「F」がFINAL の F になっても悔いがない。これがフジファブリックの最高傑作だ。

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多くの人にとって、「青春の情景」として忘れられないメロディを奏でてきたフジファブリック。バンドの中心人物・志村正彦を失うという経験を乗り越えながら、2011 年の夏から現在まで、山内総一郎、金澤ダイスケ、加藤慎一という体制で活動を続けてきた。

そしてデビュー15 周年を迎える今年、10 作目のオリジナルアルバムに、フジファブリックの頭文字「F」を冠した3人。

「バンドが今、すごく調子がいい」と言い切り、「最高傑作」にすることをテーマに掲げた本作。その背景には、制作のために家を行き来し、好きなお菓子まで把握しているという、フジファブリックらしい信頼関係があった。

撮影/山口真由子 取材・文/石角友香 企画/武藤寛奈
山内総一郎(Vo/G)
金澤ダイスケ(Key)
加藤慎一(B)

アルバムのテーマは「最高傑作」、それしかないってみんな思ってた。

山内さんがアルバム「F」について、「覚悟の」「最高傑作」とツイートされていて非常に楽しみでした。
山内 今回、アルバムのテーマが「最高傑作」だったんですよ。
テーマとして掲げたんですか?
加藤 バンドが今、すごく調子良い時期なんで、テーマはもうそれしかないんじゃないか?って雰囲気でしたね。
山内 15 周年という節目でもありますし、「これがフジファブリックだ!」とドンと聴かせたい気持ちがあったので。
最高傑作にしようっていうのはどなたが言い出したんでしょうか。
山内 メンバーみんなですね。全員が、「テーマは最高傑作だ!」っていう同じ気持ちでした。一緒に作業をしていると、そういうバイオリズムが似てくるんですよね。自然と同じことを考えてる、というか。今すごくバンドの調子が良いという感覚も、メンバー全員が持ってます。

そんな中で、今回初めて内容より先にアルバムのタイトルを考えたんです。「F」っていうバンドの頭文字をとって。「F」ってつけたのは覚悟というか、「F」が FINAL の F になっても悔いがないようにしようと。それぐらいのものじゃないとフジファブリックらしくないと思ったんです。人生を賭けてやってる、その思いはどんどん強くなってきているので、全部詰め込めこんじゃおうという、それが最高傑作という所以かなと思います。

寝起きは自分の嫌いな音を出せない。そういう時にできた曲が好き

1曲目の「Walk On The Way」はバンドがこうやって進んでいくんだという意思があって、感極まります。
山内 その気持ちは僕も同じですね。「F」っていうタイトルもそうですけど、1曲目はフジファブリックのことを歌いたいなと思ったんです。自分たちがこういう風にやってきて…中でも、志村くんが亡くなったという大きな出来事があって、そこで変わらざるを得ないバンドだったんですけど、そのことも含めてこのバンドが本当に好きだし、自信を持っているので。幕開けにふさわしい曲になったと思いますね。
それにしても、ここまでシンプルな曲はこれまでにはなかったなと。
山内 寝起き一発目に、水も飲む前に作りましたから!
それはどういう状況ですか?(笑)
山内 寝起きって、自分の嫌いな音を出せないんですよ。自分の体と気持ちが赴くまま…っていう状況が好きなんです。そういう時にパッと出来ていいニュアンスだな、と思った曲なんで。純度の高い、自分のコアみたいな曲です。
寝起きにそうやって作業されることは多いんですか?
山内 もうほぼ毎日そうです。
かなりストイックですね。ちなみに加藤さん、金澤さんは、寝起きに何をされてるんですか。
加藤 …いったん、なんかいろいろ整えますよね(笑)。
金澤 うん。寝起きですぐ作業はないな。まず歯磨きする。寝起きで作業するのって、歯磨きもする前なの?
山内 歯磨きより前だね。寝室から出て、すぐ作業。
金澤 山内くんの家って、寝室と作業部屋の間にトイレと洗面所があるじゃない。そこには寄らないんだ?
山内 うん。パソコンも立ち上げっぱなしだから、マイクの真空管があったまるのを待てばいいだけ。帰宅した時もそう。家帰ったらまずギター持つもんね。
金澤 だって、ギターを1日触ってないとちょっと気持ち悪いんでしょ?
山内 気持ち悪い。飲んでても、ギター触りたくて途中で帰ったりするもん。だからね、どっかで、そういう生き方を選んだんだと思う、俺。なんか…だって、側から見るとちょっとヤバいやつやん?そんなん(笑)。
(笑)。それはジンクス的なものというより、ルーティーンに組み込まれてる感じなんでしょうか。
山内 そうですね。でもだから楽しいんですよ、毎日が。

元々が部活や学校の仲間じゃないから、逆に今がそんな感じ

2曲目の「破顔」。外で聴いてると危うく泣きそうになって危ないんです。
山内 いい曲ですよね(笑)。
山内さんの歌詞がすごく素直で。ボーカリストとしての素晴らしさが出る、メロディが際立つ曲が多いなと思いました。
山内 歌うことがどんどん楽しくなってきていて。もともと好きだったんですけど、自分が歌うようになって、責任感やプレッシャーはありつつも、単純に「歌を伝えるために歌う」っていうのが幸せだと思います。さっきの話の続きじゃないですけど、自宅のリビングのテーブルの上に、常にマイクはセッティングされっぱなしなので、いつでも歌えるようになってますし。
メロディが沸くのを逃さないために?
山内 奥田民生さんの歌をうたったりとかもしますよ(笑)。他の人の曲でも、歌うと楽しいじゃないですか?ひとりカラオケみたいなもんです。
ちなみに先ほど、金澤さんが山内さんの自宅の間取りを完全に把握されてましたけど、行き来はされてるんですか?
金澤 行きますね。
山内 僕の家で曲を作りますから。デモを持ち寄った後は僕んちで作業しますね。だからみんなが好きなお菓子も知ってます。脳の栄養のためにチョコレートとか、甘いものを用意することが多いんですけど、こないだ加藤くんが辛いおかきを持ってきて、それが大ヒットして。
加藤 すぐなくなったよね。「辛いのもアリなんだ!」っていう、あれは僕らの中では革命的だった(笑)。
音楽だけじゃなくて、他の部分でのバイオリズムも合ってきている感じですね(笑)。
山内 そうですそうです。もう作業時間も決めてますし。14 時から 20 時までって。それは徹底してます。どんだけ締め切りが迫っていても「20 時、はい終わり〜」(笑)。
それも楽しんでるんですね。結成2年や3年のバンドだと難しいことのように思えます。
山内 どうなんでしょうね。僕らは地元の同級生同士とかで組んだバンドじゃないので、逆に今がそんなノリというか。
考えたらフジファブリックって歴史も構造も不思議なバンドで。最初のメンバーとは違う、でも名前は残ってる。
山内 そうなんですよ。そこはやっぱり誇りを持って続けようというところですね。でも、他のバンドがどうやってんのか、みんなお互いに知らないっていうか。サポートでアジカンだったり、くるりだったり、いろいろ見てきたけど、みんなオリジナリティがあって、自分たちは自分たちのやり方しか知らないのかも?って思います。ものすごいガラパゴス化していることが本当に愛おしいですね。

若い人が初期の楽曲を聴いてくれるのは、むちゃくちゃ嬉しい

ところで最近のフジファブリックをめぐる状況を見渡してみると、去年は菅田将暉さんが「茜色の夕日」をカバーしたりと、初期の楽曲が一周して今の若い人に改めて届いている印象です。
山内 そうなんです。むちゃくちゃ嬉しいですよね。「若者のすべて」を CM に使っていただいたり。テレビの影響力がすごいなと思うのは、ライブでイントロ鳴った瞬間の歓声が、急に聴いたことないくらい大きくなることですね。
金澤 夏フェスとかは特にね。「あれ、こんな歓声くるっけ?!」って思います(笑)。
そんな新たなファンにも向けて、改めて「フジファブリックらしさ」ってどんなところなんでしょう?
金澤 「らしさ」でいうと昔から言っていますが、常に自分たちっぽくないことをやったりするのは「らしさ」なのかなとは思いますね。今回も細かい部分でいっぱいありますよ。サウンド的なことで言ったらこんなにストリングスが入ることはないですし、こんなに音で遊びまくったことはないですし…前も遊んでましたけど、今回、はしゃぎすぎたなっていうぐらいはしゃぎました。
加藤 以前から、いい意味で裏切っていこうみたいな部分があって。それが今回のアルバムは特に出たんじゃないかな。「あっ、こうきたか」と思ってくれたら嬉しいですね。

曲紹介での言い間違いを収拾するために作った「東京」

ところで「東京」という曲は、ライブで「手紙」を演奏する時に曲名を間違えて「東京」と⾔ってしまったことが始まりで作ったそうですね。
山内 「フジフレンドパーク」っていう、尊敬するアーティストをお招きして2バンドのライブをやってるんですけど、去年、東京でユニコーンに出ていただいて。ユニコーンは志村くんも僕らもものすごく影響を受けた方々なので、ずっと楽しみだったんです。実際にユニコーンのライブは素晴らしくて。

⾃分たちがユニコーンの後に出たんですけど、新曲の「⼿紙」をやる時に、熱を込めてちょっと⻑めにトークをしたんです。「僕が⼤阪出⾝なんですけど、東京という街が、地元を故郷に変えてくれた。僕たちに故郷をくれたのは東京だ」…というような、真⾯⽬な話を。そこから、「それでは聴いてください」って、曲名を間違えて「東京」って⾔っちゃったんです。
その流れは⾔っちゃいますね。
山内 最初は全然気付かずに、そのまま「⼿紙」の演奏に⼊ろうとしてたら、ダイちゃん(⾦澤さん)がツッコミで「そんな曲はありません!」と(笑)。俺、今までで⼀番恥ずかしかったかもしれないですね。それで、場を収めるために「東京って曲を作ります」ということになって。
金澤 それぐらいしないとあのざわつきは収拾できなかった(笑)。
「⼿紙」の⾔い間違いから⽣まれた「東京」。意表をつくかっこいい曲になって。アルバムのラストの曲ですが、静かに終わらないところがいいですね。
山内 それもね、このアルバムのすごい好きなところで。「FINAL になっても悔いがないものを作るんだ!」ってつもりだったんですけど、アルバムを通して聴き終えたときに「続き」が⾒えちゃってるんですよ。「今までがオープニングだったの?」みたいな(笑)。マスタリングスタジオで「東京」を聴き終わった時、3⼈とも「おお〜!」って⾔ったよね?
加藤 「これが始まりだよね」みたいな。
山内 完成した時に、「おお〜!」って⾔ったの初めてだったよね。不意にみんなが「おお〜!」って⾔った、その不意な感じが良かった。
金澤 良かったです。ああいう瞬間があるから飽きないですね。飽きちゃうと終わりだから。
最後に、皆さんがそんな「東京」と聞いて、印象的に思い出す場所を教えていただけますか?
山内 バンドにとっては東⾼円寺ですね。⾼円寺陸橋はジャケットにもなってますし、志村くんがバイトしてた東高円寺ロサンゼルスクラブってところではバンドのリハーサルをしてたんで。
金澤 そうですね。僕、茨城出⾝なので、東京には頻繁に来れたっちゃ、来れたんですよ。それこそ中学とか⼩学⽣の頃はサッカーやってたんで、よく⾼校サッカーで国⽴競技場に⾏ったりしてて、あの辺りは⼦供の頃の「東京」感ではあるなと。千駄ヶ⾕のあたりですね。当時、川⼝能活と安永宗太郎の PK になった試合を⾒に⾏ったりとかしてて。今、その頃活躍していた選⼿が引退されて、時代は変わるんだなぁと思いますね。
加藤 僕は東京駅ですね。地元が⽯川県⾦沢市で、今は北陸新幹線ができたけど、変わらずずっと、⾏くのも帰ってくるのも東京駅。やっぱりそのイメージがずっと続いてますね。
始発駅でもあり、戻ってくる駅でもある。⼭内さんは、個⼈的にはいかがですか?
山内 僕は地元が⼤阪で、⼤阪も⼤きな街ではあるじゃないですか。でも東京は「⼭⼿線の駅が、全部⼤阪駅みたいなもんやで」って⾔われて出て来てたんですよ。どこもめっちゃでかい街だなと思ったけど、「これは東京にしかないな」と思ったのは…代々⽊公園かな。原宿と渋⾕の間で若者が集まる街なのに、⼤きな公園がある。そこにちょっとした違和感があったというか。
⾃然に東京を感じるっていうのも⼀つの「東京感」ですね。
山内 そうですね、東京って不思議ですね。
フジファブリック
2000年、志村正彦を中⼼に結成。「茜⾊の⼣⽇」「若者のすべて」など世代を超えて愛される楽曲をリリース。2009 年、志村が急逝し、2011年⼭内総⼀郎がボーカル&ギターを担当し、⾦澤ダイスケ(key)、加藤慎⼀(Ba)の新体制となった。「モテキ」TV ドラマ版、映画版ともに「夜明けのBEAT」起⽤。2017 年のシングル
「カンヌの休⽇ Feat.⼭⽥孝之」には俳優・⼭⽥孝之がボーカルで参加し話題に。2018 年には映画「ここは退屈迎えに来て」主題歌と劇伴を担当。主題歌である「Water Lily Flower」を収録した「FAB FIVE」をリリースした。2019 年 10 ⽉にはフジファブリック 15th anniversarySPECIAL LIVE at 大阪城ホール2019「IN MY TOWN」を開催する。

作品情報

オリジナルアルバム「F」
2019年1月23日リリース
【初回盤】(CD+DVD)¥3700+tax
【通常盤】(CD only)¥3000+tax