サウジ戦は1−0で勝利。準々決勝進出は決めたものの、堂安ら攻撃陣は不完全燃焼に終わった。写真:茂木あきら(サッカーダイジェスト写真部)

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 76.3%対23.7%、サウジアラビア戦のボール保持率だ。
 
 ボールを保持したからといって試合に勝てるわけではない。実際、この試合は23%の日本が1-0で勝っている。だが、60%を超えるとほぼボールを支配されたと選手が感じると言われており、プレーした選手は「持たれているな」とストレスを抱えてプレーしていただろう。
 
 一方的にボールを支配されていたが、日本はサウジアラビアに持たせていた感も受けた。
 
 前からプレッシングをかけ、ボールを取りにいって、どうにもならないから引いたというよりは、相手をスカウティングした結果、引いて守って耐える戦術が指示されており、それを90分間、しっかりと遂行したということだろう。左サイドバックの長友佑都ももう少し前にポジションを取れたはずだが、相手にスピードのある選手が多いので、リスクを冒さずに守備重視というスタンスを保っていた。
 
 その結果、サウジアラビアには何もさせなかった。守備のブロックを敷いてカウンター、あるいはセットプレーで点を取って勝つというのは、サンフレッチェ広島時代の森保一監督の得意なやり方でもある。攻撃能力の高いサウジアラビアと真っ向勝負するよりもJリーグでも勝ってきたやり方を徹底し、勝負に徹した。

 それが機能して勝ったのは、森保監督の戦略的な勝利ともいえる。
 
 しかし、果たしてこの勝利が歴代の優勝チームが経験してきたアジアカップのターニングポイントとなるような試合となったといえるだろうか。
 
 過去、優勝した時のターニングポイントになった試合、例えば2004年中国大会のヨルダン戦は互いに力を出しあった総力戦の末にPK戦となり、半ば棺桶に足を突っ込んだ状態から川口能活の神かかったセーブで勝利を得た。
 
 2011年カタール大会の準々決勝のカタール戦では一度は逆転されたが、香川真司のゴールで追いつき、最後は控え組の伊野波雅彦が決めて勝利するという激戦を制して波に乗った。ふたつの試合に共通するのは、ともにそれぞれのスタイルを全面に打ち出し、がっぷり四つに組んだ総力戦の末の劇的な勝利だったということだ。その勝ち方は、チームに自信と勢いをもたらした。
 
 サウジアラビア戦は、勝かったことは素晴らしいが、もうひとつチームに魂を吹き込むような、今後に勢いがつくような試合になったかというと、そこまでとは思えない。
 
 そう感じるのは、勝ち方もそうだが、昨年の親善試合の5試合とはまるで違う戦い方が展開されていたということだ。例えばウルグアイ戦では、強豪相手に怯むことなく、前からボールを奪いに行き、連動した攻撃で積極的な試合展開を見せた。親善試合とはいえ、サウジアラビアより遥かに強い世界の強豪に真っ向勝負を挑んで4-3で勝ったのだ。
 
 だが、サウジアラビア戦は、戦略的な戦いとはいえ、真逆の展開だった。
 
 グループリーグ3戦目のウズベキスタン戦で控え組が意欲的にプレーし、逆転勝ちをして、「さぁこれから」と盛り上がるキッカケをそこで掴んだはずだが、サウジアラビア戦はその流れをもうひとつ活かせなかった。
 
 それは、サウジアラビア戦後、ピッチの選手の表情からも読み取れた。
 

 厳しい試合を勝ち抜けた喜びというより、なんとか勝って終わったという感じだった。とりわけ前線の選手は、いまひとつ消化し切れていない感を受けた。勝利による高揚感はなく、ベンチから選手が飛び出してくるようなこともなかった。
 
 そういうシーンを見ていると、ふと考えてしまう。どこと戦ってもイケる――。そんな風に選手全員がチームとして感じられているのだろうか。
 
 決勝トーナメントは負けたら終わりなので、サウジアラビア戦は勝てばいいと割り切ることも悪くはない。しかし、自分たちのスタイルをベースとしたサッカーを展開できなければ、国際大会は制することはできないし、アジア各国に脅威を与えることもできない。そうなると今後、ワールドカップ予選を戦う上でも影響が出てくるだろう。
 
 次のベトナムは決勝トーナメント1回戦でPK戦の末にヨルダンを破っている。日本が過去、勢いをつけてきた勝ち方で上がってきている。そのベトナムに昨年の親善試合で見せた思いきりの良い攻撃的なサッカーを見せて、勝てば日本のムードは盛り上がる。
 
 ベトナム戦、「日本らしさ」を見せて勝つことは、準決勝から先を考えると重要なポイントになる。
 
文●佐藤俊(スポーツライター)