「しんめいP」という男性を知っていますか?…といきなり言ってもご存じない方が多いと思いますので、まずはざっくり、以下の経歴をご覧ください。


・1988年大阪府出身。東大法学部を卒業しDeNAに入社(新卒時年収500万円)

・海外向けゲームプロデューサーをつとめるが、2016年に退社し、なぜか縁もゆかりもない鹿児島に移住。行政職員として、カドカワが手がけるインターネット高校と提携した教育拠点の立ち上げに従事(年収300万円ダウンで200万円に

・30歳になった2018年に巷で話題になっている本を“その本を読むよりもわかる”ように解説する「鬼解説」を開始。そのかたわら、お笑い芸人としてもデビューし、「R-1グランプリ」に挑戦 ※2019年1月8日一次予選敗退(年収さらに150万円ダウンで50万円に。30歳の誕生日時点の貯金残高は4円

東大卒・DeNA入社などの輝かしい経歴を持ちながら、定職をなくし現在預金残高4円。特殊な人材であることがよく分かります。そんなしんめいPは「貧乏になって、人生の幸福度がピークに達している」と話し、周囲に混乱を招いているのだとか。一体どういうこと…? じつは、これから世界を変える注目人材かも!?と一部から注目されているという彼に、「お金と幸福」論について聞いてきました。取材途中に飛び出した「本当は貧乏になりたくないですか?」発言の真意とは…? 〈聞き手:ライター・浅田よわ美〉

“何でも手に入る世界”にむなしさを感じた子ども時代

浅田:
経歴から、しんめいPは「お金から離れる」ように生きているように見えます。

なんでも「お金がある状態=死」と周囲に話されていたとか…どういうことなんですか?

しんめいP:
あー、死っていうのはちょっと言いすぎたかもしれないですね。

そのとき、悲しい気持ちになる音楽を聞いててちょっと気持ちが高ぶっていたというか…


おい

しんめいP:
僕が言いたいのは、お金がある状態=虚無だということです。

小さいころからお金に困らず育ったので、長い間生きてる実感が得られず、“人生に触れていないような感覚”を持っていました。

だから僕は、貧乏になろうと多くの努力をしてきたんですよ。

浅田:
貧乏になるための努力…?

すでに疑問だらけなのですが、そんなふうに思うようになったきっかけがあったんでしょうか?

しんめいP:
8歳のころ、友だちと駄菓子屋に行こうという話になって母に伝えたら、5000円くれたんですよね。

浅田:
駄菓子屋に5000円。ちょっと多すぎるのでは…

しんめいP:
もらった瞬間思いました。いや多くね?と。大きく違和感を感じながら駄菓子屋に行ってみたら、やっぱり多い。

友達が持ってきたお金は100円だったのに、その駄菓子屋には、僕に買えないものはひとつもなかったんですよ。たとえばキャベツ太郎なら166個買えちゃう。

浅田:
(キャベツ太郎が好きなんだな…)

しんめいP:
何を買おうか、そもそもお菓子を本当に買うべきなのかどうか思考する必要がない空間。

そのとき「なんか、お金がたくさんあるってむなしいな」って思って。8歳から今日まで22年間その感覚がずっと尾を引いている感じですね…


だいぶ長いこと尾を引いている

浅田:
そもそも、実家がすごく裕福なんですか?

しんめいP:
全然、普通の一般家庭ですよ!

ただ僕は母が40歳で父が38才のときの子で、ちょっと遅めだったこともあってか、ちょっと甘やかされてたところはあったと思います。必要だから100万ちょうだい!って言ったらくれるんじゃないか、みたいな。

浅田:
めちゃくちゃに甘やかされてる

しんめいP:
だからお金が必要なときに困ったことが一度もなかったんです。

自然と、自分でセーブする感覚が身につきましたね。自分でなんとなく「これは本当に必要なのか」とか、「別にいらなくない?」とか考えて、親にねだらない謎の自制心をもつ子どもになりました。

DeNA入社。「お金を使って自分に投資しろ」と言われるも、使い道がない

浅田:
なるほど。でも子ども時代にお小遣いが多くても、社会人になったら自分で稼ぐわけじゃないですか

大人になっても「お金はいらない」と感じたんですか?

しんめいP:
当時DeNAは新卒の年収が一律で500万円(大卒)って決まってたんです。で、当時ある先輩に「若いうちは貯金なんかするな! 全部使って、自分の成長に投資しろ」と言われて、よっしゃ僕も使うぞー!って張り切ったわけです。

でも、僕の物欲センサーは駄菓子屋事件で完全に爆破されています。

そこでとりあえず、唯一頭に浮かんだのが寿司でした。

浅田:
寿司ですか…?

しんめいP:
はい。金を使う=寿司だろうと。だから、食べたいときに食べたいだけ寿司を食べることにしたんです。

でもそうやって好きに飲み食いしても、お金が貯まる一方なんですよ。あれ、駄目じゃんみたいな…金はあるのに使い道がない


先輩が言った「金を使え」ってそういうことじゃなかったのでは

浅田:
もっと他にあったような…たとえば、いい家に住みたいとかもなかったんですか?

しんめいP:
駅チカでさえあれば広い家に住みたいとかの希望も特にないんですよね。今も二畳のところに住んでるんですが、なんの不自由もないですし。

広い家に住んでも、僕めっちゃ散らかすんで、自分が使えるスペースは結局二畳くらいになるんですよ。

彼女ができたときだけは張り切って、女の子用のシャンプーとか一式ないんで薬局に行って「髪は一生だろ? いいやつ買おうぜ!?」みたいな。


満面の笑顔で二畳の部屋について語るしんめいP

逆境に憧れて貧乏旅行へ…しかし「虚構だ」と気づいてしまう

浅田:
まだ理解できないなあ…「お金がないこと」のメリットって何なんでしょうか?

しんめいP:
メリットというより、純粋に楽しいだけですね。

たとえば、ロールプレイングゲームをしているときとか、「どうしようか?」って考えるときが一番楽しくないですか?

どうしても必要なアイテムがあるのに、お金が足りない。どうしたらこの難局を乗り越えられるだろう…みたいな。

浅田:
それはそうですね。

しんめいP:
そんなワクワクできるタイミングに、いきなりお金とかアイテムがポーン!と与えられたら「なにこのゲーム! 楽しくなくね!?」って思うじゃないですか。

実家にいるときも会社員時代も、そんな状態です。欠乏感によって自分が人生に工夫を凝らすタイミングがなかった。

だから僕の場合、自分から「よりハードモードのダンジョン」に行くようにしてました。

浅田:
自分から…?

しんめいP:
バックパックを持って、途上国をまわったこともあります。

重犯罪発生率が世界1位の都市サンペドロスーラ(ホンジュラス)とか含めて30カ国くらい。

そのつど「命の危険と隣り合わせな状況」を体験するんですけど、なんとか乗り越えて、よっしゃー!みたいな。

浅田:
ポップに何度か死にかけてるみたいですが、生きてる実感得てますね! 

しんめいP:
でもね、繰り返すうちに気付いちゃったんです。「こういう貧乏旅行ってウソだな」って。

わざと自分でその状況を作ってて、帰国したら不自由ない日常がある。最初は満足感あったけど、それでつまんなくなっちゃって。

だから今度は、「人生全体をバックパック旅行みたいにしよう」と誓ったんですよ…



鹿児島に移住。「…本当は、貧乏になりたいんじゃない?」

浅田:
人生全体を冒険にしたい、と。それでDeNAを退職して、鹿児島に移住したんですか?

しんめいP:
そうですね。それでドワンゴさんの教育事業の仕事をしたり、翻訳の仕事をしたり。



しんめいP:
最近、僕と同じように「東京で働いてたけど、地方に移住して農業をはじめた」みたいな若者の話をよく聞くじゃないですか。

それは、年収500万円を600万円にするみたいなことに「何の意味があるんだっけ?」と感じて移住してるんですよ。収入を倍にするのは超大変なのに、それで幸福度が倍になるわけじゃない。

浅田:
たしかに。

しんめいP:
それよりも、年収0円の状態で5万円の仕事をもらえたときの喜びのほうが、幸福度ははるかにでかいですよ。

ちゃんと農作物が育って飯が食えたら「幸せ!」だし、防寒が足りない家で工夫して暖かくなっても「快適! 幸せ!」ってなるから、合理的に幸せを感じられるようになるんですよね。

浅田:
合理的にですか。

しんめいP:
要は振れ幅を大きくするってことです。基本的には現状維持で幸福度をあげるって難しいことだと思います。感情って増減などの変化で動くわけだから。

正直今の日本経済の状況だと、ほとんどの人の給料はそんなに急に大きく上がらないじゃないですか。だからみんな毎日がつまんなくなってくる。

大手の会社辞めてベンチャーに転職するのってそういうことなんじゃないかな。僕の勝手な見立てだと「本当は貧乏になりたいんじゃない?」と。

浅田:
貧乏になりたがってるのは、しんめいPだけじゃないと…?

しんめいP:
本当に苦しい生活を経験されてきた方もいらっしゃると思うのですが、実際、現在の日本にはそういう人が多いと思います。

中流以上でいい生活してるけど、なんだか毎日が楽しくない」人。



しんめいP:
たぶん僕は、そうなる危機感を子どものころ感じたんです。

昔放送されてた『いつみても波瀾万丈』っていう番組わかりますか?

浅田:
わかります! 懐かしい…


※いつみても波瀾万丈:1992年から2008年にかけて日本テレビで放送されたトークバラエティ番組

しんめいP:
あれ、親が好きだったので毎週観てて。

演歌歌手とか俳優が出てきて、再現VTRを通して人生を振り返るっていう内容でしたけど、成功者のほとんどは小さいころにものすごく貧乏を経験するなど、超ハードモードなステージをなんとか乗り切る経験を経てるんです。

それを観てたら、自分甘やかされててダメダメじゃん。このままじゃ絶対サブちゃんみたいになれないじゃん!って思ってしまった。

浅田:
原体験はまさかの波瀾万丈だったんですね。

病気になったら? 家族はどうする? お金がないとリスクが大きいはずだけど…

浅田:
でも、お金がないとリスクがありますよね? たとえば病気になったらどうするんですか?

しんめいP:
う〜ん

まあそうですね、だからほかの人に貧乏になることをオススメはしてません(笑)。

しんめいP:
でも、ゲームのたとえ話ばっかで申し訳ないんですけど、RPGで「HPが減るかもしれないからって全然冒険しないでお金ばっかり貯めてる」人いたらおかしいじゃないですか。

お金があったらどんどんアイテムを買ってゲームをすすめるべきだから、元気なときや武器が不要なときには、お金は0でいいですよね。

浅田:
確かにゲーム上ならそうですね…

しんめいP:
現実は何が違うかというと、ほとんどの人は「お金がないイコール死」みたいに思い込まされてちゃってるんですよね。

死って経験したことがないから怖いし、あんまり客観的に見ることができない。

だから「○歳までにいくら貯めとけ」みたいなことに過剰に反応して、とりあえず貯金しとかなきゃってなったりしちゃう

浅田:
「30歳までにいくら貯金してないと恥ずかしい」とか、友だちと比べちゃって不安になるとかですね。

しんめいP:
でも僕は実際に預金が4円になったときに、Facebookで「残高が4円になりました!」って投稿したら、いろんな人から連絡が来て、つかってないモノを送ってくれたり、「ご飯おごるから仕事の相談のってよ」という話から仕事を紹介してくれたり。

スキルを身に着けているか、人とのつながりを築いていれば「お金がないイコール必ず死」ではないってことがわかったんですよ。

今住んでいる鹿児島でも、まわりの方が野菜とかお魚をたくさんくださいます。


この笑顔。野菜とか魚をあげたくなる気持ちはちょっとわかる

浅田:
なるほど。

しんめいP:
それでお金がなくなることと死への恐怖とがリンクしなくなったんです。

それからは、貯金についても一般論じゃなくて自分で考えられるようになりました。

お金という「自分をコントロールしてたもの」がただの数字でありバーチャルにすぎないと気づけて、お金からはじめて自由になれたんですよね。

浅田:
理論としては分かるんですが、その解放感を経験してないので、私はまだお金がなくなるのが怖いです…

たとえば、結婚したり子どもができたりしても、その考え方を貫いていけますか?


しんめいP、じつは結婚してます

しんめいP:
「なんとなく不安だから貯金しなきゃ」じゃなくて、目的ベースで貯金すればいいんだと思います

たしかに僕も子どもができたら今のままのスタンスではいけないかもしれない。

でも、まだ子どもがいないR25世代だからこそ、「貧乏になるなら今じゃね!?」ってことなんです。

浅田:
貧乏になるなら今。

しんめいP:
貧乏になるリスクが低いうちに、一度チャレンジしとくといいんじゃないかな? と。

チャレンジ童貞だとどんどんハードルがあがるんで、一生保守派になりかねない

そこで臆さず突っ込むことができれば、子どもがいてもチャレンジできる人生になるかもしれません。そう思って、僕も急いで貧乏になったんです!

時代の文脈に沿った「新・お金と幸福論」

浅田:
最後に、ここまでの話を聞いて「貧乏になったほうがいいのかも」って思いかけている人の背中を押すひと言をもらえますか?

しんめいP:
誰にでもオススメしてるわけじゃありませんよ!(笑)

ただ実感として、お金から自由になったほうが人生楽しいです。

僕みたいな感覚を持っている人、同世代に意外と多いんですよね。こういう生き方に共感してくれる人がこんなに多い時代は、今までなかったんじゃないかな

浅田:
物質的に豊かになっている今だからできる、合理的な生存戦略だと。

しんめいP:
さらにお金にとらわれる感覚は、この先どんどん薄まっていくはずです。30年後の人がこの記事読んだら、なに普通のこといってんの?と言うと思います(笑)

「貯金しなきゃダメ」「年収を上げなきゃダメ」みたいな一般論より、自分の心の声に沿うことで、行動が規制されなくなり人生が楽しくなる。そんな状態が幸せなのかなと思いますね。



「本当は貧乏になりたい? なに言ってんだこの人」と、取材はじめは心の距離を取りながら取材を進めていた浅田ですが、話が進むにつれ、な、なるほど…と妙に納得させられてしまい、複雑な心境になった帰り道でした。実際3社でサラリーマン勤めをした私ですが、フリーのライターとして駆け出したばかりの、人生でもっとも不安定な今が一番幸せだったりするんだよなあ…。しんめいPもおっしゃっていたように、年収が下がって貧乏になったときに浮き彫りになるのが、それ以外の資産。これからは、仕事やモノを手に入れられるような“年収以外の資産”を貯めておく必要がありそうです。


ちなみにしんめいP、黄色のパーカーを2枚重ね着してました。つくづく変わった人だ…

〈取材・文=浅田よわ美(@asadayowami)/編集=天野俊吉(@amanop)〉

しんめいPが書籍の“鬼解説”イベントに使った資料を無料公開してくれた!

解読_LIFESHIFT_共有用_0316.pdf
https://drive.google.com/file/d/1bQuiLeZQZHB9ehIKlG5y_3t5oco58-eK/view?fbclid=IwAR3Iq193ZSrxJ8dzEGXY0Ue4wKZK7iFl3Uok0-RWZ4tfrtACQF2yohXhNr8