海外駐在で「潰れる人」と「潰れない人」はどこが違うのか(写真はイメージ)


(花園 祐:中国在住ジャーナリスト)

 本格的なグローバル化の時代を迎え、かつては商社など一部業種の大企業にのみ限られていた海外赴任は、今や中小企業でも珍しくなりました。しかし、慣れない異国の地で働くストレスは計り知れず、心身に異常をきたす駐在員も少なくありません。

 筆者はかれこれ10年近く中国で勤務し続けており、これまで様々な業種の駐在員を見てきました。すると、海外勤務で「潰れやすいタイプ」と「潰れにくいタイプ」について、いくつか特徴のようなものが見えてくるようになりました。

 そこで今回は、海外勤務、特に中国に赴任した際に潰れにくい駐在員の傾向について、筆者の経験を基に紹介したいと思います。

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最も大切なのは体力!

 今回、記事を書くに当たって、海外勤務に向いている人と向いていない人の傾向について紹介するウェブサイトをいくつかチェックしてみました。

 そうしたサイトでは、海外勤務に向いている人の特徴として「外国語に堪能」「性格が楽観的でポジティブ」「チャレンジ精神が高い」「芯が強い性格」「異文化への興味が高い」「体力に優れている」「周囲から信頼を集めている」などといった点が挙げられていました。しかし、筆者に言わせれば、こんなの全部揃った超人なんてそうそういるわけがありません。だから、どの会社も誰を派遣するかでいつも苦労するわけです。

 それでも、あえてここで挙げられた特徴に優先順位をつけるとしたら、最も大切なのは、やはり「体力に優れている」ことでしょう。

 海外では医療水準が日本より劣っている場所が少なくありません。また日本で流通している医薬品が現地では認可されていないこともしょっちゅうです。病気になるたびに帰国していたら仕事なんて捗るわけがなく、ちょっとやそっとじゃ病気にならない体力があることが、海外派遣者を選ぶ際の最低条件と言えるでしょう。

 極端な話、多少仕事ができなくても体力のある人だったら海外勤務をこなすことができます。

語学ができなくてもなんとかなる

 逆に、筆者が思うに、先に挙げた特徴の中で世間が思っているほど実は優先度が高くない能力があります。それは、ほかならぬ「外国語に堪能」こと語学力です。

 業種や仕事内容によっては外国語はもちろん必須ですし、できるに越したことはありません。けれども、たとえ外国語ができなくても現地に通訳を置くなどすれば大抵の仕事は回すことができます。

 実際に筆者が中国でこれまで見てきた駐在員は、中国語がまったくできないにもかかわらずバリバリ働いて成果を出していた人が少なくありません。語学力にこだわるくらいなら、もっと別の面に着目して海外派遣者を選ぶべきです。

 なお筆者の個人的な調べによると、中国に派遣された駐在員の多くが最初に覚える中国語は、「啤酒(ビール)」と「烟灰缸(灰皿)」の2つです。他の言葉は使えなくても、この2つの単語だけはやけにいい発音で口にする日本人のおじさんが数多く見られます。

やる気の高い人ほど折れやすい?

 では、体力のほかに、海外駐在員としてのサバイバル力を見るポイントはどこか。

 筆者が無視できないポイントとして考えるのは、赴任前の海外勤務に対する「やる気」です。やはり、やる気のある人のほうがいいのでしょうか? いいえ、結論から言うと、やる気のある人ほど折れやすいのです

「やる気のある」人というのは、具体的には、キャリアアップのために海外勤務を自ら志願してやってきたような人たちです。実はこういう人ほど案外、任期を待たずに帰任するというケースをよく見かけます。

 彼らは「成長著しい中国で新規ビジネスを立ち上げたい」「中国語をマスターして人脈を広げ、キャリアアップにつなげたい」などと意欲満々でやって来ます。ところが、往々にして徐々に元気をなくしていきます。

 逆に「ほかに代わりがいないから」と会社に説得され、「来たくはなかったんだけど・・・」と仕方がなく中国に来た人ほど、帰任時には「もう日本に帰りたくない」とぼやく姿をこれまでよく見てきました。

 やる気のある人ほど中国に来て意気消沈してしまうのは不思議な話ですが、「やる気」を「期待度」という言葉に置き換えると、あながち矛盾していない気がします。

 つまり、海外赴任をキャリアアップのチャンスと捉える人は、赴任する前に大きな期待を抱いています。ところ期待度が高すぎるがゆえに、現地で実際に働いてみると仕事内容や不慣れなコミュニケーションなど想定外のマイナス面に直面して、強いストレスを感じてしまいます。特に、やる気は大きいものの、現地の事情をよく把握せずに赴任してくる人はメンタル面で故障するリスクが大きいように見えます。

 逆にしぶしぶ派遣を受け入れた人は、なんの期待も抱かずに海外に赴任します。すると彼らは赴任地において仕事内容や生活に想定外のプラス面を見出します。期待度が低かったおかげで楽しくストレスのない日々を送ることができ、帰りたくなくなるというわけです。

信じる駐在員は救われる?

 最後に、海外駐在員として非常に望ましい適性を挙げましょう。これを指摘する人はほとんどいませんが、筆者はもしかしたら、これこそがいちばん重要なのではないかと考えています。

 それは、何かしらの宗教の熱心な信者であることです。

 心理学の研究によると、信仰心がある人は海外滞在においてストレスをほとんど受けないことが証明されているそうです。

 戦国時代の日本にやってきた宣教師よろしく、彼らは現地の文化や言語を不思議なくらいに早く修得し、地域の人たちとも積極的に交流します。キリスト教徒なら日曜学校などのように現地の宗教コミュニティに顔を出すことで太い人脈を築きます。そして、海外駐在員として理想的とも言えるようなパフォーマンスを発揮します。筆者は実際にびっくりするようなビジネスの成果を生み出す人たちを何度も見てきました。

 生憎、筆者は何の信仰も持っていないただの歴史オタクですが、もしも海外駐在員を選ぶ立場になったら、「信仰心がある」というポイントを第1のスクリーニング条件に選ぶでしょう。

 韓国のサムスン電子はかつて中東に進出するに当たり、派遣する駐在員をイスラム教に改宗させたといいます。筆者に言わせれば、これは非常に理に適ったビジネス手段です。日本の企業も「宗教のビジネス利用」という観点を持ってみてはいかがでしょうか。

筆者:花園 祐