「シャトルサーヴィス「チャリオット」の経営破綻から、フォードが得た教訓」の写真・リンク付きの記事はこちら

チャリオット(馬車)は壊れてしまった。アプリを利用したオンデマンドシャトルサーヴィスのチャリオット(Chariot)は、事業終了に向けた手続きを開始すると2019年1月17日に発表した。5年前に創業したチャリオットは、2年半前にフォードに6,500万ドル(約71億円)で買収されたと報道されていた。

交通テクノロジー企業は、ここ10年で最も人気が高まっている。だがチャリオットの事業終了は、こうした新しい交通ビジネスで利益を出すのが思ったよりもずっと難しいという可能性を思い出させるものだ。

14年に設立されたチャリオットは、Uberに触発されたいくつもの「マイクロトランジット」テック企業の波に加わった。それらの企業は、伝統的な公共交通機関から満足できるサーヴィスを受けられず、うんざりしていた利用者たちにより速く効率的な選択肢を提供することで、交通サーヴィスのビジネスに革命を起こしたいと考えていた。

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だがその多くは5年も経たないうちに、ハワイマイマイ(最後の個体が19年1月に死んで絶滅したハワイ固有のカタツムリ)と同じ道をたどった。

サンフランシスコを拠点に、エリート階級に訴求しようとしたリープ・トランジット(Leap Transit)は、カリフォルニア州規制当局との戦いに疲れて、15年3月の創業からわずか3カ月で店じまいした。オンデマンドのシャトルサーヴィスを約束したブリッジ(Bridj)も、17年の初頭に米国での活動を終了した。

ライドシェアリングサーヴィスのヴィア(Via)は、シカゴ、ニューヨーク、ワシントンで営業中だが、事業の多角化を進め、ソフトウェアビジネスも行っている。そしてUberはといえば、19年に新規株式公開(IPO)を控えているにもかかわらず、依然として毎年何百万ドルという資金を溶かし続けているありさまだ。

人を運ぶビジネスの難しさ

チャリオットの広報担当者によると、同社は利用者数が伸びずに苦戦していた。14人乗りのヴァンを用いた同社の通勤者向けシャトルサーヴィスは、オースティン、シカゴ、デンヴァー、デトロイト、サンフランシスコのベイエリア、そしてロンドンの各都市で、限られた本数の一般向け路線が運営されていた。これらは2月1日で営業終了という。

また、チャリオットが新基軸として始めていた、企業向けの貸し切り運行も3月に終了する。625人に上るチャリオット従業員の一部には、フォードのグループ企業内で別の職がオファーされる可能性があるという。

つまり、人を運ぶというビジネスは、とても難しいということが明らかになったのだ。

人口密度の高い都市部では競争が激しい。利用者にとっては、公共交通機関や配車サーヴィス、あるいはいまや多くの都市で歩道を覆い尽くさんばかりに増えた、自転車やキックスクーターの共有ネットワークといった選択肢がある。

一方、人口密度の低い地域では、輸送ビジネスは高コストになりがちだ。たがいに遠く離れた利用者たちを拾い集めるには時間がかかり、燃料代もばかにならない。

また、交通輸送の企業は概して規制当局と戦わねばならず、これもしばしば高価なハードルになる。カリフォルニア州は17年10月、州内におけるチャリオットの営業を一時停止させた。ドライヴァーの一部が必要な免許をもっていなかったことが発覚したからだ。

持続可能なソリューションではなかった

チャリオットは、サンフランシスコでのオフピーク利用料金を3.80ドル(416円)、ラッシュ時には5ドル(約547円)としていたが、事業の見通しは一貫して厳しかった。実際、同社は少なくとも18年の1年間は、通勤者向け相乗りサーヴィスの路線を増やしていなかった。

ニューヨーク市の公共交通当局の元職員で、現在はこの分野のコンサルタント会社を経営するブルース・シャラーは、「マイクロトランジットの企業は決して公言はしませんが、利用料金を支払うタイプの相乗り交通サーヴィスの市場は、ひいき目に見ても極めて限られていることがわかります」と言う。

そのうえチャリオットの場合は、料金を払ってくれる利用者をできるだけ多くヴァンに乗せないと採算がとれなかった。しかも、ヴァンは自社所有で、運転手たちは労働組合をつくっている。「乗客1人あたりのコストをバスよりも安く抑えながらヴァンを運行するというアイデアは、実際にはおそろしく難しいことです」と、シャラーは述べる。

チャリオットは、事業終了を発表したブログ投稿で、次のように記している。

「今日のモビリティにおいて、お客様と都市の要求やニーズは急速に変わりつつあります。そうした変化が続くなかで、チャリオットが過去5年間にわたり提供してきたモビリティサーヴィスは、今後も持続可能なソリューションではないであろうことが明らかになりました」

フォードで生かされる教訓

ここ数カ月、チャリオットは顧客のニーズに合わせて事業内容を調整しようと試みていた。サンフランシスコを拠点に、誰でも利用できる通勤者向けネットワークの運営は続けていた。それに加えて同社は、企業向けソリューションに事業の軸足を移し、従業員が自分に合った出退勤の移動手段を選べるようにしたいと考える複数の企業と契約を交わしていたのだ。

チャリオットの最高経営責任者(CEO)ダン・グロスマンは18年12月、『WIRED』US版に、同社は「ファーストマイル/ラストマイル」の問題の解決に注力し、企業が主要な通勤列車またはバス路線から自社オフィスまでをつなぐ手助けをしていく、と説明していたばかりだった。

またグロスマンによれば、チャリオットは一部のヴァンを大型化して、例えば28人乗りにすることも考えていたという。「すべての卵を同じカゴに入れておきたくないのです」と、グロスマンは語っていた。

フォードの広報担当者は、チャリオットの運営から学んだ教訓は同社のモビリティ事業全体に生かされると説明している。この教訓は、フォードのフリート事業者向けテレマティクスおよびデータ部門「フォード・コマーシャル・ソリューションズ」において、「ルート設定、配車、カスタマーインターフェイス」のほか、非緊急時の医療移送サーヴィス部門「ゴーライド(GoRide)」、自動車オーナー向けモバイルアプリケーション「フォードパス(Ford Pass)」、そして「構築中の自動運転に関する各種事業でも」生かされるという。フォードは21年までに、完全な自律走行車の商用サーヴィスを開始すると明言している。

新たなモビリティの兆し

チャリオットの消滅は、交通ビジネスが難しいことを証明するものだ。しかし、テクノロジーを活用したシャトルサーヴィスそのものが絶滅したわけではない。

例えば、ロサンジェルス交通局をはじめとする複数の公共交通当局は、利用者が電話またはアプリ上のタップで呼べるオンデマンドサーヴィスの実験を続けている。当局としては、その種のサーヴィスを用いることで、需要がごくわずかしかない地域で公共交通機関を提供するコストを削減したいと考えているのだ。

また、ニューヨーク市で何十年もたくましく生き残ってきた「ダラーヴァン(料金1ドルの相乗りタクシー)」のように、フレキシブルなヴァンサーヴィスや安価な路線バスも、米国内の各都市で営業を続けている。

一方、フォードはすでに、交通ビジネスにおける最新の有望株に手を伸ばしている。同社は18年11月、スピン(Spin)というスタートアップを買収した。デトロイトの巨人が、ついに電動キックスクーターのシェアリング市場に加わったのだ。