「ボブジテン」はまだまだ序章。誰もがボードゲームを楽しめる世界を目指してーーTUKAPON×三遊亭楽天

「お風呂上がりに体を拭くのに使う布ってな〜んだ?」と急に質問されたら、すぐに答えられますか?
正解は「バスタオル」。
こんなふうに、「生活に入り込んでいるカタカナ語を、カタカナを使わないで説明する」というシンプルで悩ましいルールにハマる人が続出しているのが「ボブジテン」。

▲ボブジテンの遊び方


「カタカナ語を使うことが当たり前すぎて、とっさに日本語で説明するのが難しい言葉」ばかりが記載されたカードを使って、クイズを出しあうゲームです。

テレビで木村拓哉さん・二宮和也さんやPerfumeがプレイするなど、メディアで話題になったこともあり、ふだんボードゲームになじみがない人にも名前が知られてきています。

今回はその「ボブジテン」を生み出したボードゲーム制作サークル・TUKAPONの三島健司さんとKazuna*さんにインタビュー。ボードゲームを愛する落語家・三遊亭楽天さんと一緒に「ボブジテン」の制作秘話やボードゲームへの思いを伺いました。


撮影/笹井タカマサ 取材・文/ミヤザキユウ(バンソウ) デザイン/桜庭侑紀
撮影協力/Role&Roll Station 秋葉原店(東京都千代田区外神田3-14-9 第26東ビル6F)

『放課後さいころ倶楽部」がなかったら、「ボブジテン」は生まれなかった!?

楽天:「ボブジテン」はいまや、日本全国で人気になっていますね。最初のアイデアは、どうやって生まれたんでしょうか?
Kazuna*:はじまりは、私が感じたちょっとした疑問でした。
▲落語家の三遊亭楽天さんと、ホステル(ゲストハウス)で働くバイリンガルのKazuna*さん。
Kazuna*:日本では、日本語がある言葉なのに、わざわざ英語を使うことって、けっこうありますよね。「会議」を「ミーティング」って言うみたいな感じです。

長年ホステルで働いているので、外国人と話す機会が多く、そういう「不思議な単語」を見つけるたびに個人的にストックしていました。それをゲームにしたんです。
三島:最初は「カタカナを使わないでカタカナ語を説明する」っていうコンセプトだけを、Kazuna*さんが持ってきたんです。それをもとに飲み屋で相談しながら、「ボブジテン」の形にしていきました。
楽天:すごい! 「ボブジテン」のルールブックに書かれている「ストーリー」そのままなんですね。Kazuna*さんの経験がゲーム作りに生きている。
(注:「ボブジテン」は、キャラクターのボブが日本語を勉強する中で、多くの外来語が日本語には訳されずにカタカナ語として定着していることに気づき、日本語だけで外来語を説明する辞書を作る…というストーリー)
三島:コンセプトはすんなり決まったんだけど、タイトルはかなり難航しましたね。

Kazuna*さんが最初に出したタイトル案は「カタカナイゼーション」だったんです。僕は「それじゃ売れないよ!」って言って、ふたりで飲み屋をハシゴしながら「ボブジテン」をひねり出しました。
楽天:落語ですと、例えば夢オチの噺(はなし)で「夢金」とか、ネタバレしてる様なタイトルも多いですけど…ゲームは難しいですね(笑)。
「ボブペディア」なんてのも、アリだったかもしれませんね。
「ボブペディア」でも売れそうです(笑)。Kazuna*さんは「ボブジテン」が初めてつくったゲームだとか。
Kazuna*:はい。実は、もともと「ボブジテン」は、三島さんが作った「捕込(とっこめ)」というゲームを宣伝するために作った「販促用ゲーム」だったんです。
ライトなゲームをラインナップに入れることで、今までと違う層の方にもTUKAPONの商品に興味を持ってもらおうというつもりで。
三島さんとは最初、mixi(ミクシィ)のボードゲームコミュニティー仲間でした。

そこで教えてもらった「捕込」を好きになって。深夜まで遊び続けるくらいハマったのに、私が感じる面白さに反して知名度が低すぎるなと思い、TUKAPONに入って宣伝をさせてもらうことにしたんです。
▲野生の馬を捕まえるために江戸幕府が作った施設の名称「捕込」を冠したゲーム。プレイヤーは侍になって馬を追う。捕込の遺跡は千葉県に残っているそう。
三島:僕自身には宣伝・PRのノウハウが全然ないので… (笑)。

「ボブジテン」のおかげで狙い通りサークルの知名度が上がって、「捕込」も増刷できました。
楽天:三島さんのゲームが、「ボブジテン」の企画のはじまりだったんですね。
三島さん自身はどうしてゲームを作りはじめたんでしょうか?
三島:『放課後さいころ倶楽部』(小学館)を読んだことが契機になりました。

ボードゲームを楽しむ女子高生の日常を描いたマンガで「ゲーム作家」という職業の存在を知り、自分もやってみたいなと思ったんです。
『放課後さいころ倶楽部』で見たボードゲーム「ガイスター」をプレイしたくてmixiのコミュニティに参加したんですよ。
楽天:ボードゲームと出合ったのは意外にも最近なんですね。
三島:はい、2014年からです。「作るからにはたくさん知らないと」ということで、毎日ボードゲームで遊びまくりました。

最初の1年で400タイトル近くをプレイしたはずです。学んで学んで、作品を作り、その年のゲームマーケットに参加したんです。
▲「ゲームを作ってみたい」と思いついてからのスピード感がスゴかった三島さん。
その年のうちに出展まで!? 行動力ありすぎです…!
Kazuna*:私は昔、訪れたポルトガルでボードゲームに出合いました。

旅行中、現地の人に誘われてボードゲームカフェに行ったんです。おばあちゃんから若者まで、コーヒーを飲みながら楽しそうに遊んでる、不思議な空間に心引かれましたね。

50個売り切る自信すらなかったゲームが、4分で完売。累計3万個のヒットの理由は?

「ボブジテン」は、最初、少量生産だったと聞きました。
Kazuna*:最小ロットの50個だけ印刷しました。
はじめてゲームを手掛けたので、売れ残っちゃうんじゃないかって怖くて…(笑)。
三島:ところが、蓋を開けてみたら、ゲームマーケットでは開始4分で売り切れちゃったんです。
普通はじめて作ったゲームってなかなか売れないものなんですが。
楽天:たった4分! スゴいですね。
三島:特に宣伝もしなかったんですが、たまたまボードゲームブログを運営されている方が見つけて、Web上で紹介してくれて。
取り置き予約がたくさん入ったこともあって、すぐに完売したんです。
Kazuna*:でも調子に乗るのは怖くて、次も50個ずつしか作りませんでしたね。
どんどん追加注文が入るので、3回目の増刷では、さすがに300個単位にしました。
▲ゲームショップ内をチェックする3人。毎月たくさんのボードゲームがリリースされる中で、インディーズのタイトルを手に取ってもらうためには、インパクトのあるパッケージも大事。
三島:今は1ヶ月に2000個ずつ作っていますね。今までシリーズ合計で、3万個くらい売れています。
毎月、とてつもない数のダンボールが僕の家に届きます(笑)。
▲販売や流通に関しては三島さんにお任せしているというKazuna*さん。
楽天:絵に描いたようなサクセスストーリー…。
おふたりから見て、何がヒットの要因だと思いますか?
Kazuna*:ルールのわかりやすさでしょうか。基本的には連想ゲームなので、誰でもすぐに理解してもらえると思います。
それに、コンパクトで持ち運びやすく、テーブルがなくてもOKで、短時間で遊べるところ。
車での移動中や、行列の時間待ちでやったよ〜という声をいただくこともあります。
楽天:はじめて遊ぶグループで、どのゲームにしようか悩んだときでも、すぐに入り込めて、盛り上がれるのが素晴らしいところですよね。
三島:具体的なルールの面では、出題者の手番の回り方の工夫が良かったのかなとは思っています。

時計回りなどの順に手番が回っていくゲームが多いのに対して、「ボブジテン」では前のお題に回答できた人が、次の出題者になれるんです。

そうすると、みんな自分が出題したいから、毎回ちゃんとゲームに参加するようになりますよね。
順番が決まっていて待ち時間が長いと、「自分の番はまだ先だからなー」って集中力を切らしちゃう人が出てしまうことがある。それが嫌で、「ボブジテン」は参加しないと、自分が楽しめないっていうゲームにしたんです。
プレイヤー全員が熱中して、楽しんでもらえるシステムなのでリピートして遊んでもらいやすいのかも。
▲「誰もが遊びやすいゲームにしたかった」という三島さんに、うなずく楽天さん。
楽天:確かに! 「カタカナ語を説明する」という大きな枠組みが注目されがちですが、細かいところにも芸が効いているんですね。

後は言葉のチョイスが絶妙ですよねぇ。「アカウント」とか、どうやって説明すればいいんだろうっていつも考えちゃいます。

落語でも、けっこう、こういう言い換えがあるんですよ。現代では使わない昔の言葉や、江戸時代の風習が登場することがあるので。
たとえばどんな言葉ですか?
楽天:へっつい(かまどの意)とか。小学校で噺をするときなんかは、現代語に言い換えたりします。

僕はそういうことを普段からやっているから、ハマったのかなとも思います。
三島:最近ボードゲームをはじめたという方でも問題なく遊んでもらえるようなゲームになっていますね。

僕がゲーム作りをはじめた2014年ごろは、ゲームマーケットに来ているのは「何でも知ってるぜ」みたいなベテランゲーマーの人ばっかりだったんですが、今は層が広がってますから。

「ボブジテン」の他にもワードゲームとか、神経衰弱やババ抜きを改変した「わかりやすい」ものがはやっていますよね。
そこを入口にして、いろんなボードゲームを遊ぶ流れに乗ってもらえればいいなと思いますね。
楽天:入口をつくる活動って、大事ですよね。私はたまにTRPG落語という、古典落語をTRPG(テーブルトークロールプレイングゲーム)の設定でアレンジした落語をするんです。

ドラゴンが出てくる噺なんかもあって。もともと私が趣味ではじめた企画なんですが、TRPGをお好きな方が、落語を聴くきっかけにもなればいいなという思いがあります。
▲「牛ほめ」の改作「ドラゴンほめ」、「へっつい幽霊」の改作「積みゲー幽霊」などのTRPG落語にも挑戦している楽天さん。
落語とボードゲームは一見意外な組み合わせですが、どちらもその場に集まらないと体験できないイベントですね。
楽天:集まった人によって、出てくる言葉が変わってくるライブ感も似た部分ですね。

TRPG落語の中にはお客様がサイコロを振って出た目で、噺の結末が変わるものもあるんですよ。そういうことができるのも、アナログなエンターテインメントの魅力だと思います。

「ボブジテン」作りでは、お題を考えるのが一番大変

楽天:「ボブジテン」でお題になる言葉を考えるのって、きっとすごく大変ですよね?
Kazuna*:はじめて作ったときはストックがあったので大丈夫だったんですが、最近はそうですね…ネタ切れです(笑)。

とにかく英単語をたくさん集めて、そこから簡単すぎるものとか、直訳できるものを削って絞り込んでいます。

電車内の広告や、自転車に乗ってるときに目に入ってくる看板、レストランに入ったらメニューを見て…って感じで日々探していますね。
楽天:日常にある言葉を使っているんですね。
Kazuna*:それに、きちんと英語圏でも通用する言葉しかお題にしないようにしています。和製英語はナシ。
▲お題となる単語は、すべてKazuna*さんがジャッジしているそう。
三島:固有名詞や企業名も入れないようにしています。

単純に入れたい言葉のジャンルで僕とKazuna*さんでもめることもありますね。

「スパナ」とか工具系の用語は、なかなか採用されない(笑)。
逆にお酒に関係した言葉はよく入ってるんだよね。「タパス」とか…難しくない?
Kazuna*:単語の偏りはやや、ありますね(笑)。
楽天:そうしたこだわりがあるからこそ、軽く遊べるだけじゃなく、どんな人にも楽しんでもらえる“強度”のあるゲームになったんですね。

ネットでは売らない。ボードゲーム界で「三方良し」を目指す

「ボブジテン」は各地のショップで品薄のようです。大手ECサイトでの通販などは予定していないんでしょうか? 最近はAmazonを通じてボードゲームを入手する人が増えていますが…。
三島:要望はありますが、予定はないですね。大手ECサイトで潤うのは、僕ら版元と、購入ししてくれた人。

個人的な希望で、僕らはボードゲームショップにもうかってほしいんです。
「ボードゲームを売っている場所」が増えないことには、ボードゲーム業界が盛り上がっていかないなと思っていて。いちファンとしてもボードゲームが買える場所が多いのはうれしいですし(笑)。
▲2019年2月発売の「なにわのボブジテン」には「ナターシャ」という新キャラが登場。
「なにわのボブジテン」もそうした思いがあっての企画なんですね。
三島:そうです。「なにわのボブジテン」は大阪府内のショップ限定なので、大阪に行かないと買えません。

少しでも、お客さんが地元のボードゲームショップに足を運ぶ理由になってくれたらと思って。

ネットの二次販売でプレミアが付いているところもありますが、店頭なら一般価格なので、リアル店舗で買ってほしいなと。
楽天:お店や販売方法にもこだわっているんですね。
三島:安売りも良くないと思うんです。安売りしたら、お客さんは喜ぶだろうけど、最終的にはショップが消耗しちゃう。

作者・販売店・プレイヤーの全員がフェアになる「三方良し」が僕らのモットーなので。そうやって少しずつでも、ボードゲーム業界が全体が盛り上がる流れを作れたらと思っています。
TUKAPON(つかぽん)
三島健司(みしま・けんじ)を中心としたボードゲーム制作サークル。2017年にKazuna*(かずな)がデザインしたワードゲーム「ボブジテン」が大ヒット中。代表作「捕込」「あいわな」「キャプチャリング・ケージ」など。
「ボブジテン」新作や拡張セットは、3月10日(日)開催のゲームマーケット2019大阪、5月25日(土)・26日(日)開催のゲームマーケット2019春で販売予定。「ボブジテン」以外の新作ボードゲームの企画も進行中。
三遊亭楽天(さんゆうてい・らくてん)
ダンサーとして活躍後、六代目三遊亭円楽に入門し、落語家に。2015年二ツ目昇進。ボードゲーム会つき落語会「らくゲー」など、多数のイベントを企画。

ボードゲームをプレゼント

今回インタビューをさせていただいた、TUKAPONさん作「ボブジテン」と大阪限定の「なにわのボブジテン」を抽選で各1名様にプレゼント。現地に行かないと買えないボードゲームを手に入れるチャンスです! ご希望の方は、下記の項目をご確認いただいたうえ、奮ってご応募ください。

応募方法
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受付期間
2019年2月22日(金)21:00〜2月28日(木)21:00
当選者確定フロー
  • 当選者発表日/3月4日(月)
  • 当選者発表方法/応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、発送先のご連絡 (個人情報の安全な受け渡し) のため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。
  • 当選者発表後の流れ/当選者様にはライブドアニュース運営スタッフから3月4日(月)中に、ダイレクトメッセージでご連絡させていただき3月7日(木)までに当選者様からのお返事が確認できない場合は、当選の権利を無効とさせていただきます。
キャンペーン規約
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「ナンジャモンジャ」ネーミング募集

livedoor newsでは次回「ナンジャモンジャ」に関する記事を予定しています。
これまでキャラにつけて傑作だった名前、プレイ感想や楽しかった思い出、あなたが考えた「新キャラ」イラストなどを大募集!
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受付期間:
2019年2月22日(金)21:00〜
3月4日(月)21:00
ライブドアニュースのインタビュー特集では、役者・アーティスト・声優・YouTuberなど、さまざまなジャンルで活躍されている方々を取り上げています。
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