<最新アルバム『ニュー・ブリード』は、故郷への愛にも満ちた仕上がり。ガールズグループ出身のセクシーな注目アーティストは、「自分の性は全面的に肯定できる」と語る>

ドーン・リチャードはガールズグループ、ダニティ・ケインの一員として2000年代中盤にブレイクした。だがソロになってからはヒット狙いのポップ路線と決別し、独創性あるR&Bアーティストに成長。しかも最新アルバム『ニュー・ブリード』は、新たな旅立ちを感じさせる。

「ニューオーリンズで育った黒人女性としての私の旅路を表現した」と、リチャードは言う。

「音楽、恋愛、喪失......。故郷が私の生き方の全てを決めたのだから」

彼女はファンク歌手の父とダンサーの母の下で育った。一家は2005年、ニューオーリンズを襲ったハリケーン「カトリーナ」で家を失う。ボルティモアでの避難生活を経て故郷に戻ったのは10年後だった。同じ2005年、リチャードはMTVのリアリティー番組『メイキング・ザ・バンド』に出演し、ダニティ・ケインに参加した(2009年に解散)。

力強い歌唱力でエロチックなラブソングから、業界の男たちに物申す曲「ニュー・ブリード」まで幅広い作品を自在に歌う。業界への鬱憤は、ダニティ・ケイン時代からたまっていた。「ポップさが足りないとか、ソウル色が強過ぎるとか、プロデューサーに散々けなされた」

2017年には、実験精神豊かなインディーズバンド、ダーティー・プロジェクターズと共演。新作『ニュー・ブリード』はきらびやかなエレクトロ・ファンクにダブやアカペラを織り交ぜ、未来志向のR&Bアルバムに仕上げた。ブラスバンドが通りを練り歩く音楽の都ニューオーリンズの日常風景が、随所にちりばめられている。

プリンスの曲を再解釈

多くのアーティストは別れた恋人について歌うが、リチャードの「ジェラシー」は一味違う。怒りの矛先を向けるのは「恋人の元カノ」なのだ(「私の男に電話する権利はあんたにない/メールする権利だってない」)。

この曲は実体験が基になっている。「恋人の元カノに、本当にそんなメールを送ろうとしたの。ケチなことをしたものよね。恨みがましいことを9ページも書いてようやく、ちょっと待てよと思った」。メールは送信した?「保存してある。ケチな私が顔を出したときの戒めとして取っておくつもり」

最も影響を受けたアーティストはプリンス。2016年には『リデンプション』に収録した「ヘイ・ニッキー」で、型破りなオマージュを捧げた。際どいセックス描写で物議を醸したプリンスの「ダーリン・ニッキー」を、フェミニストの視点から解釈し直したのだ。

ディアンジェロも好きだと、リチャードは言う。セクシュアリティーと欲望を率直に表現する2人の姿勢は、大きな刺激となった。なるほど『ニュー・ブリード』に収録されている「ソース」は、そのままベッドルームのBGMに使えそうな曲だ。

「自分の性は全面的に肯定できる」と、リチャードは言い切る。「後ろめたさも恥ずかしさも、これっぽっちもない」

<2019年1月22日号掲載>

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※2019年1月22日号(1月15日発売)は「2大レポート:遺伝子最前線」-->特集。クリスパーによる遺伝子編集はどこまで進んでいるのか、医学を変えるアフリカのゲノム解析とは何か。ほかにも、中国「デザイナーベビー」問題から、クリスパー開発者独占インタビュー、人間の身体能力や自閉症治療などゲノム研究の最新7事例まで――。病気を治し、超人を生む「神の技術」の最前線をレポートする。

ザック・ションフェルド(カルチャー担当)