アパレル企業の「ゾゾ離れ」が深刻だ。老舗の「オンワード」に続き、子供服の「ミキハウス」が出品を見送った。さらに、セレクト最大手の「ユナイテッドアローズ」が自社ECの運営委託を解消。前澤友作社長の「1億円お年玉企画」など話題には事欠かないが、経営は大丈夫なのか。JPモルガン証券のシニアアナリスト・村田大郎氏は「テナント離れによる当面の業績への影響は限定的だ。ゾゾタウン事業の高収益・高効率性は変わらない」という――。
(写真=AFP/時事通信フォト)

■“ゾゾ離れ”への懸念が広がる

日本最大級のファッション通販サイト「ゾゾタウン」。運営企業ゾゾの前澤友作社長は、月旅行計画、有名女優との交際公表や、ツイッターでの「1億円お年玉企画」など、何かと話題を集めている。ただ、このところ本業には異変が起きている。アパレル老舗の「オンワード」や大手子供服ブランドの「ミキハウス」が出品を見合わせたほか、セレクト最大手の「ユナイテッドアローズ(アローズ)」が自社ECの運営委託を解消。一部で“ゾゾ離れ”が進んでいるのだ。

現状、これらのブランドが抜けたとしても、企業イメージの問題を除き、当面のゾゾの経営に与える直接的な影響は限られよう。ゾゾタウンのショップ数は1200以上あり、特定ショップへの依存度は低い。また、いまも年間100以上ブランドが新規で増えている。その中でも、オンワードやミキハウスのような高価格帯のブランドよりも、低価格帯のブランドが増えている。だからこそ上記ブランドは出品を止めたとも言えるし、ゾゾへの当面の直接的な影響も大きくないだろう。

2社が出品を見合わせた理由は、ゾゾタウンが独自に展開する「ARIGATOメンバーシップ」施策が、ブランド価値を損なう恐れがあると考えたからだ。しかし、ARIGATOでの割引分はゾゾが負担する。ショップからすれば、割引で販売数量が増える可能性がある上、直接の費用負担はない。オンワード、ミキハウス、アローズに続くような動きは、自社でEC事業を行うスケールとEC運営の仕組み・ノウハウのある有力ブランドでは、可能性がある。しかし、ゾゾタウンの主力である、中規模以下で中以下の価格帯のショップが多数抜けるような可能性は低いと予想する。

■「ゾゾスーツ」に寄せられた批判の声

では、株価はどうなのか。確かに2018年夏ごろには5000円近くまで高騰した株価が、現在は2000円前後にまで落ち込んでいる。いかにも窮地に追い込まれているようにみえる。

しかし私は、現在の株価は、一時的に過度に膨らんだPB戦略への期待が剥落し、ゾゾタウンをベースとした評価に落ち着いたと見ている。

もともと、ゾゾの株価は、2018年に入ったあたりまでは3000円前後で推移していた。そこから夏にかけて大きく上がったのは、2018年4月にスマホで撮影する採寸用の「ゾゾスーツ」の無料配布をスタートし、マーケットの期待が上がったことが大きい。同時に、初のプライベートブランド(PB)となる「ゾゾ」も発売。ファッションEC市場において、世界的なイノベーションを巻き起こすとの期待が高まり、夏にかけて株価も高騰した。

その後、9月、実際にゾゾスーツで採寸したビジネススーツが届いたという人のレビューがインターネットに上がり、大きな「採寸違い」が話題になった。ファッションデザイナーのドン小西氏は、18年12月21日の日経MJ誌面で「生地・縫製は良いが、サイズ感に問題があり、これは洋服ではない」と発言した。また、ネット上などでの、実際に商品を受取ったユーザーからの評価も、特にサイズ面に関し、必ずしも芳しくない。同社開示によると、ゾゾスーツの計測率・PB購買率そのものも、使い勝手の悪さから、計画を下回った。

■株価の乱高下はPBゾゾへの期待と失望の表れ

実際のPB事業の進捗は当初計画比大幅に下振れ、PBゾゾに対する期待・評価は急速にしぼみ、いまやほぼゼロとなったと見ている。特に、ビジネスラインの「2万円台でオーダーメイドスーツを」といううたい文句は、現状の株式市場では「無理筋」だったいう評価になっていると考える。

つまり、2018年春から暮れにかけての株価の乱高下は、PBゾゾへの期待の膨らみと失望がそのまま表れたものだということだ。それでもファッションEC市場におけるゾゾタウン自体のポジションなどには大きな変化は無いと見ている。

ゾゾタウンの強みとは何か。それは約20年前からファッションECという市場の可能性を見抜き、いち早く事業モデル開発に着手した先見性、そしてその先行者メリットにほかならない。

実際に試着してみないと自分に似合っているか、サイズが合っているのか分からないと思われていたファッションは、ネット通販には向いていないと考えられていた。だが、ユーザーの利便性が高いシステムと、高効率の物流の仕組みを構築し、サイズ表記、サービスも充実させたサイトを作り上げたことで、ゾゾタウンはいまや年間3,100億円以上を売り上げるまでに成長した。ファッションECを利用する顧客を囲い込み、利便性が高く、利益率も高いその「超高効率モデル」は、ライバルと言える存在がいないほどに積みあがった。

■成長率はスローダウンする

ここまで急激な右肩上がりで成長してきた同社だが、今後も同じように成長するかというと、その勢いはスローダウンすると言わざるを得ない。中期経営目標では2021年3月期のゾゾタウン商品取扱高4,850億円を目標にしている。日本全体のファッション市場規模や、20〜40代人口でのゾゾタウン普及率などから、今後、中長期的に成長性を持続するためには、これまでとは違う成長戦略・起爆剤がないと難しい。その候補となる戦略がPBゾゾ、ARIGATOサービスだったのだろう。

PBゾゾは、すべてダメになったというわけではない。オーダーメイドスーツなどのビジネスラインの見通しは、現状、厳しいが、カジュアルラインは相対的には順調と見る。想定していたほどの規模を売り上げるのは難しいだろうが、今後、データを活用し、ゾゾスーツでの計測不要、などの利便性強化で、挽回を図っている。

足元では、ブランド離脱の懸念、業績下方修正に加え、同社への信認も低下しており、株価下落が止まらない。一方、既存のゾゾタウン事業での、利益の塊のような高効率性は変わっておらず、株価水準の割高感はなくなってきた。今後、PBゾゾとARIGATOサービス導入による悪影響や懸念を軟着陸させ、ゾゾタウンの安定的な伸びの確認と同社への信認回復が、株価回復の条件と考える。

■前澤社長が世間を騒がせる理由

PBゾゾに代わる、次の一手は何か。現時点では分からないが、冒頭に説明したように前澤社長がいくら世間を騒がせても、それはゾゾの経営とは直接の関係はなく、あくまで個人での活動だ。前澤社長は「すべてはゾゾの事業のため」と説明している。世の中に提供する話題はすべてゾゾの知名度アップのためということだろう。

個人的な意見を付け加えるならば、前澤社長からの頻繁な話題提供やメディア出演が、ゾゾのイメージアップにつながっているかといえば、むしろ逆になっている面も否めない。一般論として、業績苦戦の下、本業と無関係な話題提供は、好意的には取られないだろう。ARIGATOサービス導入には、多くのテナント企業や投資家が、厳しい視線を注いでいる。こうした局面をどう打開するのか、前澤社長の次の一手に注目したい。

(JPモルガン証券 シニアアナリスト 村田 大郎 写真=AFP/時事通信フォト 構成=衣谷 康)