ご当地アイドルグループNGT48メンバーの山口真帆さんが、自宅のマンションで男ふたりから暴行を受けた事件が世間を騒がせています。

世界でいちばんリラックスできる場所にようやく帰ってきた――というときに、男に、しかも複数に襲われるなんて、こんな恐ろしいことはありません。「ニュースで知って、自分ちの目の前で腕をつかまれて口をふさがれたっていう状況を想像するだけで苦しくなって、山口さんがどんなに怖い思いをしたかと思うと……。その子のファンでもなんでもないし、なんなら顔もよくわからないけど、気の毒で泣けてくる」と、涙ぐみながら話す人もいました。

この事件は、山口さんの「事件から1か月経ったのに運営から何のフォローもない」というSNSでの告白から世間に知れ渡りました。そして、数日後に山口さんがライブで謝罪。「被害者がなんで謝らなければいけないのか」というところに端を発し、ネットが炎上。翌日には運営から報告が遅れたことの謝罪と対策として「防犯ブザーを配布することにした」という報告がされました。しかし、それが燃料投下となって、さらなる大炎上に。火消しとなるべく発表されたのが、事件後の運営の対応の悪さの張本人としてやり玉に挙げられていた劇場支配人の解任でした。劇場支配人の解任を求めて署名した方々は溜飲が下がる思いかもしれません。でも、なんだかもやもやが消えません。

今回、人気アイドルで発言力がある指原莉乃さんが運営批判の先陣を切ったこともあり、この事件のもっとも大きな問題は運営、つまり一般的な話でいうところの会社の対応という流れができました。そして、あちこちから「運営側はメンバーを守る義務がある」という声があがり、そうだ、その通りだと同調する人が圧倒的でした。

これは一般的な話でいうと、「会社は社員を守る義務がある」ということです。これについては、筆者も納得です。義務があるかどうかは別として、自分が所属している場所は信頼したいし、守ってほしいと思います。でも今回なぜか、社員を守る義務というのが、社員の安全を守る義務と捉えられているような気がします。運営側が提示した「防犯ブザーの配布」というのも、そこに起因するのではないでしょうか。

社員を守るために、夜道は危険だからひとりひとりに防犯ブザーを配布するって……小学生かよ、いや、小学生がランドセルの側面に取り付けている引き抜き式の防犯ブザーは、存在だけでも抑止力になるので必要だと思っています。思ってはいますが、今回のケースで会社が社員を守るって、そこ?そういうことなの? ともやもやするのです。

そうではなくて、(たぶん)会社の利益のために、社員が被害にあったことをなかったことにしようとした(のではないか)ということに、社員を守る義務を怠った感を抱いたのですがどうでしょうか。

会社側の危機管理能力は大丈夫なの!?

街で声をかけられたファンに山口さんの帰宅時間を教えたメンバーがいたというのが事実であれば、社員の個人情報の開示の禁止など、熱狂的なファンから身の安全を守るルールを徹底させていなかったことは、会社の責任だとは思います。また、暴漢たちの不起訴の理由が証拠不十分であるならば、防犯ブザーのような生易しいものではなく、ドラマ『相棒 season17』で反町隆史が警察内部の癒着を暴露するためにかけていた録画機能付き伊達メガネといったくらいのものを配布すべきです。

そして、今回の件を踏まえ、仕事帰りは24人のメンバーひとりずつを玄関まで送り届けることを徹底すべきですし、安全が確保されるまで、メンバーは夜間はもちろん、昼間の外出も禁止するくらいのことをすべきなのかもしれません。

でも、それを彼女たちがメンバーを卒業するまで行なうのは人間の基本的人権の尊重を損なうものだろうし、本人たちだって窮屈なものでしょう。ということは、またいつか同じことが起こるとも限りません。実際、アイドルの女性がファンを名乗る男に刃物で刺されて大けがをしたケースもありましたよね。それ、ついこの前、といっていいくらい最近です。どんなに会社の管理が万全だとしても、襲いたい暴漢がいたら、もうそれは回避できないのです。つまり、一番悪いのは、暴漢なんですよ。

なぜだか現在、その暴漢をけしかけたのは誰だ、とかいう首謀者探しという新たなフェーズになっていて、ふたたび、暴漢たちがないがしろになっている気がしてなりません。なぜなんでしょう。

確かに、家の前で暴漢に襲われたうえに、自分の所属しているメンバーの中に「やっちまいな!」って昭和のスケ番かよっていう輩がいたら、恐怖倍増です。でも、直接的に恐ろしい思いをさせたのは暴漢です。

腕をつかんだ、口をふさいだ、くらいでは被害者には傷なども残らないでしょうし、暴漢が否定して証拠もなければ、罪に問うことができません。実際、(理由が証拠不十分かどうかはわからないですが)不起訴です。でも、逃げたら腕をつかんだ、声をあげたから口をふさいだという流れは、刑事ドラマ的に言うと「静かにさせようと思って首を押さえただけ。気付いたら死んでた」の入口です。震えます。家の前で襲われるって、それくらい怖いことなんです。やられた方からしたら、「友達になりたかった」でも「憎たらしかった」でも同じです。理由や気持ちなんてどうでもよく、とにかく襲われることが恐怖なんです。

不起訴だから、つまり罪に問わないってことに決まったから、ってことでアンタッチャブルになっているんでしょうか。襲ってきたのは本当なのに、その人たちは法律上悪くないことになっているって、けっこう絶望的です。自分に降りかかったら、どうしたらいんでしょう。

「深夜、気配がして目を開けたら、部屋の中に知らない男がいた……」〜その2〜ではあずき総研が働く独身アラサー、アラフォーに聞いた、恐怖体験と防犯対策について紹介します。〜その2〜に続きます。

夜道で後ろから足音がずっと続くだけでも恐怖感が走るというのに、家の前で待ち伏せされたりなんかしたらもう……。