顧客満足度の高いビジネスホテルは何が違うのか。満足度調査1位から5位までのホテルを比較すると、ポイントプログラムの提供、“フロント渋滞”の緩和、朝食メニューの充実など、各ホテルの試行錯誤が見えてきた。日本生産性本部の小倉高宏氏が、満足度調査の結果を考察する――。

■2011年から稼働率は上昇中

旅館の客室数が減少しているのに対し、ホテルの客室数は増加を続け、2017年は90万室を超えた。2011年の東日本大震災の影響により下落した稼働率は、旅館が35%前後で推移しているのに対し、ビジネスホテルは上昇を続け、2017年は75%を上回った。

【図表1】稼働率は上昇し続けている(出典:厚生労働省および観光庁)(画像=小倉高宏)

主要なサービス業約400社を対象に顧客満足度に関する消費者評価の総合調査「日本版顧客満足度指数(JCSI:Japanese Customer Satisfaction Index)」を実施している日本生産性本部・サービス産業生産性協議会(SPRING)では、毎年ビジネスホテルの満足度調査を実施している。

客室稼働が高水準で推移するビジネスホテル業界の主要10社について、2018年4月に1社当たり約300人の実利用者(1年以内に宿泊し、2年以内の利用回数は2回以上。利用料金を見聞きしたことがある人)に回答を求めた結果、顧客満足(以下、満足度)の1位から5位はリッチモンドホテル、ドーミーイン、コンフォートホテル、スーパーホテル、ダイワロイネットとなった。JCSIの最新の調査結果をもとに、これらのビジネスホテルが評価される理由をみていこう(図表2)。

【図表2】リッチモンドはすべての項目で1位だ(画像=小倉高宏)

■東横インのお得な会員制度

パソコンやスマホなどからビジネスホテルを予約するには、楽天トラベル、じゃらん、一休などのホテル予約サイトから予約する方法と、各ホテルの公式サイト(以下:自社HP)から「直予約」をする方法がある。JCSIの回答者に利用状況を質問したところ、自社HPからの直予約の割合が圧倒的に多いのが東横インであった。

東横インの直予約が多い理由は「東横INNクラブ」という会員制度のお得さにある。入会金が1500円ほど必要だが、宿泊料金が平日は5%、日曜・祝日は20%割引になるほか、アーリーチェックインが可能で、通常は16時のチェックイン時間を15時に早めることが可能だ。「東横INNクラブ」で合計10泊すれば1泊分の無料宿泊券がもらえる特典も好評で、「ポイントプログラムの魅力」の項目で、東横インは2位の評価である。リピート意向を示すロイヤルティ(図表2)で東横インが4位にランクインするのは、こうした直予約が奏功しているためだ。

■リッチモンドは「ポイント」の評価が高い

「ポイントプログラムの魅力」で最も評価が高いのがリッチモンドである。2017年の4月に会員特典が見直された「リッチモンドクラブ」では、電話または公式サイトから予約した場合、宿泊料金1000円ごとに100ポイントがもらえる。貯めたポイントは1000ポイントから1ポイント1円で、宿泊料金として利用したり、グループ会社のロイヤルホストで500円分の商品券に交換できたりすることが直予約のメリットである。

これらの2社には自社HPから予約しやすくする工夫もみられる。東横インの予約開始は通常3カ月前だが、直予約では6カ月前からの早期予約が可能だ。一方、リッチモンドでは客室数(シングル)の10%を会員専用枠として前日まで確保することで、自社HPを訪れる顧客の期待にこたえようとしている。

スーパーホテルは自社HPからの直予約が2番目に多く、「ポイントプログラム」の評価が3番目に高い。「公式最安値」のスーパーホテルの公式ホームページから予約すると、チェックインの際に「とくとくカード」というスタンプカードが配布される。特典は商品券やポイント値引きの会員特典が多いなか、スーパーホテルは珍しい「キャッシュバック」だ。合計で2泊すると1000円、5泊すると3000円の「現金」がフロントでもらえる(図表3)。

【図表3】リッチモンド、東横イン、スーパーホテルの評価が高い(画像=小倉高宏)

■「ウェブサイトがわかりやすい」コンフォート

「ウェブサイトのわかりやすさ」では、コンフォートホテルが1位である。コンフォートは「チョイスゲストクラブ」という新たな会員制度を立ち上げた2016年10月以降、公式ホームページのリニューアルや配信メールの内容の見直し、公式LINEのスタートなど、オンラインでの情報発信を強化している。ホテルや旅館にとって、ウェブサイトに求められる役割に、イメージ伝達による「疑似体験」がある。色彩感あるコンフォートの公式ホームページはメッセージの訴求力が高く、ホテルの特徴もわかりやすい(図表4)。

【図表4】1位のコンフォートに、リッチモンド、ルートインが続く(画像=小倉高宏)

■ルートインは「駐車場の充実」でダントツ

ホテル選びにはアクセスも見逃せない。電車の場合は駅から近いことが、車やバイクの場合は駐車場・駐輪場のスぺースがポイントになる。「交通の便」の良さでは、駅前立地が多い東横インとワシントンの評価が高い。ルートインは「交通の便」では評価がふるわないが、高速道路の出入り口付近やロードサイドに立地していることが多く、「駐車場・駐輪場の充実」の評価はダントツだ(図表5)。

【図表5】交通の便では東横インとワシントンホテルの評価が高い(画像=小倉高宏)

ホテルに到着すると、チェックイン手続きや精算などの手続きがある。そうした手続きの迅速さでは、コンフォート、スーパーホテル、リッチモンドの評価が高い。コンフォートは以前の仕組みでは、「リアル」なTポイントカードや紙のクーポン券の提示が必要だった。現在はウェブ予約の段階で、ポイント付与やオンラインクーポンでの値引きを済ませるなど、チェックイン時の手間がスリム化されている。

スーパーホテルはチェックイン時にフロントのタブレット端末にサインするだけで、ノーチェックアウトであるため、手続きそのものが少ない。会計の速やかさでも高評価のリッチモンドはフロントスタッフが予約内容の照合を終えると、会計が必要な宿泊客のみがフロント横に設置された精算機に向かうシステムだ。そのため、チェックイン客が同じ場所に滞留することにより生じる「フロント渋滞」が緩和されている(図表6)。

【図表6】コンフォート、スーパーホテル、リッチモンドが高評価だ(画像=小倉高宏)

■混雑を感じにくいリッチモンドの設計

「客室レイアウトの利用しやすさ」では18平方メートル以上の広めのスペースが確保されているリッチモンドとダイワロイネットが高評価だ。ビジネスホテルではバス・トイレが一体型のユニットバスが主流だが、リッチモンドではバス・トイレ・洗面台の3点独立型の客室を増やしている。こうした点もリッチモンドの客室が評価されている理由である。

ダイワロイネットは、レディースルームを備えていることが特徴だ。滞在時間についても、ビジネスホテルは「15時チェックイン、10時チェックアウト」が多いが、リッチモンドとダイワロイネットは、「14時チェックイン、11時チェックアウト」を基本としており、時間的にもゆったりしたい利用客にはうれしいサービスだ。

「館内の落ち着き(混雑の少なさ)」では、リッチモンドの評価が高い。リッチモンドはフロント周辺が広いため回遊性が高く、また、エレベーターホールも広いため、乗降時の顧客動線の交錯が少ないなど、混雑を感じにくい設計になっている(図表7)。

【図表7】リッチモンドとダイワロイネットの評価が高い(画像=小倉高宏)

■ドーミーインの朝食にはご当地メニュー

朝食サービスを利用する割合は、無料で提供する店舗が多いスーパーホテル、ルートイン、コンフォートで、90%以上の高い利用率である。無料とはいえ、スーパーホテルはオーガニック食材、ルートインはパンの種類の多さ、コンフォートはスープのバリエーションの豊富さで特徴を出している。

だが実際に「朝食が良かった・充実していた」という回答割合を見てみると、ドーミーインが際立つ。ドーミーインではご当地メニューを豊富にそろえた朝食ビュッフェが提供されている(図表8)。

【図表8】利用率が高いスーパーホテル、ルートイン、コンフォート(画像=小倉高宏)

朝食だけではない。ドーミーインでは、「夜食」として22時頃に「夜鳴きそば」という醤油ラーメンが無料で提供され、一部の店舗では「夕食」の先着サービスもある。こうした「食」にこだわるドーミーインは「料理・飲み物のおいしさ」や「他のビジネスホテルにない特徴」で高く評価されている(図表9)。

【図表9】ドーミーインはオリジナリティへの評価が高い(画像=小倉高宏)

■9割パートのリッチモンドは接客が高評価

従業員の「礼儀正しさ」や「対応の迅速さ」といった接客では、リッチモンドの評価が高い。リッチモンドの「ヒト」の強みはどこから生まれるのであろうか。リッチモンドでは約9割のパートが現場運営を担っている。パートは入社後1カ月間、丁寧に教育が行われ、2カ月目以降も先輩がアテンドし、スキルアップを後押しする。

リッチモンドの特徴は、パートにも多能化がはかられていることだ。部署横断的なスキルアップ項目が設定されており、多能化スキルを習得すると、時間給にも反映される仕組みになっている。また、リッチモンドの支配人にはパートからの登用者が多いため、パート従業員の気持ちを理解できる正社員がホテルマネジメントを担っていることも特徴である。

【図表10】群を抜くリッチモンドの接客評価(画像=小倉高宏)

増加するインバウンド需要への対応、高齢化によるアクティブシニアの旅行需要、働く女性の増加による女性向けサービスの強化、人手不足と耐震補強への対応など、ビジネスホテルを取り巻く環境は大きく変化している。コンパクトさと快適性、実用性とコスパを兼ね備えるビジネスホテルは日本特有ともいわれ、2020年の東京オリンピックではインフラとして重要な役割を担う。今回、紹介した内容で、気になるサービスがあれば、出張目的やプライベートで利用し、進化を続けるビジネスホテルを体感してみてはいかがだろうか。

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小倉 高宏(こくら・たかひろ)
日本生産性本部 主任経営コンサルタント
コープこうべに入社1年目で営業所トップ成績、2年目で全営業所およそ1000人中トップ成績を誇ったカリスマ営業マン。2008年から現職。小売・サービス業の現場に明るく、市場分析や経営指導、従業員育成を行っている。関西大学社会学部卒、関西学院大学大学院経営戦略研究科修了(経営管理修士:MBA)。著書に『経営コンサルティング・ノウハウ 5 マーケティング』(中央経済社)。

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(日本生産性本部 主任経営コンサルタント 小倉 高宏)