JTは1月29日から新型の加熱式たばこをオンラインショップや専門店で発売する(記者撮影)

出遅れていた市場で巻き返せるか――。

日本たばこ産業(JT)は1月17日、加熱式たばこの新製品を同月29日に発売すると発表した。高温でたばこ葉を加熱するタイプなど2種類を用意する。「ラインナップが増えて消費者の多様なニーズに応えることができるようになった。これで加熱式たばこ市場での巻き返し、シェア奪取を狙っていく」。17日に東京都内で行われた新製品発表会の席上、JTの岩井睦雄副社長はそう意気込んだ。

JTが今回発表したのは、「プルーム・テック・プラス」と「プルーム・エス」の2製品。全国で店舗を展開するプルーム専門店など24店舗とオンラインショップで、29日から販売を開始する。

加熱式たばこで紙巻きたばこの減少を補う

「プルーム・テック・プラス」の小売価格は4980円(税込み)。たばこ葉が詰まった専用のカプセルに、低温で加熱した蒸気を通して使用する。これまで展開していた「プルーム・テック」の加熱方式を踏襲しているが、現行製品よりもたばこ葉の量を増やし、かつ加熱温度を高めて吸い応えを強化した。

一方、「プルーム・エス」の小売価格は7980円(税込み)。現在の加熱式たばこ市場でもっとも主流である、高温加熱タイプの製品だ。今回新たに開発したたばこのスティックを本体に差し込んで使用する。1回の充電で10本のスティックを連続で吸うことができる仕様になっている。


今回、JTでは2種類の新製品が加わり、3ラインナップ展開となった(記者撮影)

JTが2017年から展開を始めた既存の「プルーム・テック」と合わせて、これでJTの加熱式たばこの製品ラインナップは3種類になる。

国内の紙巻きたばこ市場は1996年に3483億本とピークを迎えた。その後、規制の強化や健康志向の高まりによって、2017年にはピーク時から6割も縮小。メーカー各社は、減少が止まらない紙巻きたばこを補うために加熱式たばこに活路を見出している。

加熱式たばこは紙巻きたばこに比べて有害物質の量が低減されているうえ、紙巻きたばこに比べにおいが大幅に少ないことが特徴だ。

加熱式たばこの火付け役は米フィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)が展開する「IQOS(アイコス)」。同社が2016年に全国発売したところ、大ヒット。市場は一気に拡大した。2017年末の市場規模はおよそ6000億円と、1年間でおよそ3倍に拡大した。

ただ、JTはその波に乗り遅れてしまった。要因の1つは、「ここまで市場が一気に広がるとは想定していなかった」(同社の寺畠正道社長)。同社が開発していた「プルーム・テック」で使用するたばこカプセルは従来の紙巻きたばこと製造方法が異なり、量産化にも手間取った。

2018年にはようやく全国展開を始めたものの、出遅れていた間にその差は広がり、足元の加熱式たばこ市場ではアイコスのシェアは9割を超える(英調査会社ユーロモニター)。残りのわずかのシェアをJTとブリティッシュ・アメリカン・タバコの「グロー」で分け合っているような状態だ。

加熱式たばこ市場の成長は早くも足踏み

今回発売する「プルーム・エス」は、アイコスやグローと同じ高温加熱式で、同じ土俵に立つことになる。「ユーザーが不快に感じることが多かった高温独特のにおいを極力抑えている」(高橋正尚・商品企画部長)と強調。アイコスやグローのユーザーを取り込むことで、シェア奪還を狙う。


JTの岩井睦雄副社長(左から2番目)は、「(加熱式たばこ市場において)中長期的にシェアトップを目指す」と述べるにとどまった(記者撮影)

そんな中、市場トップのアイコスも昨年11月から新製品を投入している。PMIのアンドレ・カランザポラスCEOは「新製品ではユーザーが不満に思っていたほとんどの部分を解消できた」と豪語していた。

市場トップの競合他社が新製品投入でさらに展開を強化する中、JTのシェア奪取は容易ではない。JTはこれまで、「2020年末までに加熱式たばこ市場で4割を握ってシェアトップになる」と掲げていたが、今回の会見では「中長期的にシェアトップを目指す」と、ややトーンダウンした。

加熱式たばこ市場そのものにも暗雲が立ちこめている。「2018年の市場の成長は足踏み状態」(岩井副社長)だからだ。紙巻きを含めたたばこ市場全体における加熱式たばこのシェアは足元で20%程度。「興味を持っているユーザーには行き渡った」(同)ことで、形成からわずか3年ほどで市場は早くも成熟し始めた。

ブームの時期を過ぎ、成熟市場での競争という第2ステージに突入した加熱式たばこ戦争。2019年はJTにとって、勝負の年になる。