鳥貴族の既存店売上高は13カ月連続の前年同月割れに。値上げ以降、厳しい状況が続いている(撮影:今井康一)

焼き鳥居酒屋チェーン、「鳥貴族」の客離れが止まらない――。

同社の2019年1月の既存店売上高は、前年同月比7.8%減という厳しい結果だった。これにより、既存店売上高は13カ月連続の前年割れ。つまり、前年割れの状況が2周目に突入し、長期化している。

「出店ペースが速すぎた」

鳥貴族は2017年10月に、人件費や食材の仕入れ価格の高騰を理由に、全品280円均一から298円均一への値上げに踏み切った。すると、4カ月後の2018年1月から客数減が顕著になった。値上げが一巡した2018年10月以降もズルズルと減り続け、さらにこの1月も5.5%の減少となった。

集客力低下に歯止めがかからないのはなぜか。鳥貴族の大倉忠司社長は2018年10月に行った東洋経済のインタビューに対し、「客数減の要因は値上げだけでなく、出店ペースが速すぎたことによる自社競合も大きい」と答えた。実際、2018年4月〜7月にかけて客数の落ち込みが大きかったが、この間は矢継ぎ早に出店していた時期であり、月間の店舗純増数(出店数-退店数)が2桁増となっていた。

加えて、競争環境も激化している。鳥貴族の店舗が構える商業ビルの別フロアに、同社よりも安い「270円均一」を掲げる他チェーンが入居してくるケースもある。「鳥貴族はいつも混んでいる」とのイメージもあり、実際には店舗数が増えて空席があっても、それが認知されずに競合他社に顧客が流れた事例もあるようだ。

さらに見過ごしてはいけないのが、値上げが一巡した2018年10月以降は客単価も減少に転じたことだ。同年10月から客単価は2〜3%の減少が続いている。値上げによる客単価押し上げ効果が2〜3%程度だった。つまり、客単価は値上げ前の水準に戻った形だ。


値上げが一巡しただけならば、客単価は前年並みになるはず。客単価まで下がってしまった要因の1つと見られるのが、展開に力を入れている「メガハイボール」の影響だ。

鳥貴族は現在、通常の2倍の量のハイボールを、均一料金である298円で提供している。当初は2018年9月13日〜10月17日までの期間限定での投入だったが、好評を受けて10月のグランドメニュー改定と同時にレギュラー商品に組み込んだ。

ドリンクの注文点数が減った?

約700ミリリットルの大ジョッキでハイボールが飲めるため、顧客の満足度は高まった。だが、かえって1人あたりのドリンク注文点数の減少につながった可能性がある。鳥貴族の客単価は通常2000円〜2100円(税別)だが、10月以降はそこから50円程度落ちこんでいる。約6人に1人がドリンクの注文を1杯減らせばそうなる計算だ。会社側は「メガハイボール投入と客単価減少の因果関係は明確に確認できていない」とするものの、無関係ではないだろう。

実は、鳥貴族では2017年から2018年にかけて直営店約300店にタッチパネルを導入した際にも、1人あたりのドリンク注文点数が減少した過去がある。従業員による「もう1杯いかがですか」といった顧客への声かけの機会が減ったことが一因だ。タッチパネル導入時と同様に、今回も顧客の利便性や満足度を求めた結果が裏目に出てしまった。

不調が続くとはいえ、鳥貴族が復調する時期はそう遠くないかもしれない。同社は現状に手をこまぬいているわけではなく、さまざまな施策を打っている。

出店ペースが速すぎて顧客の獲得が追いつかなかった反省から、今2019年7月期(2018年8月〜2019年7月)は新規出店を41店と、104店を出店した前期の半数以下に抑制。前期までに出店の計画が決まっていた案件に絞っている。満席状態の店舗では、スタッフが近隣店舗の空き状況を調べ、顧客にそこまでのルートを案内する連携策も取り入れている。

メニュー改定を年2回から3回に

これまで春と秋の年2回だったグランドメニューの改定も、今期から10月、3月、夏前の年3回に増やす。オペレーション負担の増加を避けるためメニュー数は維持しながら、季節感を意識した商品を充実させる。「とり釜飯」のようなヒット商品を出すために、メニュー開発も強化する。


鳥貴族の大倉忠司社長は2018年10月の東洋経済のインタビューで、「値下げは絶対にしない」と強調した(撮影:吉濱篤志)

また、これまでの「国産国消」というキャッチコピーは認知度が低かったため、2018年10月のメニュー改定と同時に、メニューブックの表紙に「鶏肉も!野菜も!食材は全て国産100%」と打ち出した。SNSでも積極的にアピールする。

さらに、顧客にとって満足度が高いメガハイボールを店頭で積極的に販促し、客数の回復につなげる構えだ。

「以前は平日でも満席状態だったことが頻繁にあったが、今はすぐに入れることが増えた」と、学生時代から鳥貴族を利用する20代女性は現在の状態を歓迎する。現在は急拡大、急成長期に招いた混乱から、落ち着きを取り戻そうとしている段階なのだろう。中長期的な視野で動向を見ていく必要がありそうだ。