『自炊力』(光文社新書)の著者で、フードライターの白央篤司さんへのインタビュー。

白央さんの提唱する「自炊力」とは、料理の上手さではなく、買い物の組み立て方や栄養バランスを考えて食生活を考えられる能力の総合力のことです。

そう聞くと難しく感じますが、第1回でうかがったように、「コンビニで買ってきたパスタに冷凍のブロッコリーをのせるだけでも立派な自炊」なら、今日からできるような気がしてきますね。

今回はちょっと踏み込んで、自炊力のレベルを上げていくためのコツを教えていただきます。

レシピ本より“推し”の料理家

--『自炊力』を拝読して、自炊を始めるならレシピ本からではなくて、テレビの料理番組から入るといいというアドバイスが斬新でした。“推し”の料理家さんを見つけると、結果的に技術が早く身につくそうですね。

白央篤司さん(以下、白央):まず始めるにあたってはビギナー向けのレシピ本を買ってみようか……という人も多いんですけど、レシピ本って読むのかなり難しいんですよ。専門用語や専門表現が多くて。ある意味「楽譜」みたいなものだと私は思っているんです。ピアノをはじめようとして、いきなり楽譜が読めちゃう人はいないわけでね。まずは、先生について読み方を習うはずなんです。

--たしかに、よくわかる例えです。

白央:けれども、先生にマンツーマンで習える人なんてほぼいないわけです。料理の専門用語になじんでもらうには、まずは料理番組を観ていろいろな料理シーンを知って、その調理過程を目にするのがいいのではないか、と。「強めの中火ってあれぐらいか」「サッとゆでるってこういうことか」「乱切りってこう切るんだ」など、レシピ本に出てくる表現がなんとなく頭に入りますからね。

とはいえ、興味のない人に指導されてもなかなか頭に入ってこないから、“推し”の料理家さんを見つけるといいと思うんです。「この人のレシピおいしそう」はもちろん、雰囲気やいっそ「顔が好き」だっていいんです。

--ちなみに、モチベーションを上げるために、食器にこだわるというのはアリですか? このお皿にきれいに盛り付けたい! というような。本の中には、包丁やルクルーゼなど、こだわりの道具から入ったものの、結局使わなくなってしまった例が載っていましたよね。

白央:うーん、器(うつわ)そのものが好きな人の場合、集めて達成感を得て終わるケースも多いと思いますね、私は。友達でIttalaの収集家がいるんですが、全然使われずに積みっぱなし(笑)。ただ、お皿に何を盛りたいかが浮かぶ人は違います。そういう人は自炊力が上がるのも早い。たぶん料理が好きなんしょうね。

--では、初心者は何をモチベーションにすれば……。

白央:まずは何を作ってみたいか、書き出してみるのはどうでしょう。ぼんやりと「料理ができるようになりたい」ではなく、日々の生活の中で、自分はどういうものを作って食べたいのかを具体的に考えておくことが、自炊力を身につけるうえで大事だと私は思います。作ってみたい料理をピックアップするためにも、テレビの料理番組は使えますよ。それらを1つずつクリアしていくことをモチベーションアップにしてみてはどうでしょうか。

買い物は意外と高度な作業

--ひとり暮らしだと、食材を余らせてしまうことがよくあります。それがイヤで、自炊をあきらめている人も多いと思います。

白央:食材を余らせて捨ててしまったという経験。これが罪悪感になって自炊から遠のく人って、すごく多いんです。でもね、料理上手だってしょっちゅう使い切れず無駄にしてる人、いるものですよ。もちろん無駄にするのはいけないこと。けれど、料理に慣れていない段階ですべてをきちんと使い切るなんて、とてもハードルの高いことです。できなくて当たり前ですよ。いさぎよく捨てて、「次はやらないようにしよう」と思いつつ、またトライしませんか。そういう図太さもないと、自炊は続かないと思うんです。

昔、ある風水の先生が、「食べられなかったものを捨てる時は『ごめんなさい』と言いましょう、お花を捨てる時は『ありがとう』と一言添えればいいんだよ」というようなことをおっしゃっていて。私、特別に風水信者でもないのですが(笑)、これはいい言葉だと思いました。実際にやってみると、けっこう気持ちが晴れますよ。

--へええ……! 今度からやってみます。あと、本の中で食材の買い物について書かれていた箇所が印象的でした。買い物がすごく高度な作業だということに気づいて。冷蔵庫の状態を考えながら、足りない食材・調味料を選んだり、いい食材を見つけたらそこから献立を考えて買うものを組み立てたり……。

白央:買い物は難しいですよ。買い物に行き慣れている人でも、普段買わない食材だと、スーパーのどこにあるかも、なかなかわかりにくいですしね。日常的にスーパーに行かない人ならなおさら。ああ書いたのは「買い物なんて誰もができる簡単なことなのに、私はそれすらイヤで面倒」と悩む人がいるからなんです。買い物ってのは誰かに「これとこれをどこそこで買ってきて」と言われれば簡単ですけど、日々の料理を作るための買い物はけっこうなスキルが要る。

--家電の知識がない人が家電を買いに行くのが苦痛なのと同じ、と書かれていてすごく納得しました。

白央:それ私のことなのですけれども。電量販店にパソコンを買いに行ったとき、店員さんがいろいろスペックを説明してくれるんですけど、何を言ってるのか全然わからなくて。情けなくて情けなくて涙がこぼれてしまったことがあるんですよ。店員さんも慌てていました(笑)。

ときめきや成功体験も大事

--(笑) だからこそ、「買い物もできないの?」とか言っちゃダメですよね。同様に「料理できないの?」とかも。自分ができることは相手もできると思うのは傲慢なんだと改めて思いました。本を出してみて、読者からの反響はいかがでしたか?

白央:家庭の料理担当の方から「肩の荷が降りた」「生真面目にやりすぎていた、ラクになりました」という声が多くて、とても嬉しかったですね。またひとり暮らしを始めたばかりの方が読んでくれているようで、それもすごく嬉しいですね、やっぱり。

私はずっとレシピやレストラン紹介などの料理記事を作ってきたのですが、作れば作るほど、料理している人や栄養に関心がある人にしか情報が届いていないなというのがすごく歯がゆくて。この本の情報を本当に必要としている人は、料理に興味がない人なんですよ。ある料理家さんが私の本を買ってくれたのですが、そのとき、「料理本のコーナーにないのが素晴らしい」って言ってくれたんです。「新書の形で出したことに意味がある」と。

--たしかに、新書だからこそ、普段料理をしない層にも届いていると思います。ちなみに、今後、作ってみたい料理本ってありますか?

白央:生活環境を見据えたレシピ本を作っていきたいです。多くの料理本が二口コンロ以上、作業スペースもある程度確保できるという前提で作られていると思うので。あとはやっぱり、普段料理をしない人向けの本。そういう本もたくさんありますけど、簡単かつ「作ってみたいな」と思わせるときめき感が足りないように感じています。

――ときめき!

白央:たとえば温泉卵。サラダにパスタ、カレー、ピラフ、いろんなものに加えやすくてちょっと豪華な雰囲気に仕上がるし、栄養バランスを上げるのにも役立ってくれる。「ちょっと料理した感」も出て、割ってのせただけなのに「きょう自炊したぞー」って、気持ちもアゲてくれる。おすすめです。

--本の中でも、「ときめきや成功体験は、料理を続けていく上で本当に大事」と書いてらっしゃいますね。

白央:一方で「時短」っていうのはあまり言いたくないんです。「時短だとうたわれているのに、これさえも作れない」「私、本当にできないんだ」という人を増やしてしまいそうな気がしていまして。「料理ひとつもできず、恥ずかしい、情けない」と自分を責めると、その自責の念からますます自炊から遠ざかるという悪循環に陥ります。『自炊力』は、そんな人たちへの応援歌のつもりで書きました。

--だからこんなに優しいんですね……(泣)。次回は、白央さんにウートピ編集部の安次富の食生活を見ていただき、具体的なアドバイスをいただきます!

(取材、文・須田奈津妃、撮影:大澤妹、料理画像:Shutterstock、編集:ウートピ編集部 安次富陽子)