韓国選手権で優勝したユ・ヨン(左)とチャ・ジュンファン(右)【写真:Getty Images】

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国内選手権を制した2人の「ヨナ・キッズ」に見る、韓国フィギュアの現在地

 フィギュアスケートの韓国選手権が1月11日〜13日まで行われ、男女ともバンクーバー五輪女王のキム・ヨナに憧れて競技を始めた「ヨナ・キッズ」と呼ばれる2人が優勝を飾った。男子を制したチャ・ジュンファン(車俊煥)は自国開催だった平昌五輪代表にもなり、シニア2年目の今季は目覚ましい活躍で、羽生結弦が師事するブライアン・オーサーコーチの秘蔵っ子とも言える逸材だ。そして、ここ1、2年でタレントがそろっているジュニア世代が着実に成長を遂げてぐっと層が厚くなってきた女子の頂点を掴んだのは、昨年に続き2連覇を飾った14歳のユ・ヨンだった。昨年12月のグランプリ(GP)ファイナルで銅メダル、チャ・ジュンファンは3月20日から埼玉で行われる世界選手権代表となり、ユ・ヨンは3月6日からザグレブ(クロアチア)で開く世界ジュニア選手権代表として2度目の挑戦で上位を目指す。

 韓国フィギュアスケート界で数々の金字塔を打ち立てた「フィギュアの妖精」と一世を風靡(ふうび)した韓国の至宝キム・ヨナの後継者としての呼び声も高いのが、男子ではチャ・ジュンファンであり、女子ではユ・ヨンだ。この2人にはいくつかの共通点がある。スケートを始めた頃の幼少時に同じ申恵淑コーチからジャンプの基本をしっかり習得したことだ。申コーチはダイナミックで美しいジャンプを跳んでいたキム・ヨナにも習い始めの小学生時代にジャンプ指導をした名指導者で、申コーチの教え子は基本に忠実な癖のないジャンプを跳んでいる。それは誰もが認めるところで、キム・ヨナにしてもチャ・ジュンファンにしてもユ・ヨンにしても、流れるようなジャンプに定評を持つほどだ。

 そして、申コーチの元から巣立った彼らを受け入れたのが、カナダのトロントにあるクリケットクラブで世界中からやってくるトップスケーターを指導育成するオーサーコーチが作った「チーム・ブライアン」だった。このチームは、フィギュアファンはすでにご存じだろうが、キム・ヨナはオーサーコーチがプロスケーターを引退して指導者になった時の一番弟子であり、シャイで原石だったヨナを「輝くダイヤモンド」(韓国紙の取材にオーサーコーチが答えていた)に磨き上げて五輪女王に導いた。そして、日本の羽生もまたオーサーコーチ率いる「チーム・ブライアン」の指導の賜物で66年ぶりの五輪連覇を成し遂げたと言っても過言ではないだろう。

 また2人ともに音楽的センスがあり、音を表現する能力は卓越している。特にチャ・ジュンファンは元子役として活躍していたこともあり、氷上でも抜群の演技を見せており、音をきちんと捉えて全身を使って踊る姿は見る者を魅了する。ステップシークエンスでレベル4の判定を受けることは簡単ではないが、GPファイナルではSP、フリーともにステップでレベル4をそろえた。

まだ未完成の17歳チャ・ジュンファンと14歳ユ・ヨン

 そして、この2人がさらに今後、世界の舞台で活躍できると大きく期待が持てるのは、まだ完成されていないからだ。ジュニア時代に比べるとチャ・ジュンファンの成長ぶりは目を見張るものがあり、着実に階段を上っており、プログラムも洗練されてきて内容的にもシーズンを重ねるごとにレベルアップしていることが分かる。今季特筆しておきたいことは、4回転ジャンプに磨きを掛けてきて得意のサルコーをほぼ完成させ、2種類目のトーループにも果敢に挑戦して跳べるまでになった。そして、男子では珍しい連続ジャンプの2本目に3回転ループという高難度の技を組み込んだことだ。多彩にジャンプ構成を組み替えられるのは羽生もそうだが、身体能力とスケート技術の高さを伺える。

 11歳で韓国選手権を初制覇して一躍注目を浴びた「超新星」のユ・ヨンは当時はガリガリで小さな女の子だったが、14歳の今は身長も伸びて162センチとなり、日本の紀平梨花のように体幹がしっかりとした体格に手足が長い抜群のスタイルを誇り、163センチだったキム・ヨナや浅田真央をほうふつとさせる美しいスケーターに成長してきた。ここ1年は身長の伸びからくるジャンプのブレに悩まされてきたが、少しずつ改善されてきたようで先の韓国選手権でのジャンプは大きな失敗はなかった。

 いまや「ポスト・ヨナ」の筆頭株として韓国女子フィギュア界を背負って立つホープには大きな期待が懸けられているが、そんな重圧も「天才少女」にとってはどこ吹く風だ。日本で言えば「元祖・天才少女」だった浅田真央のようなタイプで、その演技は堂々としていて、演技後の振る舞いは天真爛漫ぶりを発揮して愛くるしい。また、浅田との共通点を挙げると、ユ・ヨンは韓国女子として初めてトリプルアクセル(3回転半ジャンプ=3A)を公式戦(国内大会)で跳んだ選手であり、今後は「成功率70%」というこの大技を習得して国際大会で挑むつもりだという。

 ジュニア1年目からクリケットクラブに移籍したようだが、今季は米国ロコ・スプリングスを拠点にして、現役選手ではビンセント・ゾウや長洲未来ら、引退選手ではジェレミー・アボットやレイチェル・フラットらを教えていたトム・ザカライセックコーチに師事している。

「みどり・キッズ」の出現でフィギュア大国になった日本の道を辿れるか

 前述した通り、キム・ヨナという韓国が誇る偉大なフィギュアスケーターが登場したことで、彼女に憧れる「ヨナ・キッズ」が誕生した。これは、日本でもすでに起こった現象でもある。女子で初めて3Aを跳んだ伊藤みどりという日本が誇る偉大なフィギュアスケーターが出現したことで、伊藤に憧れた「みどり・キッズ」たちが次々と成長して世界で活躍するようになったことが今の日本を「フィギュア大国」にしたことは間違いないからだ。

 チャ・ジュンファンは世界的に有名なオーサーコーチに指導を受け、ユ・ヨンをはじめとしたイム・ウンス、キム・イェリムら韓国女子のトップ選手のほとんどは海外の著名なコーチの下で世界に羽ばたこうとしている。そんな状況をみると、2010年バンクーバー五輪でキム・ヨナが金メダルを取って世界一になってからまだ9年しか経っていない中で、ジュニア時代はまだ蕾みのままの「ヨナ・キッズ」たちだったが、成長を遂げながら少しずつ蕾みが膨らみ始めてきた。あと1、2年もすれば大輪の花が次々と開花を迎えるところに来ているように感じるだけに、韓国フィギュアスケート界の現在地は一瞬の輝きを放ったキム・ヨナ時代を経て「夜明け前」と言えるのではないだろうか。韓国フィギュア界が日本フィギュア界と同じ道をたどれるのか、注目していきたい。(辛 仁夏 / Synn Yinha)