ちょうどいい「ぶら下がり方」とは(写真:stockmate/PIXTA)

「人生100年時代」とは、多くの人が80歳くらいまで現役で働き続ける必要があるということでもある。ライフシフトには、転職や独立・起業という道もあるが、それがうまくいくかどうかは、今いる会社での働き方がカギとなる。「ぶら下がりシニア」と見られて、若手から疎まれるようではライフシフトの成功も覚束ない。
『40代からのライフシフト 実践ハンドブック』の著者が、まずは、今の会社で生き残ることができる、「好かれるシニア」になるための社内サバイバル術、「働き方改革」につながる4つのポイントを説く。

周囲からどう見られているのか

「人生100年時代」とは、生活資金の確保のためにも多くの人が80歳くらいまで働く必要があるということでもあります。


定年は60歳のまま、65歳までは再雇用され、年収300万円程度で年金受給まで食いつなぐが、たいした仕事を与えられず、くすぶってしまう。

今、多くの企業でそんな「ぶら下がりシニア」が増えているのではないでしょうか。

「ぶら下がりシニア」は、周囲から以下のように見られています。

読者の周りにも、こんな人たちがいるのではないでしょうか。

・年収が下がったのだから、給料分だけ適当に働けばいい、という言い訳が多い

・時間内だけ事務所にいればいい、頑張らなくても給料がもらえる、というオーラを発散させている

・実務があまりなく、時間をもてあまして新聞を読んでいる

・もう先が短いからといって、周りと連携することなく勝手に行動する

・できないことが多く、何でも人に頼んでくる、すぐ忘れる

・愚痴が多い、ため息ばかり、休憩が多すぎる

・シニア世代同士で昔話や愚痴で盛り上がっている

・自分が暇なのでほかの人を巻き込む(無駄話に付き合わせる)

つまりは、「きちんと仕事をしていない(たいした仕事を与えられていない)」「若手とうまく連携できていない(むしろ迷惑になっている)」と思われているシニアの姿が浮かび上がってきます。

80歳まで現役で活躍するためにまず重要なのは、このような「ぶら下がりシニア」にならないことです。

今いる会社で80歳まで働き続けられるのでなければ、多くの場合はどこかのタイミングで退職し、より長く働ける会社に転職するか、あるいは独立・起業することが求められます。そこまでの時間軸を自分の人生の視界に入れる必要があります。シニアになったときの転職や独立・起業がうまくいくかどうか、そのカギとなるのは「今いる会社での踏ん張り力」です。

サバイバル術の決め手は現職での踏ん張り

そこで、今いる会社で踏ん張るための社内サバイバル術、働き方改革にもつながる4つのポイントを紹介します。

・与えられた仕事から「やりがい」を見いだす
・年下上司とうまくやる
・年上部下とうまくやる
・若手から嫌われないようにする

それぞれについて、少し詳しく見ていきましょう。

この先のキャリアを切り拓くのは、自分自身です。転職するにせよ独立・起業するにせよ、自分にできることを明確にし、雇用主や顧客の信頼を得なくてはなりません。いわば「一人事業主」として、シニアな自分を買ってもらわなくてはいけないのです。そのような力を磨くのは、会社を辞めてからよりも、在職中から準備を始めるほうが有利なのは自明のことでしょう。

まずは、会社で働くことに対する意識を変えましょう。何とはなしに日々を過ごすのではなく、「自分の(80歳までのキャリアの)ために働く」と意識を変えることが第一歩となります。たとえ仕事は会社から与えられたものであっても、「自分にとってのやりがい」を見つけ出すのです。その仕事をどのように行えば、自分のキャリアにとってプラスになるのか、なぜ自分が必要なのか。自分はその仕事を通じてどういう価値を高められるのかをつねに考えながら仕事をするのです。それは自分でしかできないことです。

仕事を好き嫌いで選別するわけではありません。所与の仕事、あまり好きでもない仕事であっても右から左に流すようなスタイルでこなしていては何も得られません。そうではなく、そこに自分らしいひと手間をかけ、顧客や周囲の同僚たちや他部門から「助かったよ」といわれる価値を加えることができるか。それが仕事の喜びにもつながります。結果にもつながり、周囲の見る目が変わり、人生も変わってきます。それが「一人事業主」としての価値創造の基盤になっていきます。

管理職になれなくても、管理職を役職定年で降りたとしても、そのような踏ん張りによって、60歳あるいは65歳の定年後にライフシフトに成功し、生き残れる価値を生み出せる基盤につながってきます。

年下上司・年上部下とうまくやる

65歳までの雇用延長や役職定年制の導入などにより、職場の上司が年下だったり、逆に部下が年上だったりすることが当たり前になりつつあります。いずれもの場合も仕事がやりにくいと感じる人が多いようです。

「年下上司から指示されると、ついムッとしてしまう」という人もいるのではないでしょうか。それは、上司と部下の関係を、地位の違いによる「上下関係」ととらえているために、プライドが傷つくからでしょう。

まず、その「上下関係」という意識を変えるべきです。上司と部下の関係は、昨今は、マネジャーとプレーヤーという「役割」の違いとしてとらえることが一般的になっています。上司(マネジャー)の役割とは部下(プレーヤー)を動かして組織の成果を上げることです。それに対して部下の役割は、自ら主体的に動いて成果を上げることです。

年下上司と接するうえで、もう1つ大切なことは、社歴では自分が先輩だとしても、年下上司を後輩として見たり接したりするべきではないということです。たとえ、互いの間で信頼関係ができているとしても、「くん」ではなく「さん」付けで呼ぶようにすべきでしょう。また「昔よく面倒を見た後輩だから、この程度ならいいだろう」といった甘えもなくすべきです。

先輩の立場からすれば、年下上司に意見やアドバイスをしたくなる場面もあるかもしれません。しかし、そこはあまり出しゃばらず、求められたときにだけ答えるようにするほうがよいでしょう。

逆に自分自身が年下上司となった場合、年上部下とどのように接したらよいでしょうか。先述のとおり、上司と部下の関係は「上下関係」ではありません。したがって、部下に指示する場合は「〜しなさい」「〜してください」という命令口調よりも、「〜していただけませんか」といった依頼口調のほうが、相手は気持ちよく指示を受けることができます。

命令口調は、本人の意思や実力の限界が考慮されていない、相手を理解しようとしていない、というメッセージを発信してしまい、部下は不快に感じてしまいます。それが高じてパワハラも起きています。依頼口調であれば、部下は自分の立場を考慮されていると感じられるため、快く引き受けることができます。以上のことは、年上部下だけでなく、すべての部下に当てはまることでもあります。

また、年上部下の場合、大切なことは、人生の先輩として敬意を持って接することです。挨拶や敬語など、ていねいな対応で接するのが基本です。さらに、相手を立てることも心がけましょう。何が得意なのかを把握しておき、時には相談したり、意見を求めたりするとよいでしょう。日頃からこうした姿勢で接していれば、いざというときに助けてもらえるような、良好な関係を築くことができるはずです。

若手から嫌われないようにする

役職定年になると、職場の同僚が若手になるケースも多いでしょう。だからといって、先輩ヅラをするのは、若手社員にとって気持ちのいいものではありません。相手が年下であっても、名前は「さん」付けで呼び、対等な関係を築くようにしましょう。

また、仕事を選り好みしてはいけません。面倒だったり、苦手な仕事だからといって若手に押しつけたりせず、積極的にチャレンジすべきです。ITのことなど、わからないことがあれば、若手に聞けばいいのです。また、もし、若手がクレーム対応などで困っているようであれば、手助けをしましょう。そうすれば、逆に自分が困ったときにはきっと助けてもらえます。

若手はシニアと仕事をしていて困ることとして、「過去の経験に固執する」「柔軟性に欠ける」「自分で書類づくりや事務作業をやらない」「言うだけで行動しない」「押しつけがましく高圧的」、さらには「清潔感に欠ける」などを挙げています(財団法人企業活力研究所「シニア人材の新たな活躍に関する調査研究報告書」2012年3月)。

さらに、注意したいことの1つが話の長さです。若手からは「○○さんはいつも話が長いな」と思われていても、面と向かって指摘されることはなかなかありません。相手の反応をつねに気遣うように心がけ、自分で意識して話が長くならないようにしたいものです。

また過去の手柄話にも注意しましょう。「昔はこうだった」「若い頃はああだった」と、昔の話を持ち出して自慢や説教をしても、若手には「今とは時代が違う」と受け止められるだけです。過去の話をするなら、むしろ失敗談にするべきです。そのほうが共感を持って受け入れられますし、その失敗をどう乗り越えたのかという話は、若手にとって生きた教訓になります。

基本的に、何事にも前向きで明るい人はだれからも好かれます。頼まれた仕事は何でも引き受けて選り好みせず、新しいことにも挑戦する。若手と仕事で張り合うよりも、むしろ若手がやりたがらない、手が回らないような仕事こそ率先してやるべきでしょう。

謙虚さも、好かれる要素の1つです。

日頃の若手の言動に対して、つい何か言いたくなってしまうものですが、その気持ちをぐっと抑えて、「聞かれたら答える」くらいの心持ちでいることが大切です。

もし何か問題が起きて、若手が困っている様子に気づいたときは、何に困っているのかを聞いたうえで、豊富な経験を生かして積極的に手助けをする。心がけるべきは「若手のサポート役」の意識、サーバント・リーダーシップです。

周囲の人たちによい影響を与え、職場にいてほしいと思われるようなよい評判を得ることが、転職や独立・起業してもやっていける人脈づくりにもつながります。