「クマのプーさん展」が10倍楽しくなる! どこよりも詳しいプー展Web上ガイドツアー

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「クマのプーさん展」が2019年2月9日(土)〜4月14日(日)まで渋谷Bunkamura ザ・ミュージアムで開催されています。

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プーを研究してきたライターが、「クマのプーさん展」で見るべきポイントをガイドします。

プーとは「現実と空想の狭間」の世界観

英文学者の安達まみさんはプーについて「ほのぼのとした印象に包まれて、さまざまな次元がゆるやかにオーバーラップする物語」と表現しています。

簡単にいうと、現実と空想の狭間がプーの世界観ということ。

単なる空想の世界ではなく、現実世界との揺らぎがあるからこそ、子供だけでなく大人にも親しまれる世界観になっているのです。

「クマのプーさん展」では、いかにして現実と空想の狭間の世界が作り上げられてきたかを、本物の原画を通じて見ることができます。

次元と次元の狭間に飛び込んで

最初に展示されている原画は、クリストファー・ロビンがプーを持って階段を降りてくるシーンと、階段をのぼるシーンの挿絵。

「クマのプーさん」第1章の冒頭は、百町森(100エーカーの森)ではなくクリストファー・ロビンの家から始まります。

クリストファー・ロビンが父親(著者)と会話しながら、プーと自分の物語を聞かせてもらうという形式です。

ディズニーアニメーション版でもこれを踏襲して、オープニングは子供部屋の実写カットから始まります。

このクリストファー・ロビンと父親のシーンではプーはあくまでぬいぐるみであり動きません。

つまりプーは物語中の物語という2重構造になっており、冒頭は作中の現実世界です。

まさに次元と次元の狭間に飛び込むのがこの挿絵です。

史実を知って物語の世界と見比べる

「現実と空想の狭間」の現実世界とは何なのでしょうか?

企画展第1章では、「さて、おはなしがはじまります」と題して、プーが生まれた背景を見ていきます。

「クマのプーさん」は1926年、続編「プー横丁にたった家」は1928年に、A.A.ミルンによってロンドンで発売されました。

彼は一人息子のクリストファー・ロビン・ミルンと、クリストファーのテディベアをモデルにして物語を書きました。

さらに物語の舞台である百町森(100エーカーの森)は、別荘があったロンドン郊外のアッシュダウン・フォレストがモデルです。

クリストファーは作中の遊び「プー棒投げ」について、自分が遊んだのが先か父が物語として創作したのが先かは覚えていないが、プー棒投げを実際に遊んでいたと語っています。

このように、プーとクリストファー・ロビンの冒険は現実なのか空想なのか曖昧なところにあるのです。

今回の企画展では、ミルン親子の写真や、ミルンの朗読音声、当時のテディベアやアッシュダウン・フォレストの写真など、プーの現実部分に触れられる貴重な資料が並んでいます。

そしてもう一つの写真に写っているのが挿絵画家E.H.シェパードです。

「クマのプーさん」シリーズの挿絵を全て描いたE.H.シェパードはミルンと同じロンドンで暮らしていました。

彼らは当時としては珍しく、文章と挿絵を一体的に表現しようと、念密に連絡を取り合って創作を進めていました。

E.H.シェパードは実際にコッチフォード・ファームを訪ね、クリストファー・ミルンやプーたちぬいぐるみ、アッシュダウン・フォレストの風景を正確に模写しました。

模写を元にして、物語のプーの世界を描いていったのです。

企画展このコーナーのポイントは、シェパードが正確に模写したぬいぐるみたちやアッシュダウン・フォレストの風景。

動きのないぬいぐるみや、念密な草木の描写が、後の挿絵でどのように変化していくのか注目してみてください。

現実が空想に移る過程

企画展第2章は「お話は、どうかな? 」と題して、プーの挿絵の世界をたくさんの原画に囲まれて体験できる貴重な空間です。

一枚一枚鉛筆の細かい線まで堪能できる機会は本当に貴重です。

お気に入りのシーンを探してみてください。

ポイントは、先ほどのスケッチとの変化。

つまり、現実を描いた模写を空想世界へと変化させる課程に注目です。

草木が実際のアッシュダウン・フォレストとどれほど近いものか、どのように描写が省略され背景になっているのか、シェパードの美しい描き方が見て取れます。

さらにプーたちキャラクターも立ち姿から性格がわかり、一枚の絵から動きまで伝わってきます。

ぬいぐるみの模写と見比べて、どのようにプーたちを描いているのか、その一瞬を切り取って描く技に注目です。

シェパードはキャラクターの感情を表情ではなく姿勢で表現します。

プーも後ろ姿の方が印象的でそのシーンの空気を感じさせるものが多いです。

空想の世界へ引き込む術

第3章は「物語る術」。

シェパードが用いた技法がより具体的に紹介されていきます。

先ほどから見てきた自然の描き方やキャラクター表現をもっと深く見ていきましょう。

ここでは、鉛筆で描かれた絵とペンで描かれた絵を見比べることもできます。

よりはっきりと草木の描写が省略される様子がわかります。

空白によって読者の想像力に委ね、キャラクターを引き立てる術です。

さらに、「浮かぶクマ丸」のシーンでは、連続画でキャラクターの動きを表現。

連続画とはいえ、パラパラ漫画のような連続ではなく、一枚一枚の絵の間に時間が少し空いています。

それぞれの絵だけでも動きを感じさせる絵だからこそ、6枚の連続画でもある程度長い時間を表現できるのです。

そして、「クマのプーさん」の特徴は、文章と挿絵の配置まで計算されていること。

先述の通り、ミルンとシェパードは念密に打ち合わせながら制作を進め、文章と挿絵の効果を最大限に引き出す構成を作りあげました。

ページ全体が一枚の絵であり、物語の説明を敢えて文章では行わず挿絵に任せることまで行っています。

出版、カラー化、そして日本へ

第4章は「プー、本になる」と題し、実際に出版されてからの展開を見ていきます。

初版本や、当時の印刷工程を見ることができます。

さらにシェパードによる彩色版、重版の末に様々な形式で書籍化された歴史が見て取れます。

そして日本だけの展示として、「日本とプーさん」というコーナーも。

ここでは邦訳者の石井桃子さんを特集。

「クマのプーさん展」や本記事でも使用している訳語は全て石井桃子訳によるもの。

ディズニーの吹き替え台詞までもが一部で使用するほど、まさに日本におけるプー邦訳の決定版ともいえるのが石井桃子訳です。

その足跡を紹介するとともに、原語版と石井桃子訳版の両方が楽しめる環境の素晴らしさを知ることができます。

世界一有名なクマになる過程

最後は第5章「世界中で愛されているクマ」。

ここでは本を飛び出したプーの様々な展開を見ていくことができます。

パロディや、世界各国での訳版、ディズニーアニメーション化、そして様々なグッズ展開を見られます。

時代や国によってプーの姿がどう変化していったのか、世界中で100年近く愛され続ける姿を改めて実感できます。

そしてそのまま最新グッズが広がる物販コーナーへ抜け、「クマのプーさん展」は終了です。

「クマのプーさん展」の見所を駆け足で巡ってきました。

百聞は一見に如かず、本物の原画を見ればプーの世界観がどう生まれたかよく分かります。

ぜひ貴重な資料の数々をその目で味わいに行ってください。

クマのプーさん展
会期:2019年2月9日(土)〜4月14日(日)
休館日」2月19日(火)、3月12日(火)
開館時間:10時 〜 18時 毎週金・土曜日は21時まで(入館は各閉館の30分前まで)
会場:Bunkamura ザ・ミュージアム(渋谷・東急本店横)
入館料(税込):一般1,500円、大学・高校生900円、中学・小学生600円、親子券1,600円