タイのモーターショー(2017年)でも展示され現地で人気のパジェロスポーツ(EPA=時事)

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 2018年、久々の新型車となるSUV「エクリプスクロス」を発売した三菱自動車が、近い将来、さらに商品ラインナップを増強するという話が急浮上している。新たに投入されるとみられるモデルは、海外市場向けに販売されていた本格SUVの「パジェロスポーツ」だ。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏は、パジェロの日本復権こそ三菱のブランド戦略にとって大きな意味を持つと指摘する。その理由とは──。

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 パジェロといえば、クロスカントリー4×4(四輪駆動車)ファンなら誰でも知っているであろう、三菱が生み出したSUVの老舗モデルだ。乗用車ベースのSUVと異なり、大きな入力への耐性が高いフレームボディという構造を持ち、泥道や砂利道といったレベルを越えた悪路、道なき道を行くためのオフロードモデルである。

 では、そのパジェロにスポーツが付く、パジェロスポーツとは、どのようなモデルなのだろうか。

 端的に言えば、パジェロスポーツは本家パジェロとは別系統のモデルだ。1996年、日本市場に「チャレンジャー」の名で投入された初代はパジェロの車台を流用して作られていたのだが、日本での販売が中止された後、海外で販売されていた2代目、そして2015年に発売された現行の3代目は、ピックアップトラックの人気モデル「L200」をベースに作られたものだ。

 3列シートモデルを装備可能な点はパジェロと同じだが、車体の大きさ、および全備重量はパジェロよりひとまわり小さい。また、ルーフが低いのも前出のチャレンジャー時代からの伝統だ。パジェロがひたすら頑強さ、生存性などを追求したモデルであるのに対し、パジェロスポーツはややファッション寄りのモデルと言えるだろう。

 だが、「何だ、パジェロとは違うのか」とがっかりするには及ばない。ベースとなったL200は、トラックといえどもオフロードモデル。岩だらけの山岳を走っても車体がダメージを負いにくい強固なフレーム構造を持っている。その資質はパジェロスポーツに丸ごと受け継がれていることだろう。

 悪路だけではない。三菱は昨年夏、イギリスにパジェロスポーツを「ショーグンスポーツ」という名で投入した。日本のカタログスペックには記載されないが、現地では渡渉性能、すなわち川を渡る能力も公表されており、その水深は何と70cmである。

 パジェロスポーツが人気を博している国を見ると、ロシア、オーストラリア、ブラジルなど、おしなべて道路環境の厳しい国だ。

 その厳しさは日本ではちょっと想像できないレベル。道路に設置された行き先案内板に「マガダン(カムチャツカ半島対岸の町)3000km」みたいな表示がさも当たり前のように立っていて、その過半が未舗装路だったりするのだ。遊びではなく、通行のために川を渡渉するような場所もある。パジェロスポーツはそういう道を走るためのクルマなのである。

 ほとんどの道路が舗装され、クロスカントリー性能はほとんど要求されない日本でそんな本格4×4をなぜ売るのか。そこに年産120万台という小規模メーカーである三菱のブランド戦略が垣間見える。

 フラッグシップであるパジェロが生産中止になるという報道がこれまで何度かメディアを賑わせたことがある。三菱マンのひとりは、「そのたびにお客様から多くのお叱りの言葉をいただいた」と振り返る。

 三菱のブランドイメージはオフロードのパジェロと、ラリーカーのベースになる高性能セダンの「ランサーエボリューション」がけん引役であったのだが、すでにランサーエボリューションはモデル廃止となり、存在しない。もうひとつのモニュメントであったパジェロまでなくすとなれば、三菱ファンが心中穏やかでいられないのも無理はない。

 一方、以前に益子修社長(現会長兼CEO)が発した「もはやパジェロを作り続けられる状況ではない」というのも無理からぬところ。グローバルでも月産数百台という規模のパジェロをモデルチェンジする余力は今の三菱にはない。

 現行パジェロも、旧型のシステムをほぼ丸ごと引き継ぐことで辛うじて出せたようなものだ。筆者は2年ほど前、現行パジェロのターボディーゼルを500kmほど走らせてみた。基本性能はデビュー10年以上を経てもなお素晴らしいものがあった一方、安全装備の欠如、エンジンノイズの大きさ、高額モデルに要求される質感などは現代の第一線級からは遠くかけはなれてしまっていた。これ以上の延命は難しいというのは確かだ。

 パジェロを作り続けるかわりに、オフロード性能は十分に持ち合わせているパジェロスポーツを先進国市場に投入するというのは、三菱にとってはなかなかの妙手である。

 前述のように今は世界的なSUVブームだが、その多くは乗用車ベースのモデル。コストが安いことと、オンロード性能を確保するにはそのほうが有利というのが主な理由である。

 パジェロスポーツのようなフレーム構造を基本とするクロスカントリータイプはオンロード性能ではそれらのモデルに劣る傾向があるため、少数派になっている。日本メーカーでは日産自動車が日本市場でのフレームモデルの販売をやめ、今では三菱および「ランドクルーザー」「ランドクルーザープラド」を擁するトヨタの2社のみである。

 見方を変えると、これは年産120万台規模の三菱にとっては、格好のニッチマーケットである。パジェロスポーツくらいのサイズ感のクロスカントリー4×4はランドクルーザープラドの1モデルしかなく、ヘビーデューティ志向のユーザーにとっては商品不足の状態が続いている。

 幸いにして、パジェロスポーツはサイズ的に日本で使うのに向いている。全幅は1815mmと、今どきのSUVとしては結構狭く、細い道でも取り回しはそれほど悪くないことが予想される。全長も4.7m台と、中型SUV並みだ。

 昨年夏のイギリスに続き、パジェロスポーツを日本に投入できれば、三菱にとって得られるものはいくつもある。

 まずは、かりにパジェロを作り続けられなくなっても、クロスカントリーイメージを維持できること。パジェロより価格帯が低いことから、数は限られるが確実に存在するクロスカントリーユーザーを獲得できるであろうこと。また、現在三菱が販売している「アウトランダー」「エクリプスクロス」など、乗用車ベースのクロスオーバーSUVの性能への信頼度の引き上げ効果が期待できること、等々。

 まったく新規に作るというのでは難しいだろうが、パジェロスポーツはすでに存在するモデルなのだ。SUVブームという神風が吹いている今を置いて、日本市場再投入の好機はないと言える。

 益子社長は「パジェロもランエボも諦めたくない」とも発言している。三菱が再び“らしさ”を取り戻すには、ほとんど存在感を失ってしまった乗用車の世界で高性能車を出すより、まだ複数のモデルを作り続けている4×4のほうがはるかに近道であろう。パジェロスポーツの一方で、軽ないしはサブコンパクトクラスで「パジェロミニ」を復活させるのも手だ。

 昔のようなパートタイムでなくとも、それこそパジェロスポーツの味の一部をちょっと楽しめるようなFWD(前輪駆動)ベースのクロスオーバー4×4でもいいのだ。各国の環境規制をクリアしながらの再チャレンジを、重量の大きなSUVだけで行うのは至難の業で、コンパクトカーや電動車が必ず必要になる。それをもSUVに仕立てることができれば、ユーザーの三菱に対するイメージを向上させるのには必ずやプラスに働くであろう。

 自動車マーケットを長期的に見ると、三菱とてSUV専業メーカーになるわけにはいかない。求められるのは多様性だ。が、その多様性を担保するのは確固たるアイデンティティだ。SUVをアイデンティティ強化のツールにできるのか、それとも明日を食いつなぐその場しのぎに終わらせるのか──。

 ゴーン支配が突如として終わりを告げ、独自の経営判断がやりやすくなった三菱が自分の運命をどう決定付けるのか、その行く末が興味深い。