山本圭司氏

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 自動車は、人と機械の情報連結(マン・マシン・インタフェース)を追求することで走りやすさや快適性を高めてきた。自動運転という新たな技術の登場で何が変わるのか。トヨタ自動車は2018年、「『自動車をつくる会社』から、『モビリティカンパニー』にモデルチェンジする」と宣言。『つながるクルマ』をコンセプトに新たな挑戦を始めた。同社のコネクティッドカンパニー Executive Vice Presidentの山本圭司氏に、自動車メーカーが今の変化にどう立ち向かおうとしているのかを聞いた。

 ートヨタの情報通信というと、古い世代は携帯電話事業会社の「日本移動通信」(トヨタが主力株主で、現KDDIの前身のひとつ)を思い出します。
 「私は技術部出身で、まだショルダー型だった電話機を車に持ち込んで通話したいと真剣に思っていました。当時の経営トップは、車に通信機能が入ってくる兆しを感じて参入したんでしょうね。グループ会社のデンソーも、ジャイアント馬場を宣伝に起用したツーフィンガー(携帯電話端末)を商品化しました。今は車載通信機に変わっていて、これがクルマをつなげる心臓部になります。この技術が手の内にあるのは、トヨタグループがグローバルに展開していく中で一つのアドバンテージです。とはいっても、今のコネクティッド時代を予想するほどの先見の明があったわけではないですね」

 ー自動車電話とか移動体通信という言葉も、当たり前すぎて聞かない時代になりました。ただ今の若者にとってスマートフォンは必需品でも、自動車には魅力を感じないと言われます。どう思いますか。
 「難しいですね。人にもよるでしょうが、社会人になってから車のローンではなくIT機器にお金を使う若者が増えたのは事実です。デジタルネイティブの世代は人とつながっていないと不安を感じます。だからSNSを食事中もチェックしていたい。ITプロダクトが日常生活の中で必要条件になっています」

 「ただ人々が生活の中で価値を見出すのは刺激です。そのひとつが移動で、これは本能だと思うんです。旅行が減っているわけではないですし、若い人は安い海外旅行でもへっちゃらです。ニーズはあるけれど、変わったのは移動そのものに対する認識です。若者の移動に対する認識をモビリティに反映しなければいけません。移動イコール車を買うのではなく、自由にどこにでも安価に行けるという価値観。それにジャスト・イン・タイムですね。若者の車離れではなく、こうした価値観が変わってきているという理解の方が正しいと思います」

 ー消費者がある程度の収入を得たら、良い車を買って、それがステータスになるという社会は変わるのでしょうか。
 「レクサスのような高級車だけが憧れではないかもしれません。スポーツカーかもしれないし、もっとセンセーショナルな体験をできる車が求められるかもしれません。トヨタがモータースポーツに取り組んでいるのは、若者にもっと車を認識してもらおうという掘り起こしの気持ちでもあります。『愛車』と呼ばれるように『愛』がつく工業製品が車です。それを提供するのがメーカーの役割です」

 ーその中で、自動運転車はどう位置づけられますか。どのように開発して、何をターゲットに売っていくのでしょう。
 「使う人によって価値はいく通りにも変わるでしょう。高齢の方の『健康ドライバー寿命』を伸ばすには、現在の自動ブレーキや『ぶつからない車』の技術では不十分です。デジタルネイティブの世代だと、車の運転をしながらインターネットができることに価値を感じるかもしれません。ドライバーのいない『ロボットタクシー』なら、タクシー会社や公共交通の人件費を抑制して経営基盤を安定できるでしょう。ニーズはいろいろなところにあります」