は8%に据え置かれる軽減税率の対象だが、外食は他の商品・サービスと同じく10%に値上げされる。同じ餃子でも、外食より小売のほうが有利だ。

多くの餃子専門店、中華料理店が軽減税率導入に戦々恐々なのに対して、「大阪王将」の場合、冷凍食品がここまで強ければ、外食から小売へとシフトする消費者が増えてもトータルでむしろ有利になる可能性が高い。さらなる成長のチャンスだ。

「今後は大阪王将のブランドを活かして、小籠包、焼売などといった中華の分野をどんどん強化して中華カテゴリー全体を盛り上げていきたいですね」と、星野氏は目を輝かせた。

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長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
ジャーナリスト
兵庫県西宮市出身。同志社大学法学部法律学科卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て角川春樹事務所編集者より、1997年にフリーとなる。ビジネス、飲食、流通など多くの分野で、執筆、編集を行っている。共著に『図解 新しいビジネスモデルの教科書』(洋泉社)、『図解 ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)、『バカ売れ法則大全』(SBクリエイティブ、行列研究所名義)など。

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(ジャーナリスト 長浜 淳之介 写真=iStock.com)