関東では、東京都心部へ出るのに「鉄道ではやや不便」という地域で、東京直通の高速バスが観光や通勤の足を担っているケースが存在。そのような「高速バスが便利」な都市・地域を5つ紹介します。

関東で本数最大「東京〜鹿島線」

 関東には、鉄道よりも高速バスが「東京への足」として便利な地域があります。東京都心部への直通列車はあるものの、乗り換えが必要になることが多かったり、あるいは鉄道の駅から離れたりしている地域に、高速バスが路線網を形成しているのです。

 今回は、関東で「鉄道だとやや不便だけど、都心直通の高速バスが便利な地域」を5つ紹介します。

茨城県鹿行(ろっこう)地域(鹿嶋市、潮来市、神栖市、行方市、鉾田市)

 千葉県に近い茨城県の南東部に位置し、一帯には県下最大の工業地帯である鹿島臨海工業地帯が広がっています。この地域では、東京駅から鹿嶋市内の鹿島神宮駅まで(便によってはカシマサッカースタジアムまで)を結ぶ「かしま号」、神栖(かみす)市の波崎までを結ぶ「はさき号」、行方(なめがた)市の麻生を経由し鉾田市までを結ぶ「あそう号」が走っています。


東京駅八重洲南口に発着する鹿島神宮行き高速バス(2016年9月、中島洋平撮影)。

 このうち「かしま号」は、ジェイアールバス関東、京成バス、関東鉄道、JRバステックの4社が共同運行し、深夜の下り便「ミッドナイトかしま号」を含め1日88往復。関東の高速バスで最大の本数を誇ります。さらに潮来(いたこ)市は「かしま号」「ミッドナイトかしま号」に加え、「はさき号」の8往復、「あそう号」の6往復も市内を経由。「東京へのアクセスの良さ」を市内への移住・定住につなげるため、移住者や新卒就労者に高速バス定期券の購入助成を行っているほどです。

 鉄道は潮来市と鹿嶋市にJR鹿島線(香取〜鹿島サッカースタジアム)が、鹿嶋市と鉾田市に鹿島臨海鉄道(鹿島サッカースタジアム〜水戸)が通っています。鹿島線では成田線、総武快速線を経由する東京方面への直通列車が1日1往復あるものの、それ以外は基本的に乗り換えが必要です。かつては東京〜鹿島神宮間で特急「あやめ」が走っていましたが、次々に増発される高速バスに押される形で2015年に廃止されました。

ピンポイントで高速バスが発達する両毛地域

 栃木県と群馬県に跨る両毛地域でも、高速バスが発達している都市があります。

栃木県佐野市

 ジェイアールバス関東が東京駅から「マロニエ東京号」、新宿から「マロニエ新宿号」をそれぞれ運行。両者を合わせた本数は1日最大33往復(深夜の下り便「ミッドナイトマロニエ号」を含む)です。

 市内にはJR両毛線と東武佐野線が通っていますが、両毛線で東京へ出る場合は小山駅で乗り換え。東武線は浅草駅に直通する特急「りょうもう」が1日1往復ある以外は、館林駅で乗り換えが必要、東京駅や新宿に出るには、乗り換えが数回に及びます。

 佐野市側では、「佐野プレミアムアウトレット」に隣接する佐野新都市バスターミナルに発着。土休日の下りはアウトレット施設内の停留所にも停車する便もあります。佐野新都市バスターミナルは鉄道の駅からは離れていますが、施設内に自家用車の駐車場や駐輪場が整備されており、高速バスへの乗り換えが可能。佐野市交通生活課によると、午前中は佐野から東京へ向かう人、東京からアウトレットへ向かう人が多いそうです。


佐野プレミアムアウトレット内に停車する高速バス(2018年12月、中島洋平撮影)。

群馬県伊勢崎市

 ジェイアールバス関東が新宿〜本庄・伊勢崎間で高速バスを8往復運行。伊勢崎市内では、東京福祉大学構内や市役所、伊勢崎駅、伊勢崎オートレース場など主要施設に停車します。東京方面から伊勢崎市内まで通勤している30代女性によると、このバスを利用して通勤する同僚も少なくないとのこと。

 佐野市と同様に、市内にはJR両毛線や東武伊勢崎線が通っていますが、両毛線で東京へ出る場合は高崎駅などで乗り換え。東武線では浅草に直通する特急「りょうもう」が1日1往復ある以外は、太田駅や館林駅で乗り換えになり、東京駅や新宿に出るには、乗り換えが数回に及びます。

 このため伊勢崎市では従来から、利根川の対岸に位置するJR本庄駅(埼玉県本庄市)まで自家用車などで出て、そこから高崎線で東京へ向かうルートがよく使われていますが、そのルートをなぞったのがこのバスと言えます。

陶器市の足に「関東やきものライナー」

 茨城県と栃木県にまたがる地域でも、高速バスが発達しています。

茨城県笠間市、栃木県益子町

 笠間市はJR水戸線、益子町は水戸線の下館駅(茨城県筑西市)に接続する真岡鐵道の沿線にあり、どちらも「焼きものの里」として知られます。この両地域と秋葉原駅を直通する、その名も「関東やきものライナー」を、茨城交通が1日最大6往復運行しています。

 2013(平成25)年に運行を開始しましたが、特に東京から両地域への観光利用者が多く、2017年からは秋葉原駅8時20分発の下り便、益子駅16時発の上り便が座席予約制になりました(それ以外の便は予約不要)。ただし笠間や益子での「陶器市」期間中は多数の臨時便が運行されるため、両便とも予約不可になります。


「関東やきものライナー」が発着する秋葉原駅東口のバスターミナル(2018年8月、中島洋平撮影)。

千葉県大多喜町

 房総半島の内陸部、いすみ鉄道沿線の町です。町内の養老渓谷がハイキングや紅葉のスポットとして知られます。京成バス、鴨川日東バス、小湊鐵道が運行する浜松町・東京駅〜勝浦・御宿・安房小湊線(6往復)の途中停車地となっているほか、2015年に京浜急行バスと小湊鐵道が新たに品川・羽田空港〜大多喜線(6往復)の運行を開始しました。

 鉄道で大多喜駅から東京へ向かう場合、いすみ鉄道で大原駅まで約30分、そこからJR特急「わかしお」で約1時間10分(東京駅まで)と、乗り換えを考慮しなくても最短で1時間40分を要しますが、高速バスならば品川まで最短およそ1時間20分です(品川・羽田空港〜大多喜線のうち羽田空港を経由しない便)。

 なお、関東では草津温泉や日光、那須温泉といった観光地、あるいは水戸やつくば、内房や外房といった鉄道と競合する地域でも高速バスが発達しています。

【路線図】高速バスが便利な関東の都市・地域


本文中で紹介した東京直通の高速バス路線図。地名はおおよその位置(国土地理院の地図を加工)。