アサヒビールが居酒屋向けビール市場のテコ入れ策として投入する555ミリリットルのジョッキ(写真:アサヒビール)

ビール大手各社が、居酒屋など飲食店向け営業の立て直しに本腰を入れている。

ビール大手5社が1月16日に発表した2018年のビール類(ビール、発泡酒、第三のビール)出荷数量は、前年比2.5%減の3億9400万ケースと、14年連続で過去最低を更新した。ビールに限ると2億ケースを割り込み、同5.2%減の1億9291万ケース。特に居酒屋など飲食店向け、いわゆる業務用ビールが前年比6.5%減と振るわなかった。

業務用ビールてこ入れの目玉とは

ビール大手にとって、業務用ビールは全体の半分を占める重要な市場だ。このまま市場縮小を黙って見過ごすわけにはいかない。


そこで、業界トップのアサヒビールは業務用ビールのテコ入れに本格的に乗り出した。同社の平野伸一社長は「業務用の縮小を止めないと、家庭用の缶ビールでいくら頑張ってもマイナス幅が大きくなってしまう」と、危機感をあらわにする。

アサヒが「業務用改革」の目玉として打ち出したのが、「555ミリリットルジョッキ」の導入だ。一般的な居酒屋の場合、360ミリリットル前後のジョッキを使用することが多い。アサヒの新型ジョッキは、通常のジョッキに対して1.5倍の容量になる。

同社は従来のジョッキを新型に順次切り替えていく方針だ。2018年7月ごろから、全国の飲食店へ営業攻勢を開始。導入店舗は同9月には1万店を突破し、この1月末には5.6万店に達した。2019年中には10万店への導入を目標にしている。

アサヒビールが新型ジョッキを導入した理由は、消費者の「1杯目需要」に照準を置いているためだ。

同社の調査では、「居酒屋では『1杯目はビールを飲みたい』と考える消費者が9割近くに上る」という。ただ、「ほとんどの人は360ミリリットルの量では満足していないにもかかわらず、2杯目以降はサワーやハイボールなど、ほかのアルコール飲料に移る消費者が多い」(平野社長)。

ジョッキの容量を増やせば、消費者が満足する1杯目の量を提供することができる。ひいては、メーカーとしての出荷量も増やすことができるというわけだ。

新型ジョッキは飲食店にもメリット?

新型ジョッキ導入については、「飲食店側にもメリットがある」と同社は強調する。容量を増やすことで消費者が注文する杯数が減れば、店員の負担も少なくなる。人手不足に悩まされる飲食店にとってオペレーションの改善になり、「消費者、飲食店、メーカーで“三方良し”の施策」(アサヒ)という。

だが、もくろみ通り新型ジョッキを浸透させることができるかどうかは、不透明だ。ジョッキの容量が増えた分、ビール1杯の価格も上がる。値決めは飲食店側が行うものだが、基本的には数十円単位で上がっている。相対的に値頃感のあるサワーなどに1杯目から消費者が流れるリスクも高まる。

競合メーカーからは、「そもそも肝心の飲食店側のウケがあまりよくない」との指摘もある。導入した飲食店は価格が変わるので、今まで使っていたメニューを変える必要がある。多くの店舗を抱えるチェーン店はその負担が大きく、「導入に二の足を踏む飲食店が少なくない」と競合メーカー社員は話す。

「居酒屋では消費者は2杯、3杯とビールを飲み続けない」ことが前提になっているアサヒの戦略に対し、業界2位のキリンビールは対照的な動きを見せる。

キリンは今年4月に旗艦ブランド「一番搾り」をリニューアルする。2017年以降、2年ぶりの刷新で、「麦とホップの配合を調整して飲み飽きない味を目指した」(キリンビールの山形光晴マーケティング部長)。同社は業務用ビールの戦略については明確にしていないが、「飲み飽きない」を追求していることから、飲食店でも「2杯目、3杯目需要を狙い続ける」構えだ。

家庭用ビールもテコ入れ

ビール大手は業務用だけでなく、家庭用の展開にも力を注ぐ。中でも、もっとも安価な「新ジャンル」=第三のビールは、各社がしのぎを削る主戦場になっている。アサヒビールは「極上」を1月に投入。サントリーは「マグナムドライ」、サッポロは「本格辛口」を4月に販売する。キリンは昨年投入した「本麒麟」を拡販する計画だ。

今年10月に予定されている消費増税を機に低価格志向が強まり、安価な新ジャンルにアルコール需要がシフトすることが見込まれる。ビール大手は新製品投入で、需要の取り込みを狙う。

業務用と家庭用で、需要底上げを狙う各社。2019年は「15年連続市場縮小」を逃れるか。