ここ数年、オフィスの緑化を進める企業が増え、なかには水が流れる小さな滝を表現するオブジェを導入したオフィスもある。これらは植物や水といった自然物をオフィス環境に導入することで、そこで働くスタッフに安らぎを感じてもらおうという取り組みだ。

しかし最近は、オフィスの緑化ではなく、「メディア・アート」により、スタッフに快適に働いてもらおうという動きも見え始めてきた。

そもそもメディア・アートは、「芸術表現に新しい技術的発明を利用する、もしくは新たな技術的発明によって生み出される芸術の総称的な用語」(出展:Wikipedia)とあるように、テクノロジーを活用した芸術作品。芸術ユニット「明和電機」や、メディア・アーティスト 落合陽一氏の作品が有名だ。

そのメディア・アートをオフィスに導入するのは、自然物による緑化オフィスとは方向性が真逆のようなイメージを感じる。だが、スタッフに心地よく仕事をしてもらおうという意味では、同じ方向を向いているといっていい。

こうしたメディア・アートによって、自社のオフィス環境を洗練、改善しようと積極的に取り組んでいる企業がある。ITインフラ構築や空間プロデュースなどを手がけている、アンダーデザインという企業だ。

洗練されたオフィス構築のためのメディア・アート

同社は「OFFICE × ART -digital-」をテーマとするワーク&アートスペース事業の展開を計画中。現在は自社のオフィスで実験中だが、成果があれば他社への販売を検討する考えだ。

実はアンダーデザインは、創業70年を数える意外と古い企業。戦後から高度成長期にかけて、急速に発展していった電話などの通信インフラの構築・整備をメインの事業としてきた。やがてITが発達すると、コンピュータ・ネットワークの領域にも事業領域を広げている。つまり、通信技術の進歩とともに、歩んできた企業なのだ。ちなみに、アンダーデザインの旧名は「旭コムテク」で、2018年10月に改称した。

戦後から通信インフラを手がけたアンダーデザインの受付電話。若い人のなかには、使い方がわからないという声も

現在、同社の名古屋オフィスにメディア・アートが導入されている。正方形の高輝度LEDパネル数枚がオフィス内に飾られているのだが、気象情報をネット経由で取得し、その変化によりツリー構造状に光が走るという映像を映し出している。この映像のパターンは気象情報の変化をもとにリアルタイムで生成しているので、常に変化し、同じ図柄になることはないそうだ。なお、この作品は映像音響インスタレーションを中心に国内外で活躍するアーティストの平川紀道氏によるもの。

高輝度LEDに映し出されるツリー構造

メディア・アート導入で企業のリブランドを推進

では、なぜメディア・アートを導入しようと考えたのか。アンダーデザイン 代表取締役社長 川口竜広氏は、「社員がクリエイティビティを発揮しやすいオフィス環境をつくるのが目的。日本の中小企業は技術力があるし、経営基盤が強いところが多い。だが、唯一足りなのが“クリエイティビティ”だと思う。この点においてはアメリカに大きく差をつけられている」と話す。メディア・アートをオフィスに導入すれば面白いし、クリエイティビティの向上につながるかもしれないと思ったそうだ。

アンダーデザイン 代表取締役社長 川口竜広氏

ただ、メディア・アートのオフィス導入にはもうひとつのねらいがあると川口氏は続ける。前述したように、同社は70年の歴史を誇る。ただ、それだけに組織が硬直しがちなのだそうだ。「これまで、何度か“企業のイノベーション”に挑戦した。だが、70年続けてきた“通信インフラ”というメインの事業の文化に押され、なかなか定着しなかった。それならば、まったくその領域と異なる文化を創り出すしかない」と川口氏は考えたそうである。それが、メディア・アートというわけだ。

そのためにリブランディングを行った。社名変更もしたし、これまでとは異なる新組織を立ち上げた。事業所も分け、そしてワーク&アートスペース事業に精通した人材を集めた。まずは、同社の名古屋オフィスでメディア・アートを試し、随時、ほかの拠点にも広げていく考えだ。そして“これはいけそうだ”という成果と手応えを感じたら、社外への提供も視野に入れている。

川口氏はメディア・アート導入でもうひとつの効果が得られたと話す。ホームページを洗練されたものに刷新した効果ともあいまって、就職希望者が増え、「これまで応募してこなかったような人材が採れるようになった」(川口氏)というのだ。

アンダーデザインが「OFFICE × ART -digital-」の施策を開始してから、まだそこまで時間は経っていないが、今後、メディア・アートを理解する企業が増えるかどうか、それが“新潮流”を生み出すカギとなるだろう。