離婚と自殺の関係とは?(写真:sam thomas/iStock)

平成とはあらゆるものが失われた時代だった。

前回の記事(『男女の「結婚観」は平成の間でこうも変わった』)では、平成年間で起こった大きな変化についてご紹介し、冒頭のように結論付けました。婚姻数が減り、離婚によって夫婦の数が減り、それに伴い、子どもの出生数も減りました。


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一方で、死亡者数が増え、その傾向は今後加速し、日本は多死社会になります。

もちろん、寿命や病気による死亡が大多数ですが、実は平成とは「自殺によって命が失われた時代」であったとも言えます。

明治から平成までの自殺者数

明治後期からの長期自殺率の推移をご覧ください。平成年間の1998年以降、年間自殺者が14年間連続で3万人を超えていました。平成30年間の半分の期間、それだけの自殺者が続いたのです。自殺率で見ても、ここ100年の中で最高記録となったのは平成時代でした。

年間3万人の自殺者のうち、2万人以上が男性です。女性より男性のほうが自殺者が多いというのは、ほぼ世界的に共通する傾向です。日本においても同様ですが、棒グラフで示した男女比で明らかなように、平成以降男女差が拡大し、最大で女性の3倍近くの自殺者が発生しています。


なぜ、平成に入り、男性の自殺だけが急激に増えたのでしょうか?

男性の自殺と失業率との間には強い相関があります。つまり、失業率が高いほど自殺率も高くなるということです。男女別に自殺率と完全失業率との相関を1960年から2017年までを比較してみました。

自殺と失業の関係

ご覧のとおり、男性の相関係数は、0.9368と最大値の1に限りなく近い、強い正の相関があります。1960年から2017年までの男性の平均完全失業率は2.9%ですが、男性の自殺者が年間2万人超だった1998年からの14年間の平均失業率は、4.8%と突出しています。一方、女性は、-0.1756とほぼ相関がないといっていいでしょう。女性の自殺は、失業とは無関係なのです。


幸いにも、近年の失業率は男女とも下がり続けており、2018年12月の完全失業率(季節調整値)は、男性2.6%、女性2.3%と、好景気に沸いた1990年代前半と同等レベルになっています。ということは、今後男性の自殺は減少するのでしょうか?

しかし、そう簡単に片づけられるものではありません。自殺と相関にあるのは、失業率だけではありません。離婚率です。

1989(平成元)年以降2017年までの自殺率と離婚率の男女別相関をグラフ化してみました。これによれば、男性の相関係数は、0.9229と、強い正の相関が見られます。これは、失業率との相関係数とほぼ変わりません。

平成以前の昭和後半30年を抽出して調べたところ、自殺率と離婚率の相関は男性0.6584、女性は-0.3013となりました。女性の場合は、昭和時代はむしろ負の相関で、離婚が増えると自殺は減っていたわけです。

もちろん、これはあくまで相関関係にすぎず、因果関係ではありません。離婚が増えたから男の自殺が増えたとは結論付けられません。しかし、男性の平成年間の自殺と離婚の決定係数は0.85であり、これは、離婚率の変化で自殺率の変化の85%を説明できることを意味します。女性の決定係数は0.25であり、明らかに男性だけに強い傾向であることがわかります。


配偶関係別(有配偶者、未婚、死別、離別)に男性自殺者の推移を見ると、より鮮明に離別男性の自殺が増えているかが浮き彫りになります。自殺者が増える前段階の1992年を1としたときの、配偶関係別の自殺者数の伸びを比較したグラフをご覧ください。自殺が増えた2000年以降から現在に至るまで、増加倍率がもっとも高いのが離別男性です。


ソロで生きる力が弱い

逆に、同じ配偶者を失った立場の死別男性の自殺は低下傾向にあります。1人きりになったとしても、離別と死別とでは自殺者の数が正反対の傾向となるわけです。

なぜ、離別した男だけが自殺してしまうのでしょうか?

以前、『なぜ「離婚男性」の病気死亡率が高いのか』という記事にも書いたとおり、離別した男性の「ソロで生きる力」は相当弱いものです。死別の場合は、事故などの突発の事態を除けばある程度事前の覚悟が可能です。

当然、配偶者が亡くなれば喪失感はありますが、死別はいかんともしがたい事情であり、悲しみや寂しさはあっても自己否定にはなりません。しかし、離別は相手による自己の拒絶であり、否定です。

そうでなくても、日本の既婚男性は、極度に配偶者に精神的依存してしまう傾向があります。それほど頼り切っている配偶者から完全なる自己否定を突き付けられるわけですから、離別男性が受ける絶望感は相当なものでしょう。

絶望はストレスを生みます。万病のもとと言われるストレスによって暴飲暴食や過度のアルコール摂取行動が誘引されるリスクもあります。そのため、離別した男性は、未婚男性よりも病気罹患率が高くなります。配偶者以外に頼れる人がいるならまだしも、友人もいないという状態だとなおさら「社会的孤立感」にさいなまれることでしょう。

世間で高齢者の孤独死が話題となりますが、現在孤独死している70歳以上の男性は皆婚時代の人たち、つまりほとんどが元既婚者です。孤独死に至るセルフネグレクト現象は、物理的に生きていながら、精神的に生きるのを放棄した状態であり、「心の自殺」と言えると思います。対して、離別女性は正反対です。そんな状態になるどころか、逆に幸福度があがるから不思議です。

私はこうした既婚男性だけに特徴的な状態を、「既婚男性の妻唯一依存症候群」と呼んでいます。既婚男性でも、子育て中や仕事に邁進しているときには出てきません。

子どもが独立し、定年退職して無職になった既婚男性(特に、現役中仕事に没頭し、無趣味な人)が突然発症するパターンが多いようです。まるで母親に甘えるがごとく妻に依存してしまいます。妻を大切に思うことと、妻だけに依存してしまうこととはまったく違います。

この連載で何度も申し上げていることですが、既婚者もいつかはソロに戻る可能性があります。平均寿命の延びに従って、夫が妻より長生きする場合も増えます。忘れてはいけないのが、熟年離婚の増加です。結婚後20年以上の離婚は、毎年確実に増加し、2017年は離婚総数内の構成比19%を超えました(人口動態調査)。

「人とのつながり」をためておく

私は、こういった話を対面調査で何人もの方とお話ししていますが、多くの既婚男性が「うちだけは大丈夫だ」と言って、あまり聞く耳を持ってくれません。自信は大事ですが、一度客観的にご自身の内面および夫婦の関係性を棚卸ししてみてはいかがでしょう。

頼れる人が1人しかいないとか、居場所が1カ所しかないという「選択肢が1つしかない唯一依存」が最も危険なのです。配偶者だけに依存しきっている男性が、配偶者を失って陥るのはまさにそうした空虚感で、相手の存在が消えるとともに自分自身の存在も見失うのです。

学生時代や職場で知り合った以外の友人は、今何人いますか?
名刺交換なしに誰かと気さくにお話しすることができますか?

老後のために資金を貯金することも大事ですが、「人とのつながり」をためておくことを忘れないでほしいと思います。繰り返しますが、未婚者より既婚者のほうがそうした危機感がありません。結婚している男性のほうこそ、万一の際に備えて、自身のネットワークを拡充していってほしいものです。

もちろん、浮気を推奨しているわけではありません。人との関係性が配偶者だけになっていないかを確認してほしいのです。学び直しをするもよし、何か新たに仕事を見つけることもよし。とにかく、人と接続する機会が大事です。それが、結局は結婚生活を長続きさせることにつながると考えます。