神戸市役所本庁舎(左のビル)

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神戸市はいま、市職員労働組合の役員が、勤務実態がないのに給料を不正に支給されていた「ヤミ専従」問題に揺れている。

この違法な労使の癒着は、現市長の下で昨年発覚し、組合側に不正に支払われた額は少なくとも年間約3000万円、累計では数億円規模に上る。

事態を重く見た自民党と日本維新の会は、癒着を断ち切るため、組合費を市職員の給料から天引きで徴収する制度を廃止する条例案を市議会に提出し、今日から始まる本会議で審議する。1995年に発生した阪神大震災以降、強まってきた労使癒着の膿を出し切れるか。神戸市は正念場を迎えている。

「絶滅」したはずなのに

ヤミ専従とは、中央官庁や自治体の労働組合の役員が、正規の手続きをとらないで勤務しているように装い、本来無給のところを、給料を受け取りながら組合活動に従事することを指す。

地方公務員法では「職務専念義務」が定められており、基本的には、勤務時間中に組合活動を行うことは違法だ。

ただ、「適法な交渉」については勤務時間内に行うことができるとも書かれており、一部の自治体では、組合活動中に給与を支払う「特例」を設けた条例を制定している。これが不正の温床となってきた。組合活動をするには所属長への申請が必要だが、口頭のみで済むなど、手続きがルーズな場合があるためだ。

神戸市では昨年9月、「組合幹部が勤務時間中に席にずっといない」といったネットの書き込みなどにより問題が発覚した。市は弁護士による第三者委員会を設置し、調査を始めた。

その結果、2017年度だけで、一般行政職員からなる市職労などの組合役員に支払われた不適正な給与総額が約2920万円、13〜18年度では約1億5000万円に上ることが判明した。長年にわたって続いた癒着関係を考えれば、数億円規模で税金が不正な給与支出に充てられていたことになる。退職金についても、12人に約5000万円が不正に支払われていた。

そのほかにも、少なくとも1980年ごろから、組合役員が職場を離れやすいよう、その所属部署に職員が追加配置されていた。役員には担当業務が割り当てられていなかったり、本来やるべき窓口勤務が午後から免除されていたりしたケースもあったという。

この実態を受け、神戸市は今月6日、問題に関与した退職者を含む189人を同日付で処分したと発表した。労組役員や人事部局の職員ら73人が懲戒処分、116人が訓戒処分となった。

神戸市役所本庁舎(左のビル)

ヤミ専従問題では、2004年に大阪市で組合幹部129人が処分され、不正受給した給与1億1200万円を自主返納するなど、過去にも全国で取り沙汰されてきた。ただ、総務省が前述の「特例条例」の適用を厳格化したことで、ここ10年ほどは大規模な事案が明らかになることもなく、状況は改善していると思われていた。

神戸市の久元喜造市長も「とっくの昔に根絶された問題と理解していた」と驚きを隠さず、ヤミ専従を「亡霊」と表現している。では、なぜ神戸市だけで、ヤミ専従が現在まで生き残ってきたのだろうか?

阪神大震災が生んだ「負の遺産」

歴史を辿ると、神戸市のヤミ専従問題のルーツは、1949年に共産党員とその支持者を追放するいわゆる「レッド・パージ」で、市の労使が協調したことにある。その後、1973年の市長選で誕生した「革新自治体」下で強化された。

この市長選は、当時の宮崎辰雄市長の2期目の選挙で、宮崎市長は関西空港の神戸沖誘致反対を表明し、社会党、共産党などの推薦を受けた。共産党が市政与党に入るオール与党体制は震災直前の1993年まで続いた。

1970年代以降、全国で生まれた革新自治体では、異様に高い職員給与やヤミ専従、組合の自治体経営への介入などが厳しい批判を受けてきた。神戸市も例外ではなく、20年以上にわたってはびこった労使癒着の悪習が、阪神大震災による市財政の急速な悪化をきっかけに、さらに広がることになる。

震災のあと、神戸市は職員の大幅削減が必要な状況に追い込まれた。当時の事情を知る神戸市職員は「労働組合の協力は不可欠で、職員削減をはじめとする改革を職場で説得する役割は、実質的に組合が引き受けた」と話す。

実際、神戸市は他の自治体の倍以上のペースで人員削減を実現し、外郭団体への派遣職員を含めて、震災前の3割に当たる約7000人を削減した。厳しい財政状況を回復させるための苦肉の策であったことは間違いないが、先の市職員は「この時に組合側に過剰な貸しを作ったことが、ヤミ専従など役員厚遇の『負の遺産』として残ってしまった」と振り返る。

市職労が持つ「権力」の実態

神戸市職員の労働組合の中で最大の神戸市職員労働組合(市職労)は、一般行政職員約9000人からなり、組合加入率は9割以上と、他の自治体に比べても圧倒的に高い。全国的に組合離れが進む流れの中では異例と言える。

市幹部は「市職労への加入は、嫌がらせを受けないための保険」と話す。神戸市では今年度に至るまで、新規採用職員研修で組合役員が講義をした後に、組合への勧誘活動や加入手続きの案内を行っており、加入しなかった新入職員には、別の日に改めて加入するよう説得していた。市幹部は「いわば『無言の圧力』と言っていい」と指摘する。

市職労による職場での「監視」も徹底している。「たとえ組合員でも、幹部が決めた方針に異を唱えるような人間がいれば、周囲の組合員がすぐに執行部に密告します。勤務中に呼び出されたり、所属長に執行部から内々に連絡がいく、といった例は数知れません」(前出・市幹部)。何事につけても市職労にお伺いを立てければならない労使関係が常態化していた。

市職労の力は、市の人事にも大きく影響した。別の市幹部は「市役所内の大きな派閥の一つに人事畑の人事族があり、当然人事権が武器ですが、ここに深く市職労が食い込んでいました」と言う。

この市幹部によると、人事族の出世ポストの一つとして、組合側と折衝する「給与係」があるという。「執行部幹部の『お世話係』です。ここで幹部に気に入られると『あいつは話がわかる』と、市の上層部に推薦される。彼らは実績があるわけではなく、単に周囲を監視して上にチクって点数を上げているだけなので、職員の間でも冷ややかに見られていました」

歴代市長が労使の癒着にメスを入れることができなかった背景には、市職労の大きな集票力がある。約9000人の組合員にその家族も加えれば、数万票単位の組織票が見込める。さらに、神戸市も含めた地方自治体の首長選挙は行政職員OBが主要な役割を担うため、市職労と敵対し、市OBの協力を失うとなれば死活問題だ。

前出の市幹部は「(現職の)久元市長も、権力基盤の固まっていない1期目には市職労に対して丁寧に接していました。約2000人が集まる市職労の集会でも、協調路線の演説をしていましたから、影響力は当然ご存知だったはずです。2期目に入ってヤミ専従問題が顕在化し、違法状態をこれ以上放置できないと覚悟を決めて、この問題に切り込んだというのが正確なところでしょう」と分析する。

市職労が入る建物

君臨した「影の第4副市長」

神戸市職労の「歪み」を端的に象徴するのが、「影の第4副市長」と呼ばれた前委員長だ。神戸市の副市長は本来3人だが、この前委員長の権力の大きさから、市職員の間では恐れを込めてこのような異名がついた。

前委員長は2000年11月から17年3月まで市職労委員長を務め、退任後も顧問に就任した。約20年にわたって市職労の頂点に君臨し、その待遇は破格だ。

市庁舎3号館の9階には、市から無料で借りる形で個室が設けられた。市幹部は、本来政策決定に無関係のはずの前委員長に、政策について根回しするのが慣例となっていたという。

ヤミ専従問題の表面化を受け、前委員長は昨年9月末で顧問を辞職している。厚遇に対する不満が、問題表面化の原因の一つになったとみられる。

「神戸ムラ」と化した理由 

神戸市は高度経済成長期に、市街後背地の六甲山系を切り崩して臨海部を埋立造成し、住宅用地に開発するなどの先進的な手法で「株式会社神戸市」と呼ばれた。全国の自治体経営の手本とされ、国際的にも「神戸モデル」として注目されるほどだった。

しかし近年、都市間競争が激化する中、2016年には福岡市に人口を追い抜かれ全国6位に転落するなど、市勢の衰えは隠せない。市幹部は「行政主導の成功という過去の栄光が、『神戸市はすごい』という慢心を生み、自浄能力を奪った。職員に危機感があれば、『神戸ムラ』内部の出世以外にも目が向いたはずだ」と嘆く。

今回、ヤミ専従問題に切り込んだ久元市長は、矢田立郎前市長まで市職員からの生え抜き市長が約半世紀続いた後、就任した。

神戸市の衰退を予期していた矢田前市長から、総務省自治行政局長時代に請われる形で出馬したが、「神戸ムラ」はよそものを必ずしも歓迎しなかった。

久元氏は市役所内の人事システムの改革を大テーマとして進めている。「市職労や人事族に支配されてきた庁内の風通しを良くして、若い人材の新しい発想を入れない限り、神戸市の成長はないという意識が前提にある」(前出市幹部)とみられる。

長年の膿を出し切れるか

今日12日には神戸市議会が開かれ、組合費の給与天引きを廃止する条例案が提出される。市職労側は昨年の問題発覚後に開かれた記者会見で、副委員長が「別途徴収するとなると、組合の負担になる。組合に認められた基本的な権利であり、理解してほしい」と、天引き廃止に難色を示している。

条例案をめぐっては、元々、自民党と維新の会の2派が昨年11月の本会議に案を提出したが、与党である公明党が提案者に加わらず、旧民主系のこうべ市民連合が反対し、結果、継続審議になるという異例の経過をたどった。

ヤミ専従という、組合と市の癒着を先頭に立って追及したい自民、労働組合を支持母体とするこうべ市民連合、これまでの与党(自民、公明、こうべ市民連合)体制の瓦解への危機感を持つ公明など、統一地方選を見据えた利害の対立が、条例案成立の足かせとなるかにみえた。ただ、当初は採決を棄権するかにみえた公明が条例案を一部修正のうえで賛成する方針に転換したとの報道も出ており、この議会で成立する公算が高まっている。

市幹部は「福岡市などは、神戸が震災で苦しんでいる間に先のことを見越して人員を拡充し、投資もできた。『神戸ムラ』のしがらみのない現職の久元市長の時代に、ムラの膿を出し切らなければ市民に申し訳が立たない」と語る。

神戸市中心部・阪急三宮駅前

全国の自治体では、政策を実現する過程において、労働組合や自治会などの団体やその「ボス」の政治力が絡むことが少なくない。ただ、お互いを利用し利用されるうちにいつしか癒着が生まれ、自治体運営に支障をきたすようになっては、本来仕えるべき市民を向いた行政とは言えない。

今回の神戸市と市職労の事例は、自治体行政を考える上で一つの試金石となりそうだ。神戸市はヤミ専従問題という「亡霊」を断ち切れるか――。今月の議会の行方に注目が集まっている。