余命3年の社長が前科者500人を雇う理由
■一人当たり40万円負担、土地を売って捻出
創業して46年。2代目小澤社長は今春で社長就任5年目となる。これからというときだが、残された時間は3年。脊髄小脳変性症という難病を患っており、余命宣告されているからだ。小脳が委縮して体が徐々に動かなくなる病気で、うまく話せず歩けない。そんな状況でも、小澤社長は人を思う。
「いまも刑務所で待っている人が全国にいっぱいいるんですよ。そのためにやるべきことをやるのみです」
受刑者を雇うのは父である先代の社長から続く方針だ。小さいころからその環境を見てきた小澤社長にとって、当たり前のことだった。
小澤さんのもとには、毎日5〜6通の手紙が刑務所から届く。すべてに目を通し、就職を希望していれば、面接のために全国の刑務所を回る。就職が決まれば、今度は出所から札幌までの交通費や生活用品一式を用意。そのほか、業務に関わる各種資格取得費用なども合わせると、平均して一人当たり約40万円を負担することになる。その費用はもともと持っていた土地や不動産を売却して捻出している。
「前科があるせいで働けなくて、働けないから再犯してしまうという事情が元受刑者にはあります。腹が減ってどうしようもなくてパンを盗んでしまうくらい本当に困っており、助けを求めているのです。ただ、こちらにも彼らを雇うメリットはあり、人手不足が叫ばれる昨今でも、当社はこれまで人手に悩んだことは1度もないんです」
だが、世間一般からすれば元受刑者は近づきがたい。
「どんな人かなんて雇ってみないとわからないですよ。暴走族の元総長は、仕事をする中で『初めて褒められた』と感動していました。それまで褒められたことがなかったんですね。その後、ものすごく伸びました。少年院に3回も入った人も立派に更生し、いまでは独立して経営者として頑張っています。元受刑者だってできる人はできます」
しかし、社員として定着する元受刑者は1〜2割だという。入社一日で行方をくらます人も珍しくない。
「定着するためには心を開いてもらうことが大事」と語るのは、社員寮を管理する北厚也寮長。北寮長もかつて警察にお世話になった1人。「飲みニケーション」を大切にしているという。
「社員から『話したいことがある』と言われたらまず飲みに誘います。べろべろに酔って本音を語ってすっきりしてもらうのが一番。本人が言いすぎたと後悔しないように私も酔っ払って『きっと覚えてないだろう』と思わせるくらいがちょうどいいんです」
小澤社長も一緒に酒を酌み交わし、社員一人ひとりに寄り添うことも欠かさない。「余命3年」の中で、仕事以外にやりたいことはないのだろうか。
「いまを一生懸命生きようと思っているので、もう十分面白い」
何度聞いてもその言葉にブレはない。一方で黙っていられないこともある。
「当社だけでなく、これからいろんな会社が出所者雇用に取り組むためにも社会を変えていかなくてはなりません。そのために、北海道から法務局へ何度も足を運んで意見書を出しています。助成金制度があっても当社でさえ最高額は1度しかもらえておらず、まったく足りていません。国の援助や優遇措置を充実させてほしいと思います」
しかし、その成果は法務大臣に直接会えるようになった程度で、具体的な動きは見られない。意見書には「私がやめたら再犯が増えます(余命3年)」と書かれてあり、焦りがにじむ。それでも独立した元社員が小澤社長に倣って出所者雇用を進めるなど、取り組みは広がりつつある。
「刑務所にいると一人当たり年間300万円の税金がかかるといいます。出所して働けば税金を払う側になるんです。社会のためにも個人のためにも出所者雇用に力を入れてほしい」
(フリーライター ツマミ 具依 撮影=横溝浩孝)