人前で話すあらゆるシーンに役立つプロの技を伝えてくれるメルマガ『話し方を磨く刺激的なひと言』の著者で、現役アナウンサーの熊谷章洋さんは今回、「話し方の悩み」がなぜ生じ、どうしたら解決できるのかを根本から考察しています。まずは、話し方の悩みがない人について分析し、頭の中で起こっている言語化、音声化の仕組みから解決策を探っています。

話し方の悩みの根本原因

「話し方の悩み」をひとことでまとめると、「上手に話したい」という願望や理想像と、「思い通りにいかない」というもどかしい結果の間にあるギャップ、だと思います。

いっぽうで、結果的に聞き手にうまく伝われば、どういう形でもOK〜!という価値観も存在します。私が日々、話し方のご相談をお受けしている中では、そのように考えられる人の多くは、話し方で悩んだりすることは少ないように感じます。なぜなら、そういうタイプの人は、なんらかの「話すこと以外で伝達する術」を、それまで生きてきた中で習慣化しているからです。

実際に音を聞かせる、物を見せるなど、「話の聞かせ方の演出」を工夫する習慣や、言葉は短くても、感嘆など主観の伝え方がうまかったり、ほかの何かで代替すること、例えば、引用や例示がうまかったり、身振りや表情など、少ない言葉でも伝わる工夫など、努力の方向性を、ぺらぺらしゃべって表現すること以外へ向けられるのです。

確かに、綺麗な構成や、思いつく限りの言葉の表現に変換できなくても、にじみ出る雰囲気などで総合的に伝われば、それで結果オーライだと、私も思います。そういうタイプの人は、個性的で、人の印象に残る、むしろ人気者になりうる人物かもしれません。

しかし、多くの人は話し方に悩みます。書店へ行けば、関連書籍が山のように並んでいることからも、それは否定できませんよね。では「話し方の悩み」の正体は、いったい何なのでしょうか?

「上手に話したい」という願望や理想像と、「思い通りにいかない」というもどかしい結果の間にあるギャップ、この2行のまとめ表現の行間に潜んでいる、伝わればOK、では満足できない、もやもやとした物足りなさ。このもやもやに光を当てて、その正体を突き止めてみましょう。

人間が話をするときの頭の中の状態から考えてみます。私たちの頭の中には、たくさんの情報が記憶という形で保存されています。単に記憶といっても、日本語のルールなど根本的なものから、個別に備わった経験や知識、潜在的、無意識的なものまで含まれるでしょう。こういったものが、印象としては、断片的に蓄積されています。

まるで煮込まれたスープのように、元の材料がわかる断片から、それが何だったかすっかり分からなくなったものまで、あるいは、似たような断片が集まっている部分もあれば、まるで離散してしまい、単体になっている断片など、ごった煮状態…。

印象としては、としたのは、そういった記憶の蓄積が脳科学的に言えばどうなのかは、そちらの専門家に委ねたいからです。あくまで、話し手自身のイメージとしては、ということですね。

そしていざ、話をしよう、という段になると、その都度、それらの記憶・イメージを繋ぎ直して(この段階ではまだイメージのまま)それを言葉に変換し(この段階でイメージが具体化)さらにそれを音声に変換します(ここで話が具現化します)。

まことにざっくりと、ですが、こんな過程を経て、私たちは日々、話をしています。どんなに些細な話でも、です。

そして、何でもパッパと話せる人、話す反応が早い人は、この過程が時間的に短いといえるわけですが、その理由は、

早く言語化できるイメージから、先に話すことができる話し慣れることで、考えなくても言語化できる言い回しをたくさん持っている

こういう特性があるからだと思います。

例えば上述の、「言葉が短くても、感嘆など主観の伝え方がうまかったり…」のような人は、表現が得意な主観のイメージだけを素早く先に選択して、言語化・音声化する習慣があるからですね。

では、話し方で悩む人は、こういった過程のうち、どこが苦手で、何が不満なのでしょうか。まず話し方という言葉の印象からしても、話し方=言語化、音声化の問題という感じがしますよね。

もちろんその途中には、聞き手の存在から受ける精神的影響もあるでしょうし、音声化そのものが苦手、つまり発声・発音から難ありと思い込んでいる場合もあるでしょう。

それらも含めて、

自分の頭の中にぼんやりと蓄積されている情報を人に伝わる形に整理しなおして、言語化・音声化すること

だと思うのですが、それに加えて、

頭の中を表現し尽くすことで得られるスッキリ感

これを伴わない限り、おそらく話し方のお悩みは解決されないのだと思います。

言い換えると、話し方における自己満足的な部分ですね。これをいくらただの自己満足だからやめなさい、と言っても、やめられないから、やっかいなんですよね。それはわかります。

そして、たまたまうまくいくような偶然の成功体験や、他の人が、それをうまくやってのけるところを見るにつけ、いつでもそれができる能力=再現力を身につけたい、何かひとつ考え方を変えるだけでうまく話せるようになる、魔法のキーワードがあれば教えてほしい。そう思っていらっしゃるのだと思います。

そんな方のために、頭の中を表現し尽くしてスッキリする方法をお教えしたいと思いますが、その前に!クイズをご用意しましたので、ちょっと考えてみてほしいんです。

話してスッキリする人と、なんかモヤモヤが残る人。考え方の違いが浮き彫りになりますので、ぜひお試しくださいね。

Q.大きなザルのなかに、大豆やら、小豆やら、いろいろな種類のマメ類が、たくさんごちゃ混ぜに入っています。これらの豆を、まとめておいて!と指示されました。

あなたは、何をしますか?

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