経営コンサルタントの大前研一氏

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 日韓関係に改善の兆しが一向に見えない。元徴用工訴訟、レーダー照射事件と、どちらも解決の見通しすら立っていない。経営コンサルタントの大前研一氏が、韓国との関係に対して、日本はどのように向き合うべきかについて解説する。

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 私は3年前、朴槿恵政権が慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」に合意したことを“雪解けの兆し”とする見方に対して、なおも完全解決からは程遠く、日韓関係の好転は期待できないと注意喚起した。その上で、「日本は急いで韓国との距離を縮める必要はなく、韓国の態度が根本的に変わらない限り、放っておけばよい」と書いた。

 結果的にその“予言”は当たり、慰安婦合意は文在寅政権で反故にされたばかりか、元徴用工問題とレーダー照射事件で、むしろ日韓関係はさらに悪化している。

 では、これから日本はどうすべきか? 結論を先に言えば、今回の私の提案も3年前と同じだ。安倍首相や菅義偉官房長官のようにカリカリせず、放っておけばよいのである。そう考える理由はいくつもある。

◆国民に嫌われる可哀想な国

 たとえばレーダー照射事件では、韓国国内のブログを見ると、マスコミ報道とは別の本音が見えてくる。「韓国海軍と海洋警察庁は北朝鮮漁船に給油か瀬取り(洋上取引)をしていたらしい」「韓国の漁船は助けないのに北朝鮮漁船は助けるのか」「国連制裁決議違反を咎められないよう、焦って自衛隊機を追い払ったのでは」などといった意見が寄せられている。

 韓国世論は意外にネットの中では健全であり、多くの国民は韓国政府の対応に疑問を持っているのだ。しかし、だからこそ韓国政府はレーダー照射を頑なに認めないのだ。

 また、新日鐵住金や三菱重工業が損害賠償を命じられた元徴用工問題については、韓国国内で高い関心を持っているのは一部の国民だけであり、慰安婦問題ほどには盛り上がっていない。

 そもそも元徴用工は、当時の日本の給料が朝鮮半島の2倍近かったために「官斡旋」という形で募集されていた案件に自ら応募してきた可能性があるという。そうであれば、日本政府によって強制的に「徴用」されたとは言い難く、本質的な前提条件の調査・確認が必要なケースと思われる。

 さらに、昨年暮れには元徴用工ら1103人が1人当たり約1000万円の賠償を自国政府に求めてソウル中央地裁に集団提訴した。文在寅政権にとって元徴用工問題は、いわば“ブーメラン状態”となって自分に返ってきているのだ。

 新日鐵住金や三菱重工業だけでなく、今後も続々と日本企業が訴訟の対象になるというが、たとえ日本企業が韓国国内の資産を差し押さえられたとしても、その影響は限定的である。

 たとえば新日鐵住金の場合、韓国鉄鋼大手ポスコと設立した合弁会社で保有している約234万株のうち、一部原告への賠償額に相当するとみられるのは約8万1000株と報じられている。場合によっては、提携関係を見直すという選択肢もある。差し押さえを機に、日本企業が韓国から撤収するような事態が相次げば、困るのは韓国のほうだろう。

 逆に、日本の一部では韓国に対して「国交断絶」や「ビザなし渡航の制限」まで叫ぶ向きもあるようだ。しかし、それは得策ではないと思う。なぜなら、韓国国民の中には政府の姿勢と関係なく、日本に来たがっている人が多いからだ。

 日本政府観光局(JNTO)の統計によると、2018年の韓国からの訪日観光客は前年より約40万人増えて約754万人。これは中国の約838万人に次いで二番目に多く、総数(約3119万人)の24%を占めている。つまり、国民レベルでは「親日」が続いているわけで、断交やビザなし渡航の制限で損をするのは日本なのである。まさに“お客様は神様”であり、それを減らすような行為は国益に反するのだ。

 何よりも韓国は、国を脱出したいと考えている国民が(おそらく先進国中で最も)多い国だということを念頭に置かねばならない。

 すでに指摘してきたように、実は韓国人の多くは自国が大嫌いだ。なぜなら、縁故採用が跋扈しているためにカネとコネがない人間にとっては夢も希望もなく、財閥系大企業の社員や官僚にならないと豊かな生活ができないからだ。その理不尽な現実を非難する「ヘル朝鮮(地獄の朝鮮)」という言葉があるほどで、そこまで自国民に嫌われているということは、考えてみれば「可哀想な国」なのである。だから隣の日本を“外敵”にして悪く言わないとやっていられないのだ。

 しかも韓国は「国民情緒法」【*】が支配しているとも揶揄される国柄だ。そういう国に対して日本側が正論で対応したり、痛いところを突いたりしたら、逆ギレされるのがオチである。

【*国民情緒法/国民世論次第で判決が決まるなど罪刑法定主義が崩れがちな韓国の社会風潮を皮肉った言葉。国民情緒に沿うという条件さえ満たせば、行政・立法・司法は実定法に拘束されない判断・判決を出せるという意味】

 放っておいても日本にとって実害はほとんどないし、インバウンドの4分の1を占めるありがたいお客さんなのだから、静観するのが最も賢明な選択なのだ。

※週刊ポスト2019年2月15・22日号