TPP委員会であいさつをする安倍首相(19日、東京都港区で)

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 環太平洋連携協定(TPP)参加11カ国は19日、協定の運営を担うTPP委員会の初会合を東京都内で開いた。新規加盟の手続きを決め「新たなエコノミー(国・地域)の加入を通じて協定を拡大していく強い決意を確認した」とする共同声明を採択した。茂木敏充経済再生・TPP担当相は会合後の会見で、米国の復帰が見込まれない場合に輸入枠などを再協議する規定を巡り、現時点で規定を使い見直しに動くことに否定的な考えを示した。

 TPPは昨年12月30日に発効。会合に出席した安倍晋三首相は「TPPのハイスタンダードを受け入れる用意のある全ての国・地域に対し、私たちのドアはオープンだ」と述べ、加盟国拡大に強い期待を示した。

 新規加盟を希望する国は、協定窓口国のニュージーランド(NZ)に通知。全締約国が合意すれば同委員会で加盟交渉を担う作業部会を立ち上げる。農産物などの関税は、希望国と各締約国の2国間交渉を中心に進める。

 正式加盟の是非は再び委員会を開き決める。その後、希望国と締約国が議会承認などの国内手続きを完了させ、60日後に正式に加盟する。

 TPPでは、米国の復帰が見込まれない場合に牛肉セーフガード(緊急輸入制限措置=SG)発動基準やバター・脱脂粉乳の輸入枠を見直す再協議規定がある。

 だが 茂木担当相は、11カ国の閣僚らが臨んだ共同会見で「今の時点でその(再協議を巡る)質問を(加盟国に)するつもりはない」と述べ、米国との貿易協定交渉を控える中、現状では見直しを提案する環境にはないとの認識を示した。乳製品輸入枠の見直しの可能性を問われたのに答えた。

 同委員会は、協定発効後の最高意思決定機関。国内手続きを完了し、60日たった「締約国」が正式メンバー。現時点ではメキシコと日本、シンガポール、NZ、カナダ、オーストラリア、ベトナムの7カ国が該当する。

 初会合後、日本政府は首相官邸で祝賀会を開き、会合出席者の他、各国の大使、日本の与党議員らが出席した。

[解説]足元見て戦略再考を


 TPP参加11カ国は、加盟国拡大に向けてかじを切った。一方、米国離脱後の課題だったSGの発動基準や輸入枠の見直しは手つかずのまま。日米貿易協定も交渉入りが迫る中、日本農業にこれ以上、痛みを強いることは許されない。慎重な交渉を進められるか、政府の姿勢が問われる。

 新規加盟の筆頭候補のタイは米、砂糖、鶏肉などで有数の対日輸出国。加盟手続きが始まれば日本とも2国間で関税交渉が始まる。日本は既存加盟国として、一層の市場開放につながる要求ははねのけるべきだ。新たな農産物輸出国が名乗りを上げる可能性もあるだけに最初の拡大交渉は一層の慎重さが求められる。

 今年、日本は米国との貿易協定交渉に臨む。茂木担当相はTPP委員会後、米国の復帰が見込まれない場合の再協議規定を巡り、現時点で発動を提案する考えを否定した。

 TPPの牛肉SG発動基準や乳製品の輸入枠は、米国からの輸入量も織り込んでいる。このまま見直さなければ、日米協定の交渉次第で、国境措置が実質的に弱まる可能性がある。

 2月1日には欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)が発効し、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は年内合意を目指す。自由化の波を前に一度、足元を見て国内への影響を検証し、貿易交渉の戦略を再構築すべきだ。