大手スポーツチェーン「アルペン」による希望退職者の募集が話題となっていますが、この状況を予測していたというのは、無料メルマガ『がんばれスポーツショップ。業績向上、100のツボ!』の著者である梅本泰則さん。梅本さんは今回の記事中にその理由を記すとともに、中小規模のショップに大きなチャンスが巡ってきているとし、その波を掴む方法をレクチャーしてくださっています。

とうとうその時がやって来た

スポーツ用品業界にも、とうとう来るべきものがきたという感じです。

1月9日に、大手スポーツチェーンのアルペンが300人の早期退職希望者を募集するという記事が載りました。経営が苦しいのでしょうか。

この数十年間、大手スポーツチェーンは売上を伸ばし続けていますが、私は、いずれその勢いは衰えると予想して来ました。それは、チェーンストア理論による経営だからです。

チェーンストア理論は、大量生産時代にアメリカで誕生しました。「標準化」「単純化」「専門化」といった生産理論を小売業にあてはめたものです。ですから、今の時代にマッチしているのかどうか、疑問なところがあります。

そこで、スポーツチェーンがチェーンストア理論をどのように戦略に落としているか観てみましょう。

「商品戦略」では

広い売り場で、多くの商品を取り扱うどの店舗でも同じ商品を販売し、同じ陳列をする店舗オリジナル商品を開発し、売上と利益に貢献する

「流通戦略」では

問屋を通さずメーカーから直接仕入れる専用倉庫で効率の良い配送を行う郊外の立地に広い駐車場を構え、来店を促す

「価格戦略」では

他店との競争力のある価格設定を行う本部の一括集中仕入れで、仕入価格を抑える

「プロモーション戦略」では

マス広告による大量販売を狙う少ない人数で売場の運営管理をする

といったことになります。これらの戦略が時代に合っているときは、問題ありません。ところが、時代は大きく変わってきました。それぞれの戦略に問題が出てきたのです。

大手チェーンの問題点

例えばこんな問題があります。

「商品戦略」では

どの大手チェーンも同じような商品で、差別化がない店舗オリジナル商品も、思ったほど売れない競技別にみれば、品ぞろえはそれほどでもない

「価格戦略」では

社内から仕入価格を下げ続ける圧力がかかり、担当者が疲弊していくメーカーの生産体制が変わり、バーゲン用商材が減ってきている

「流通戦略」では

郊外のショッピングセンターが衰退して、集客力が無くなっているメーカーの直販店が増えて、競争優位性が低下している

「プロモーション戦略」では

バーゲンや割引価格といった戦術に偏り過ぎている売場では商品POPに頼った販売体制になっているSNSが有効活用されていない

「標準化」「単純化」「専門化」ばかりを優先することで、こんな問題が起きているのではないでしょうか。

さらにいえば、「人」に対する前向きな戦略が見られません。「人」とは「社員」や「お客様」のことです。例えば、販売スタッフに対する商品教育はたいして必要ないと思っているように見えます。そして、お客様と親密になる方法も考えてはいないようです。また、地域とのつながりも薄いような気がします。

こんな現状に対して、大手スポーツチェーンはどこへ向かって行くのでしょう。

大きなチャンス

ある大手チェーンは、

プライベートブランド商品の積極的な開発新業態の出店不採算店の統合

といった戦略を考えているようです。あくまで、商品と店舗が戦略の中心となっています。社員やお客様に対する戦略は語られません。

それはともかく、大手スポーツチェーンは、今後アマゾンのような戦略もとっていくと予想されます。例えば、店舗での自動販売化やキャッシュレス決済が進んでいくでしょう。オリジナル商品の比率を増やして、粗利を向上させるのも重要な戦略です。ユニクロやニトリのように、製造小売りの道を歩むかもしれません。物流施設のロボット化やAIによるデータ分析も進むでしょう。

これらは、所詮チェーンストア理論の枠での戦略です。投資金額もばかにはなりませんので、企業力の差が出ます。

そんな中、実はスポーツチェーンが活かしきれていない大きな財産がありますが、おわかりでしょうか。それは、お客様のデータです。チェーンストア理論に個客マーケティングの考え方を取り入れれば、強力な武器になります。

とはいえ、これには「手間暇」がかかりますので、チェーンストア理論とは相いれません。どこかのチェーンがその融合策を考えることが出来れば、革命がおこります。しかし、きっとそうはならないでしょう。

こうしてみると、あなたのお店がやることは明確になってきます。それは、社員への投資と、お客様とつながることです。そして、地域に貢献することも大切になってきます。ですから、顧客リストが整理されていなければ、一刻も早く行いましょう。手間暇をかけて、お店のファンを増やさなければいけません。もちろん、あなたのお店はそのことに力を入れています。さらにファンになっていただく方法を考えてください。

いずれにしても、スポーツチェーンが弱り始めた今、中小スポーツ店には大きなチャンスが来たといえます。

■今日のツボ■

大手スポーツチェーンが成長の壁に当たり始めたチェーンストア理論が、時流にマッチしなくなった手間暇をかけてお客様をファンにすることが大切である

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