トヨタ「C-HR」、発売から丸2年で見えた実力値

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トヨタ自動車のクロスオーバー車「C-HR」は発売から2年超が経過したが、根強い人気を誇る(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

トヨタ自動車のコンパクトクロスオーバー車「C-HR」。2016年12月の発売から2年余りが経過した。

C-HRは排気量1800ccエンジンとモーターを併用するハイブリッド車と、1200ccのターボエンジンを搭載する2タイプのパワートレーンを擁する。車両本体価格は229万円からという設定で、レクサスを除くトヨタ4系列(トヨタ店、カローラ店、トヨペット店、ネッツ店)の販売店すべてが取り扱っている。

このクラスでは、2013年12月から発売されたホンダ「ヴェゼル」が長く人気を牽引してきた。トヨタでは「RAV4」の存在が薄れるなか、ヴェゼルの対抗車種としてようやく駒を出せたのだった。

SUVでは2018年の販売トップ

発売から2年を経て、2018年末時点でのC-HRの販売状況は、日本自動車販売協会連合会(自販連)の乗用車ブランド通称名別順位1〜12月の集計で7万6756台を販売しており、12位の成績であった。C-HRより上位の車種は、コンパクトカーや5ナンバークラスのミニバンなどであり、SUV(スポーツ多目的車)ではC-HRが最上位である。


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競合のヴェゼルは、1万7000台以上離されての14位だった。対前年比で65.4%にとどまったC-HRではあるものの、それでも根強い人気を保ったというのが、過去2年間の評価といえるだろう。この状況に対し、ヴェゼルもターボエンジン車を投入するなど商品性の強化をはかってきた。宿敵ともいえるヴェゼルを2年間上回ったC-HRの魅力を、ここで再確認してみたい。

C-HRの開発主査が狙った魅力は、格好よく、安心して走れるクルマであった。特徴的なフロントグリルは、4代目としてアメリカで販売されたRAV4の「キーンルック」と呼ばれる顔つきに似ている。そのうえで、SUVではなくクロスオーバー車であることから、RAV4より車体後半はクーペのようなファストバックの造形となり、速度感が高まって乗用車的な輪郭になっている。

イタリアに在住する日本人カーデザイナーによれば、キーンルックなどの外観はともかくも、クルマ全体としての輪郭は調和がとれており、欧州での評価は高いという。この造形により、実は斜め後方の窓が小さく、斜め後ろの視界があまりよくない。だが、日本での人気もこの姿かたちに対する共感が大きいと思われる。

直接的な視界の確保は安心や安全運転上重要だが、近年では車体周囲にある障害物との距離を知らせるセンサーや、後方確認のためのカメラ、そして車両をあたかも真上から見たような画像処理した映像などの補助機能が発達。安全確認ができるとの観点から、運転席からの直接的な視認性にこだわらない傾向が、他車でも新車全般に強まっている。

格好よさや個性を求める造形のためだけでなく、衝突安全に対する要請が強まり、車体強化のため車体骨格を太く、しっかりつくる必要が生じたことで、視界を悪化させる傾向にもなっている。ことに、リアハッチバック車の場合は、リアゲート開口部が大きいことから強化が不可欠で、そのためリアのピラー(支柱)が太くなり、斜め後方視界が悪化する傾向が強い。しかし、車体剛性が上がることにより、操縦安定性も高まるといえる。

時代の要求に応じながら、センサーやカメラの支援を受け安全を確認できるならと造形されたC-HRの姿は、継続的な人気を支える1つの要素となっているはずだ。

安心感のある運転感覚

次に、C-HRの魅力として考えられるのは、性能としての操縦安定性の高さと、開発責任者が追求した安心して走れる運転感覚である。


2018年12月に発売されたC-HRの特別仕様車。内外装の質感を向上させた(写真:トヨタグローバルニュースルーム)

C-HRは、クロスオーバー車とはいえSUV的に車高が高い。またスポーツカーやGTカーのように高性能を誇る車種ではないが、開発責任者のこだわりからドイツのニュルブルクリンクへ試験走行に出かけたり、日本に比べ速度域の高い欧州の一般道を徹底的に走り込んだりして、走行性能の高さを求めた。

ニュルブルクリンクは、競技を行うサーキットより山間の屈曲路に近い設定で、先の見通しの悪いカーブもある。そこを全力走行させることにより、背が高めのC-HRでも安定した操縦性が作り込まれ、安心感のある運転感覚が実現した。

実際にC-HRを運転してまず実感したのは、タイヤがしっかり路面を捉えていると感じる手応えである。それによってクルマを信頼し、命を任せられると思える安心を覚えたのであった。

C-HRの基になる骨格は、現行のプリウスと同じであり、トヨタはプリウスからTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)と呼ばれる基幹技術の導入を行っている。TNGAとは、基本となる技術をまず磨き上げ、そこは共通部分としてほかの車種にも利用しながら、あとは車種ごとの味付けに資源を投じる開発手法である。C-HRの開発責任者も、「そうした基幹技術があるからこそ、C-HRならではの魅力を作り上げることができた」と語る。

TNGAの投入効果

TNGAの成果は、まず現行のプリウスによって、前型に比べ明らかに操縦安定性や乗り心地の向上を実感させた。その第2弾となるC-HRでは、プリウスさえ見劣りするほどの走行性能と快適性の高さを伝えてきたのである。C-HR開発主査が語ったとおり、TNGAの投入効果てきめんである。

高い走行性能といっても、単に速度が速いとか、加速がすごいということではなく、クルマの運転が自分の手の内にあり、クルマを身近な存在に思わせる楽しい気分ももたらした。

C-HRを運転したときの感動は、TNGAという技術や開発手法によるだけではなく、それを活かす開発責任者の思いや狙いの正しさにあるのだと思う。製品の仕上がりとして、これでいいと判断を下す基は、そうした精神や思想であるからだ。同時にまた、そうした開発責任者の考えを、現物として完成させることのできるトヨタの技術水準の高さもC-HRから感じることができた。

C-HRは、時流に乗ったクロスオーバー車という単純な価値にとどまらず、クルマを愛する技術者の思いが顧客に共感を与える仕立てとなっているところに、人気を持続させる力があるのだろう。