Atlantic Council(大西洋評議会)によるTHE KREMLIN'S TROJAN HORSES 3.0

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◆ロシアのネット世論操作を暴いた3年間のプロジェクト

 昨年末に、アメリカのシンクタンク大西洋評議会が『The Kremlin’s Trojan Horses 3.0』を公表した。本レポートは3年間にわたる大西洋評議会のプロジェクトの最後の成果物であり、ヨーロッパに対するロシアの干渉を暴き出している。2016年、2017年に発表された過去の同シリーズのレポート(THE KREMLIN'S TROJAN HORSES、THE KREMLIN'S TROJAN HORSES 2.0)は、いずれもロシアのネット世論操作(disinformation campaign)を調べる者にとっては必読書となっている。しかし、なぜか日本ではほとんど紹介されることがない。

 本稿ではこのレポートを紹介しつつ、必要に応じて他の記事なども参照したい。

◆民主主義の不都合な真実

 2016年の最初のレポートではフランス、ドイツ、イギリスに焦点をあて、Brexit、フランス大統領選、AfDへのメディアの支援を中心に分析していた。

 2017年の次のレポートでは、ヨーロッパの南部、スペイン、イタリア、ギリシャを取り上げた。イタリアでは2つの極右で親ロシアの同盟と5つ星運動を取り上げていた。この2つの政党によりイタリアで連立政権が誕生し、反EUを掲げ、ロシアに対するEUによるロシア制裁にも反対している。ギリシャではマケドニア問題にフェイクニュースで干渉し、事態を膠着させた。スペインはロシアのネット世論操作に対して脆弱とされた。

 このレポートによって明らかになったのはロシアのネット世論操作の実態だけではない。民主主義そのものの弱点が暴かれたと言ってもよい。今回のレポートの中でもこの点について触れており、民主主義を標榜する国は、不都合な真実と向き合う必要があると述べている。考えなければならないことは大きく2つ。

1.民主主義の原則である公開性、透明性、多様性は重要な価値であると同時に脆弱性であることが明らかになった。
2.民主主義国の中にもロシアの戦略を支持し、支援する個人、組織、政党が存在した。多くはその地で産まれた極右か極左だ。ロシア支持者は中道派の中にも少数いることがあり、現役あるいは元政府関係者にもロシアの見解に親近感を持つ者や、ロシアとの関係でなんらかの便益を得ている者もいることがある。

2019年は5月のEU選挙を始めとして、エストニア、フィンランド、ベルギー、デンマーク、ギリシャ、ポーランドなどで総選挙が行われる。その結果次第では、EUの分裂など危険な事態も起こりかねない。

◆ヨーロッパ北部、スウェーデンがもっとも脆弱

 今回のレポート「3.0」では、ヨーロッパ北部、デンマーク、オランダ、ノルウェー、スウェーデンを取り上げている。この地域は概してロシアに対して否定的な態度を取っている。ロシアのプロパガンダ媒体であるスプートニクとRTが根付いている国はなかった。ちなみに日本のスプートニクはある程度浸透しているようで、ふつうのメディアだと思っている人も多そうだ。

 レポート全体を通して、既刊の2つに比べるとロシアのネット世論操作の浸透度は低いのは確かだ。しかし、これらの国は地理的にロシアに近く、国境を接している国もある。ロシアからの移民もいる。いまのところはロシアが本腰を入れて攻撃する対象になっていないが、そうなった時は安全ではいられないだろう。

 中でもスウェーデンでは極右勢力が台頭しつつあり、他の国に比べて危険が高まっている。

 ノルウェーとデンマークはロシアのネット世論操作の影響をあまり受けておらず、オランダでは旅客機MH17の墜落(ロシアが撃墜したと言われている)によって同国人が多数死亡したことにより、ネガティブな雰囲気になっている。