味の素の業績を牽引してきた、家庭用の冷凍食品が苦戦している(記者撮影)

味の素冷凍食品が不振だ。同社にとって、チャーハンや空揚げといった冷凍食品は国内食品事業の売上高のおよそ3割を占め、これまで業績拡大の牽引役だった。

ところが、今2018年度に入って飲食店や中食向けの業務用は堅調ながら、「家庭用の冷凍食品は2ケタ近い減少が続いている」(味の素のIR担当者)という。同社は1月31日に2018年度の冷凍食品セグメント見通しを下方修正し、売上高が978億円(前期比3%減)になるとした。同セグメントの下方修正は、今年度に入って2度目となる。

味の素冷凍食品では、家庭用が売上高の6割(約600億円)を占める稼ぎ頭だ。家庭用市場では、マルハニチロ(2017年度売上高607億円)やニチレイ(同572億円)と並び、トップメーカーの一角を占める。

冷凍食品市場は右肩上がり

国内の食品市場の中では、冷凍食品は数少ない成長分野。日本冷凍食品協会によれば、家庭用の市場規模は2017年に3020億円と、10年前に比べて2割超伸びた。単身世帯や共働き世帯の増加による調理の時短・簡便化ニーズを受け、市場拡大を続けている。「今後数十年は、安定的に伸び続ける分野」(冷凍食品メーカー幹部)との声すら上がるほどだ。

それだけに、競争も激化している。小売り企業は安価なPB(プライベートブランド)を積極的に開発。少子化のあおりで弁当向け製品が振るわない一方、食卓向けが堅調なことから、弁当向けの製品が多かったメーカーからも食卓向け製品の投入が相次ぐ。「限られた冷凍食品売り場で、棚の奪い合いが激しくなっている」(冷凍食品メーカー関係者)。

味の素には、同社が「三種の神器」と呼ぶ3本柱がある。「ギョーザ」と「チャーハン」、「空揚げ」だ。そのいずれもが、競争の激しさのために苦戦を強いられている。

3本柱のうち、売上高の中でもっとも大きなウエイトを占めるのがギョーザ。およそ200億円の売り上げ規模があり、冷凍ギョーザ市場の中ではシェア5割を誇る。2012年には「水なし・油なし」で調理できるよう製品をリニューアルして大ヒット。以来、冷凍ギョーザ市場を牽引してきた。


ただ、競合メーカーが同様の製品を続々と発売したため、現在の冷凍ギョーザ市場では「水なし・油なし」は“当たり前”になってしまった。いまや「フタなし」で焼けることを訴求する他社製品もある。

味の素はテコ入れを図るため、2018年8月に冷凍ギョーザ製品をリニューアル。皮を薄くし、使用している野菜をすべて国産に切り替えた。加えて、「しょうがギョーザ」や大袋入りの大容量製品も投入した。

だが、テコ入れの効果は限定的だった。新製品が上乗せされることで前年の売上高を超えることはできたが、ラインナップを増やしたことで「新規顧客が増えたのではなく、自社製品の中で消費者を奪い合う“カニバリ”が起きてしまった」と、IR担当者は説明する。

空揚げやチャーハンも苦戦

同様に、空揚げやチャーハンも苦しい。冷凍空揚げ市場では、2017年3月にニチレイが投入した「特から」がヒット。「市場でのシェアも一気に奪った」(ニチレイのIR担当者)。この結果、味の素とは対照的に、ニチレイの2018年度家庭用冷凍食品は前期比5%増での着地となる見通しだ。

チャーハンなどの米飯類も、2015年に発売した「ザ チャーハン」がヒットして以降伸び悩む。競合他社は「ピラフ」や「チキンライス」、「焼きおにぎり」など製品群を充実させている。一方、味の素は主力の「ザ チャーハン」に注力するために一部製品を終売にした。この施策が裏目に出て、「売り場での存在感が弱くなってしまった」とIR担当者は語る。

冷凍食品の見通し後退に加え、海外事業の不振によって300億円近い減損損失を計上したことにより、味の素は2018年度の全体業績見通しも大きく減額。売上高は従来計画に対して84億円引き下げ1兆1468億円(前期比2.9%増)に、純利益は334億円引き下げ216億円(同64.1%減)になるとした。水準は高いとはいえ、大幅減益である。

来2019年度以降に業績を再拡大させるには、冷凍食品の立て直しが求められる。来年度が、今後の動向を占う正念場になりそうだ。