ランドローバー・エクスペリエンス・センター 英国6拠点を巡礼 オフロード性能を体感
もくじ
ー オフロード 究極のチャレンジ
ー LREスコットランド
ー LREヨークシャー
ー LREリバプール
ー LREチェシャー
ー LREソリハル
ー LREイーストナー
ー オフロード性能 70年の進化
ー 番外編1:今回のルート
ー 番外編2:世界のLREセンター
オフロード 究極のチャレンジ
英国最高のドライビングロードをご紹介したばかりだが、どんなクルマでも運転の楽しみを味わうことはできる。
しかし、オフロードには究極のチャレンジがあり、急坂や悪路で最高の性能を発揮するモデルを取りそろえたランドローバー・エクスペリエンス(Land Rover Experience:LRE)センターでは、こうしたオフロードの楽しみを簡単に味わわせてくれる。
今回、英国にある6つのLREを訪問してみたので、その様子をご紹介しよう。
LREスコットランドディスカバリー・スポーツ TD4 180 HSE オート
名前の由来われわれの冒険はダンケルド郊外の緑豊かなパースシャー・ヒルから始まった。真っ青な空の下、インストラクターのウィル・コックスと、これから泥だらけになる染みひとつないディスカバリー・スポーツがわれわれを出迎えてくれた。
チャレンジを始める前に、このクルマに備わっていないものをお伝えしておくべきだろう。姉妹モデルのイヴォークと同じく、トランスミッションにローレンジは設定されず、サスペンションはコイル式のため、最低地上高は211mmに制限されている(エアサスペンション仕様のレンジローバーの場合、最低地上高は295mmとなる)。
さらに、われわれのTD4 180には、条件次第で後輪のみを駆動させるだけでなく、トラクションコントロールやトルクベクタリングまで行う、リアe-ディフェレンシャルが特徴のGKN製アクティブ・ドライブラインも装備されていない。
それでも、ステアリングとスロットル、ギアボックスとブレーキ、さらには電子式センターカップリングの設定変更が可能な、ランドローバーご自慢のテレイン・レスポンス(TR)は搭載されており、砂地と泥/轍モードも設定されていたものの、草/砂利/雪モードが1.1km2もの森林コースにはベストマッチだった。
各ブレーキを制御することで、ペダル操作不要で砂利の急坂をゆっくりと下ることを可能にするヒル・ディセント・コントロール(HDC)も役に立ったが、個人的にはオフロード用クルーズコントロールとでも呼ぶべき、オプションのオール・テレイン・プログレス・コントロール(ATPC)には驚かされた。
ステアリングホイールのボタンを操作して最高速に設定すると、ディスカバリー・スポーツは、まるで指先で点字をなぞるかの如くそれぞれのタイヤが慎重に木の根に覆われた地面を探りながら、斜面を登っていく。この機能は素晴らしく、舗装路よりもステアリング操作に注意が必要なオフロードで、ドライバーはその操作に集中することができる。
ここにはテクニックを磨くためのアサルトコースも設置されていたが、われわれの目的は自然のコースを経験することであり、センターの241kmにも及ぶ高台のルートを選択することにした。
ディスカバリー・スポーツは落ち着いた脚捌きで十分なトラクションを発揮し、われわれは旋回するイヌワシに見守られながら、ピトロクリーとケアンゴームズへと続く美しい景色を楽しむことができた。
LREヨークシャーレンジローバー・イヴォーク TD4 180 SEテック オート
羊の放牧地でもある12.1km2もの丘陵地に広がるスキプトン近郊のブロートン・ホール・エステートに、砂利敷きのルートと障害物が巧妙に配置されたLREヨークシャーはある。インストラクターのアダム・ウィルコックスがこのセンターを案内してくれた。
われわれのために用意されたイヴォークのオフロード性能は、昨日のディスカバリー・スポーツとほぼ同じようなものだ。アプローチアングルはそれほど変わらないが、短いホイールベースとリアオーバーハングのお陰で、ブレークオーバーとデパーチャーアングルはディスカバリー・スポーツを凌いでいる。
だが、最低地上高の低さによって、ロッククロールを行うような場面では、ボディ裏を擦るのではないかと心配しながら、慎重に歩みを進める必要があるのだ。それでも、イヴォークはゆっくりと丘を下り、凍結路を模して運転席側に設置されたローラーの上でもHDCは巧みなブレーキ制御でタイヤをコントロールし続け、グリップの回復に備えていた。
丘の頂上にある直角に曲がったコーナーでは、エアサスペンションを持たないイヴォークのタイヤは、30cm以上も地面から離れ、シートベルトによって何とかシートに座っていられるような状態だったが、それでも、このクルマは何事もなかったかのように素晴らしい安定感でコーナーを通過し、丘を下って行った。
さらに、勘に頼ったドライビングを時代遅れにするふたつのオプションを試してみることにした。サラウンドビューカメラを使えば、林道のような狭く、曲がりくねった場所でも、フロントタイヤの動きを逐一確認することができる。さらに、ふたつのセンサーで測定した水深は音声と表示でドライバーへと伝えられ、このスタイリッシュなイヴォークの最大渡河深度は、旧ディフェンダーと同じ500mmに達しているのだ。
LREリバプールディスカバリー TD6 HSE オート
ディスカバリー・スポーツとイヴォークを生産するヘイルウッド工場と、交通量の多い2車線道路に挟まれた場所にあるLREリバプールはわずか0.02km2の広さしかないものの、この人工のアウトドアパークには、大量の障害物がところ狭しと設置されている。
ランドローバーが誇る本格オフロードモデルのなかで、ディスカバリーはもっとも安価な選択肢だが。今回用意されていたV6ディーゼルモデルには2.93:1のギア比で時速60kmまで選択可能なローレンジとエアサスペンション、さらには大型モデルだけに設定されているオプションのGKN製リアe-ディフェレンシャルが搭載されていた。セントラルトランスファー同様、このe-ディフェレンシャルでは湿式マルチプレートクラッチによって、瞬時のトルク再配分を可能にしている。
ローレンジでは、テレイン・レスポンスにスロットル調整とデフロックによるロッククロール・モードが追加され、小型モデルよりも充実したオフロード走行に関するディスプレーでは、ディフェレンシャルのロック状態やサスペンションの動き、タイヤの滑りとステアリング角といった様々な情報が一目で確認できるようになっている。
さらに、自動でトラクションコントロールを行うテレイン・レスポンス2もこのクルマには搭載されていた。
インストラクターのマル・ダットンの指示に従ってローレンジを選択すると、自動的に車高が75mm上昇して283mmとなり、小型モデルであれば苦労するような大きな障害も難なく通過することができた。
その後、35度の斜度を持つスロープに設置されたコーンの廻りを旋回してみたが、2.5t近くもある車重にもかかわらず、ディスカバリーはなんとか姿勢を保つことに成功している。
このセンターの最大斜度は、まるでスキー場のような45度もの急坂だったが、ローレンジで高回転を保ったまま低速走行を続けるとディスカバリーは頂上へと達し、フロントスクリーンから見えるのは青空だけという状況にもかかわらず、オプションのサラウンドビューカメラによって前方視界も確保されていた。
さらに、より自然の地形に近い砂利混じりの岩に覆われた斜面も用意されていた。ここでもディスカバリーは非常に印象的なパフォーマンスを見せてくれたが、もし雨が降っていればここは激流が流れる滝のような状態となり、軽量なイヴォークでさえ苦労しただろう。
だが、だからとって、ヘイルウッド製小型モデルを馬鹿にしてはいけない。イヴォークやディスカバリー・スポーツで3時間のトレーニングをこなすのは難しくないとダットンは言うが、その理由はこの目で目撃している。
LREチェシャーレンジローバー・ヴェラール D300 R-ダイナミック HSE オート
非常にドラマティックな幕開けだった。ゴシック様式のペックフォートン・キャッスルへと続く城門を抜けると、そこには真っ白なボディのランドローバー製モデルが勢ぞろいしていたのだ。
インストラクターのアレックス・ブラウンはヴェラールで、ここから4km2もの広さをもつオフロードパークへとわれわれを案内してくれた。
プラットフォームの多くがジャガーによるものとはいえ、ヴェラールには、斜面でのスタートを容易にするグラディエント・リリースコントロールや、トルク調整を行うロートラクションロンチ、HDCやTRといった数々のランドローバー製システムが装備されているが、ローレンジの設定はない。
このV6ディーゼルモデルでは、2190ポンド(31万円)のオプションとなるオフロードで有効なエアサスペンションや、ATPC、TR2、サラウンドビューカメラ、ウェイドセンシング、さらにはリアe-ディフェレンシャルが搭載されていた。
ここはペックフォートン・ヒルに広がる木々に覆われたコースと開けたルートを特徴としており、ペックフォートン・キャッスルはここで採れた砂岩によって建造されている。
200年前につくられた林のなかのルートを通って丘の上に出ると、泥/轍モードが車高を上げ、岩や轍、木の根といったものを通過すべくエンジン回転数を制御している。
水没した採石場跡へと辿り着くと、渡河と傾斜に対応するためHDCを作動させることにした。ヴェラールを本価格的なオフローダーというよりもSUVだと考えているひとびとにとって、こうした場所を進むこのクルマは驚きでしかないだろう。まるでチョコレートのような泥水の中を、ヴェラールは確実に前進を続け、電子制御でスロットルを微妙に調整しながら、シルト質の泥のなかを進んでいく。
こうしてヴェラールはいまでは泥水に覆われたビクトリア朝時代の小路をなんとか通過することに成功したのだ。すべてのLREで使用するモデル同様、スタンダードなタイヤを履いていたにもかかわらず、ヴェラールが途中で前進を止めるようなことはなかった。
無数の障害物を備え、ふたたび自然な姿に戻りつつある広大な採石場跡に広がるペックフォートンのアウトドアパークで1日を過ごしたが、ヘイルウッドはこの景色を100年の間見続けて来たのかも知れない。エアサスペンションや車高調整機能のお陰で、このコースを制覇することができたが、それ以外は何も変わっていない。
ヴェラールの驚異的なオンロード性能を考えると、このクルマのオフロード性能は十分以上のものだと言える。
LREソリハルレンジローバー SDV8 ヴォーグSE オート
70年前、いまも拡張を続けるジャガー・ランドローバーのソリハル工場から最初の1台が生み出されたことで、ランドローバーの歴史が始まったのだ。
いまでは4つの大型モデルを生産しているソリハル工場に隣接したこのセンターでは、フラッグシップモデルのレンジローバーを荒野へと連れ出すことにした。
4.4ℓのSDV8 ヴォーグ SEには、オプションのアラウンドビューカメラとウェイドセンシングが装備され、そのオフロード性能はヘイルウッドで乗ったディスカバリー同等だった。
インストラクターのフィル・サットンはここにある23kmの距離を誇る3つのセクションを紹介してくれた。
アドベンチャーコースとテクニックを磨くためのアサルトコースはコンパクトにまとまっている一方、ランドトラックには未舗装路と工場を拡張する際に出た土砂を使った障害物が設置され、その両方が挑戦しがいのあるコースとなってはいるものの、もっともチャレンジングなのはジャングルゾーンだろう。ランドローバーにとっての「エデンの園」とでも呼ぶべきここで最初の1台が開発され、いまでも新型モデルの開発が行われているのだ。
交通量の多い工場の周回路から直接アクセス可能なジャングルコースは、ここを訪れたひとびとを10分もしないうちにまったくの別世界へと誘う。
いまや工場や住宅、さらには公園などが周囲を取り囲んでいるものの、まるで密閉された熱帯雨林にいるかのように感じさせ、非常に目立つ服を着たカメラマンが緑に紛れて見えなくなるほどその緑は鬱蒼としていた。
天然の湧き水によってぬかるんだ道だったが、レンジローバーはまったく動じることなく上り下りを繰り返し、この滑りやすい地形を前へと進んでいった。
ディスカバリーと同じく、レンジローバーの最大渡河深度は驚異的とも言える900mmに達しており、この深さはほとんど車高の半分が水中に沈んでも大丈夫だということを意味している。
キレイな水が緩やかに流れる、川幅の広いウォーターコースのひとつへとレンジローバーで進入すると、フロントカメラがすぐに水中に没したが、ディフェンダーであれば推進力を失った途端、まるでザルのように水が漏れだすところ、レンジローバーは一旦停車し、ベンチレーション付きのシートに腰掛けたまま、ドアに叩きつける水の音を聞きながら、水面へと降り注ぐ太陽光のなかを鳥が急降下してくるのを眺める余裕さえあった。
素晴らしい瞬間であり、まさにこれこそがLREソリハルに広がる別世界なのだ。
LREイーストナーレンジローバー・スポーツ SDV6 HSE
最後に訪れたのは、1961年以来、ランドローバーのエンジニアたちがテストを行ってきたヘレフォードシャーにあるイーストナー・キャッスルの21km2もの敷地に設置されたLREイーストナーだった。
インストラクターのハワード・ホワイトは、手入れの行き届いた丘の上に広がるコースを紹介すると、早速われわれを荒野のなかへと誘った。
レンジローバー・スポーツ SDV6 HSEにはエアサスペンションとテレイン・レスポンスが装備されていたが、さらに、ローレンジとTR2、ATPCとリアe-ディフェレンシャルといった機能を備えたオン/オフロードパックまで装着されていた。
動力性能を向上させたスポーツのオフロードにおける実力は、レンジローバーには及ばないものの、それでも湧水地に広がるぬかるみにもこのクルマは怯むことなく、ウォーターコースの渡河エリアも多少の注意を要するだけで無事に通過することができた。
インストラクターのホワイトは、じっくりとわたしの実力を見定めたうえで、ローム層に形づくられた、このクルマと同じくらいの幅しかない29度もの傾斜角をもつ100mほどのキャッスルビューヒルへ挑戦させることにしたようだ。
ホワイトによれば、ウェットコンディションはいうまでもなく、ドライでもHDC無しでは滑落するほどの急坂だという。なんとかこの坂をよじ登ってきたカメラマンも同じ意見だった。
HDCをクロールにセットし、ローレンジで坂の頂上まで達すると、まったく地面は見えなかった。ステアリングだけを操作すれば良かったが、ブレーキが慌ただしくコントロールされ、タイヤの軋む音が聞こえてくるので、決して油断などできなかった。
この時、レンジローバー・スポーツは全力でその性能を発揮していたのだ。ゆっくりと、しかし確実に坂を下ると、ギアをセカンドへと上げ、エンジンブレーキの効きを弱めてゴールへと向かうことができた。
だが、無線でカメラマンから再度この坂にチャレンジして欲しいと言われたので、ホワイトに上りも問題無いかと尋ねると、「もちろん」と彼は応え、「バックでチャレンジするかい?」と訊いてきたのだ。
思わず笑ってしまったが、彼は本気だった。連結バスを電話ボックスへとバックさせるほうがましだと思ったが、すでにこの無謀な挑戦は開始されていた。
クルマを所定の位置に付け、リアカメラを凝視し(ドアミラーに写るのはシダ類の葉っぱだけだった)、慎重にアクセルを踏み込むと、レンジローバー・スポーツはバックし始め、何度も微妙にステアリングを調整しつつ、そのままアクセルを踏み込んで後退を続けたが、半分ほど登ったところで急にエンジンパワーが弱まり、ふたたびブレーキを踏まざるを得なくなった。なんとかシートベルトで身体を支えたまま、失敗を覚悟したものの、レンジローバー・スポーツはふたたびディーゼルの力強いトルクで息を吹き返した。
カメラマンは無事に撮影を完了し、頂上まで登りきることができたが、これは強く印象に残る出来事だった。
オフロード性能 70年の進化
今回のツアーで過去70年間におけるオフロード性能の進化を理解することができた。
電子技術の進化によって、現代の泥んこ遊びは安全で快適なものへと変化し、ウェリントンブーツが必要などといった伝統的なオフロードの考え方を過去のものにしている。
さらに、こうした技術は、もはやオフロードを特別なものではなく、初心者でも安全にチャレンジングなルートへ挑戦することができるものにする一方、ベテランには、最新の電子制御をいかに有効に活用するかといったことを考える楽しみを与えている。
今回の訪問でわれわれが経験したのは、ランドローバー・エクスペリエンス・センターのほんの一旦に過ぎず、どのセンターも1カ所で今回の特集記事のページを埋めるには十分な場所だった。トレーニングにかかる費用だが、ふたりで99ポンド(1万4000円)からと、こちらも特別なものではない。
番外編1:今回のルート
今回の約800kmの旅のルートのほとんどがグレートブリテン島を南北に縦断するコースだった。
パースシャーを出発して、スキップトンまでこの旅最長のルートを走り、風光明媚なう回路を経由してモファット・ヒルへと到達すると、マージー川沿いをS字状に移動し、南西へ向かうべくふたたび内陸部へと入りマルヴァーンのゴールを目指した。
番外編2:世界のLREセンター
世界では4つの大陸に合計29カ所のランドローバー・エクスペリエンス・センターが設置されている。
今回は英国に9つ存在するうちの6カ所を訪ねたが、ロッキンガム・キャッスルにあるイースト・オブ・イングランドのセンターと、イースト・デボンのウエスト・カントリー、そしてルートン・ホー・ホテルにあるロンドンのセンターは訪問してない。
トレーニングは1時間から丸1日のコースまで用意されているが、ランドローバーの新車を購入すれば、無料で半日コースを受講することができる。
大陸欧州には、カタルーニャにある農場から、フィンランドの雪に覆われた湖沿い、さらにはイスタンブール近郊の黒海沿岸まで、合計で9カ所のセンターが設置されている。
さらに、ロシア、中国、カナダ、米国、中東と南アフリカにもセンターがある。