Jリーグ開幕を1週間後に控えたトレーニングマッチ。J1サガン鳥栖はJ2アビスパ福岡を返り討ちにする形で、2-1の逆転勝利を収めている。エース、フェルナンド・トーレスの決勝点が決まって、結果だけを見れば申し分ないものだった。

 しかし、その内容は、晴れやかではなかった。


ジョーのいる名古屋グランパスと対戦するサガン鳥栖のフェルナンド・トーレス(左)

「前半は相手の方が全体的によかった。ボールを奪う強度でも、チャンスの多さでも。後半は(鳥栖が)システムも変えて、それぞれが責任を持ってプレーし、逆転することができた。それはサッカーでは簡単なことではない」

 新たに監督に就任したルイス・カレーラスは、勝利に胸を張った。開幕を前にのぞいた”暗雲”は、幻だったのか。

「バックラインは2タッチで(ボールを回せ)」「とにかくサイドチェンジ。幅を使え」「まずはトップを見ろ。トーレスに通せ」……。

 カレーラスが選手たちに伝えてきた言葉は繰り返され、今やひとつの記号のようになっている。

「Vigilancia」

 スペイン語で監視、警戒、用心を意味する言葉も多用されている。攻撃をしているときでも、守備のポジションを失わない。攻守一体を示す用語だ。

 指示そのものは不合理ではない。しかし、試合のなかでは裏目に出てしまっている。

「バックラインは2タッチで」という決めごとの練習は、迅速なビルドアップを促すためのものだろう。しかし、Jリーグでは前線から激しいプレスが行なわれる。福岡のプレッシングに嵌められてしまうと、応用力に欠け、ボールをGKへ返すしかなかった。

 そこでカレーラスは、サイドに大きく展開し、プレッシャーを回避し、攻撃を有効にしようとしているのだろう。しかし、1本で局面を変えるサイドチェンジは、蹴るほうと受けるほうの高い技術精度が必要になる。福岡戦で、ただ蹴るだけのサイドチェンジは、ほとんど墓穴を掘っていた。

 最後の効率的な手段として、カレーラスは”戦術トーレス”を用いている。

「プレスはコースを限定するだけ。守備をしなくてもいい。その分、得点するために体力を残しておけ」

 それがカレーラスの1トップ=トーレスに対する考え方だという。この点については、福岡戦で表と裏が出た。

 相手ボールを奪い、そのままボールを前線にいるトーレスにつなげると、突発的ながらチャンスに結びつく。トーレスは守備の負担から解放されることによって、いつも”浮いた”状況。結果、得点の可能性は昨シーズンよりも増えたと言えるだろう。事実、決勝点に結びついたシーンは、味方が必死にプレスをかけ、困った相手がバックパスをミスしたところを、トーレスがかっさらって沈めたものだ。

 だが、前線でのプレスがほとんどないことで、簡単にボールを持ち運ばれ、後手に回っていた。そして両サイドで幅を作られ、アンカー脇のスペースに敵に入られる。前半に浴びたPKによる失点も、その流れだった。

「バカげたPK」

 カレーラスは「Absurdo」(バカげた、非常識な)という言葉を使い、吐き捨てた。しかし、それは必然だったとは言えないか。肉を切らせて骨を断つ。”トーレス次第”の諸刃の剣だ。

 少なくともこの試合では、格下であるはずの福岡のほうが、ボールを運ぶルートは見えた。守備も規律正しく、トレーニングの成果が伝わった。後半は体力的にバテて、選手交代によってプレー精度が落ちたが、仕上がりのよさを示していた。

 鳥栖は後半、キャンプで採用していない3バックに変更。守りを厚くし、前線の一発にかけるしかなかった。個の強さで勝ち切ったに過ぎない。

 そもそも、4-3-3というシステムは適切なのか。金崎夢生、趙東建、豊田陽平、ビクトル・イバルボなど、センターフォワードがだぶつく陣容でトーレスの1トップ。一方でサイドアタッカーは新加入のイサック・クエンカのみ。インサイドハーフに適応する選手も見当たらない。

 さらにセンターバックは怪我人が続出。にもかかわらず3バックを……。Jリーグ開幕に向け、不安要素の多い勝利だった。

「サッカーにミスはつきもの。怖がらず、トライしてほしい。そのトライは受け入れるから」

 カレーラスは選手にそう言って、叱咤激励している。しかし、プレーのメカニズムにズレがあるなかで、完成に近づけることができるのか。トーレスは得点を増やせるはずだが――。

「名古屋(グランパス)はジョーのような選手もいるので、チーム全体で守る意識を持たないと。攻撃をしていても、次の準備をして、とにかく勝つ試合をしたい」

 福岡戦で唯一の光明と言えるプレーを見せていたセンターバックの高橋祐治は、開幕戦に向けての意気込みを語っている。

 2月23日、こけら落としとなる駅前不動産スタジアムで、鳥栖は名古屋を迎え撃つ。