今や世界中で大人気のこんまりさんの魅力とは(写真:ロイター)

今、日本にゆかりのある2人の女性に世界が夢中だ。1人目は全豪オープンで優勝し、世界ランキングの1位にまで上り詰めたテニスの大坂なおみ選手。もう1人が、今年1月から始まったNetflixの番組「人生がときめく片づけの魔法」が異例の大ヒットとなっている片づけコンサルタントの近藤麻理恵(こんまり)さんだ。大坂選手については、記事(大坂なおみが世界の称賛と同情を集めたワケ)で、その魅力を詳細に解説したが、今回は「こんまり」流コミュ力の秘密を分析し、なぜ、ここまで世界中の人を熱狂させるのかに迫ってみたい。

アメリカのメディアがまるで「こんまりジャック」

「こんまり」旋風の勢いはすさまじい。海外メディアは彼女の話題で持ちきりだ。ニューヨーク・タイムズなどの一流紙からウェブメディアまで、何百というメディアが連日、番組の人気ぶりを取り上げ、その魅力を詳細に分析している。それだけではない。エレン・デジェネレス、ジミー・キンメルなどの人気テレビショーに次々と登場し、超大物芸能人と肩を並べても、まったく気後れすることもなく、肝の据わったタレントぶりを見せている。アメリカのすべてのメディアがまるで、「こんまりジャック」されたかのような様相だ。


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生粋の日本人がここまでアメリカのメディアに狂信的に取り上げられたことなど、いまだかつてなかったのではないだろうか。こうした流行りモノに飛びつくのが上手だったオバマ前大統領であれば、今ごろ、彼女をホワイトハウスに招いて、片づけ方を教わるシーンまで演出し、話題にしていたかもしれない。今、世界で最も有名な日本人であり、まさに「時の人」なのである。

この番組は、毎回、家にモノがあふれて散らかる家族の元を彼女が訪れて、片づけ法を指導し、家と家族を再生に導くという1話完結型シリーズだ。日本でも、ワイドショーなどで、なかなか片づけられない家庭にプロが赴き家をすっきり手伝いをする、などといった趣向の番組を時々、見かけることがあるだろう。BeforeとAfterを見せる典型的なメークオーバー(大変身)ショーの手法だが、なぜ、この番組がそこまでの熱視線を集めたのか。

まず、背景としてあるのが、アメリカを代表する拝金主義、物欲主義への警鐘としてのメッセージ性であろう。このショーは「買いすぎ、ため込みすぎという現象についての国民的な議論の口火を切った」(ワシントン・ポスト紙)と評されたように、アメリカの飽食・物質文化を鮮烈にあぶり出している。大きな家に住み、収納スペースも無限大。粗大ごみも無料で捨てられ、いらなくなったら、チャリティショップに寄付すればいい、と、とにかく半端ない物量のものを買い込む人が多い。クリスマスともなれば、子ども1人で10個も20個もプレゼントをもらうことは当たり前だ。大人とて同様で、クリスマスツリーの下には1家族で数百個のプレゼントが並ぶことも不思議ではない。こうやって、大量のがらくたが集積する現状に頭を悩ませている家庭が非常に多く、シンプルでわかりやすく、実践しやすいメソッドに共感が集まったといえる。

そもそも、こういった「片づけショー」の前例としては、ごみ屋敷を訪ね、そこからごみを取り出して、家をきれいにする「Hoarders」(ため込む人)という番組が2年前にアメリカで放映されている。これは、主に貧困層が中心で、本人が自らというよりは、番組側で片づけていく、という恰好。多くの場合、片づけの対象となった人たちの心に変容が起きることはなく、一部の特殊な人という位置づけで、視聴者が共感するといったものではなかった。

一方のこんまりさんの番組は、ただ、家を片づけるだけではなく、それによって、家族との絆や時間、自分らしさを自ら取り戻すという、一種の「精神セラピー治療」的な側面も、人気の一因となっている。そもそも、本屋に行くと「Self-help」(自己啓発)のカテゴリーにおびただしい本が並び、生き方探し、幸せ探しのノウハウを学ぶことに貪欲な国民性だけに、「自己啓発」の一種としての片づけという切り口に新鮮さや斬新さを覚えたとしても不思議はない。

「ショーの視聴者は自分たちも出演者たちと同じようによりよい自分になれると感じ、自信を持つことができる」(ウェブメディアMedium)、「自分たちの家だけでなく、自分たちをも最適化できる。自分をとりまくすべてがときめきを感じさせてくれるような世界を作ることができる」「自分の人生はコントロールすることができるのだという幻想を抱かせてくれる」(Vox)。人が誰しも持っている「変身」欲求を刺激し、誰でも簡単に「変われる」と思わせてくれるということだ。人が自ら動くようにエンパワーし、勇気づけるポジティブさが大きな魅力となっている。

さらに、家やモノと会話をするように、つながり、感謝をする、といった「アニミズム」(自然のすべてに精霊が宿っているとする精霊信仰的な考え方)的な儀礼やZen的なミニマリズムも神秘的と映った。「ときめきを覚えたものを残しておく」というやり方だが、「ときめき」をSpark Joy(喜びに火をともす)といった言葉で置き換え、直感的にポジティブなイメージを想起させる上手な英語のコピーづくりも功を奏している。

このように、シンプルでわかりやすいメソッドに、東洋的な精神性を組み合わせたユニークさが勝利の方程式なのだが、このショーのすごみは何といっても、近藤麻理恵という人の恐るべきコミュ力である。たとえ、このメソッドがどんなに魅力的だったとしても、彼女自身にショーマンシップがなければ、これだけの成功は収められなかったはずである。

「名コーチ」のコミュニケーション手法

英語がそれほど話せるわけではなく、片言でありながら、まさに彼女が乗り移ったかのような同名の通訳との息の合った連係プレーで、まったくハンデなくコミュニケーションが進められていく。小柄で、おとなしそうに見える彼女が、外国人の前でも、セレブの前でも、物おじをせず、堂々と大きな手ぶりを入れながら、理路整然と説明し、場を仕切っていく姿は見事で、彼女の定番の「白色」のトップスと同じく、すがすがしい。

日本人特有の照れ笑いもなく、おもねる感じも媚びる様子もない。いつも笑顔で、一瞬たりとも、眉をひそめ怒ることも、相手をいさめることも、叱ることも、否定することもない。ダメ出しもない。徹頭徹尾、「ポジティブ」なムードを切らすことがなく、根本のルールだけを教えて、あとは、片づける人たちの自主性にゆだねる。彼らに考えさせ、やらせる。つねに彼らのやり方を肯定し、励まし続ける。結果として、その自信を醸成し、自ら行動変容を起こさせるのだ。まさに、「名コーチ」のコミュニケーション手法だ。

こんまりさんは2016年に、生活の拠点を完全にアメリカに移したという。日本での成功に安住せず、国境を超えて、世界に羽ばたくことにまったく躊躇しない潔さと胆力に驚かされる。その力強さの源泉は、自分自身を売り込みたい、というよりも、この人生を変える「魔法」を多くの人に知ってもらい、多くの人の人生をポジティブに変えていきたいという思いだろう。こういった「情熱」に突き動かされる人ほど、肝が据わり、何のてらいも恥じらいもないものだ。

もう1つの魅力は、自分の正しさやよさを徹底的にアピールし、主張し、相手を論破することに重きが置かれる西洋流コミュニケーションスタイルのアンチテーゼのような「謙虚さ」だ。

大坂なおみ選手の礼儀正しさ、控えめで、謙虚なコミュニケーションスタイルが好感されているのも同じ理由だ。「(大坂選手の)すばらしい功績よりさらに輝かしいもの。それは、品格と謙虚さを醸し出す力だ」(Inc)とまさに手放しの称賛を集めている。「こうした謙虚さは、自慢や自己賞賛的行動がよしとされる世界において、なおさら魅力的」(同)というわけだ。

こんまりと大坂選手。強さとつつましやかさの絶妙なバランスこそが、世界をとりこにするまったく新しい女性の魅力なのだろう。