日韓関係がここまで急悪化している根本理由

写真拡大


韓国の文大統領は日韓関係をどう考えているのだろうか(写真:ロイター)

北東アジアにおいてアジアの安全保障上重要な2つの同盟国である日本と韓国の関係が、またもや敵対意識に煽られた機能不全に陥っている。悲しいことに、この状況は今に始まったことではない。隣り合う両国は過去にもこうした局面に差し掛かったことがあり、差し迫った問題はいままでと同様に、戦争や植民地支配、競争意識の歴史に根差している。

しかし、今回の件を単純にいつもと同じ問題だと見るのは間違いだ。実際、日本と韓国のみならずアメリカ政府内部でも、これは北東アジア地域の安全保障に影響をおよぼしうる深刻な危機であるという意識が強くなっている。

韓国政府の感情は日「非常に不安定」

「韓国政府と日本政府の間に衝突への道を回避しようとの出口作戦がない状況を、非常に憂慮している」と両国の関係に深く携わってきた元韓国政府高官は語る。日本の植民地支配に対する朝鮮独立運動(三・一運動)勃発100周年を祝う年だけに、韓国政府の感情は「非常に不安定」だと同高官は言う。

同高官によると、日韓関係の危機は「アメリカを含む3国間の安全保障協定を蝕むことになりかねない」。一部のほかの韓国人たちと同様、同高官は明らかにアメリカがこの件に関心を示し、行動しないことについて非難する。これまでのアメリカであれは、日韓政府が互いに話し合う能力を欠く今回のような危機に際して介入してきた。

「残念ながらアメリカ国務省は混乱状態にあり、両国間を取り持つ役割を果たすことができない。膠着状態を崩すには高いレベルの対話ルートをお膳立てがすることが必要だが、現在は両国ともそれをする意欲を欠いているようだ」(同高官)

緊張の直接の引き金となったのは、韓国の最高裁が、植民地時代や戦時中に日本企業に徴用工として従事した韓国人たちに対する補償を認めた昨年11月の判決だ。工員たちに賠償を支払うために日本企業の資産差し押さえを認めたこの判決は、外交上の重大な危機を招くだけでなく、日本企業の韓国への投資や取引見直しにつながるおそれがある。

「これは経済協力に非常に深刻な影響を及ぼし、日本経済よりも韓国経済を大きく弱体化させるだろう」と前述の元韓国政府高官は話す。

徴用工の争議は、先月韓国側の文在寅大統領が、戦時中に旧日本軍売春宿で、強制的に働かされた慰安婦と呼ばれる韓国女性たちに補償と謝罪をするという脆弱ながら重要な2015年協定を破棄する決断を下したことで、さらに勢いを増すこととなった。

こうした歴史をめぐる対立が前哨戦となり、韓国海軍艦艇が日本海をパトロール中の日本の海上自衛隊航空機に射撃統制用レーダーを向けた12月20日に、両政府間の深刻な対立が始まった。韓国の軍と政府はこの事実を認めることを拒否しているどころか、開き直って日本の航空機が挑発するように非常に低空を飛行したと非難している。

レーダー照射問題が安全保障問題につながる懸念

アメリカ軍や政府高官たちは一様に、事件について日本の説明をおおむね正しいものとして受け入れている、と話す。韓国の艦艇が理由は定かではないものの、実際に統制レーダーを向けたと考えている。

韓国と日本に駐屯するアメリカ軍事司令部は、今回の争議がこの地域のより大局的な安全保障協調に与える影響を懸念している。この地域では、日本と韓国両方で軍事活動をスムーズに統合できることが安全保障上重要だからだ。とはいえ、一方だけ味方していると非難されるのをおそれて対立に介入する気にはなれないでいる。

一方、日本政府高官たちは日増しに、 韓国政府の革新政権は北東アジアのパワーバランスを変化させようと決心したのだとの思いを強めている。日本の高官たちは文政権が、北朝鮮と取引することに決めたのだとおそれており、そうなれば中国を力づけ、アメリカの安全保障体制を弱体化させることになる。

ある外務省高官は非公式な会談で、文政権は北との統一という自らの夢を追っており、それが実現すれば中国の支配下における統一朝鮮が日本に対抗してくるだろうとの見方を示した。こうした悲観的な展望は、日本では今に始まったことではないが、それらが信ぴょう性を帯びてきている。

文大統領や、今回の件に関する文大統領の責任については、懸念を共有する者たちがアメリカの関係筋の中にはいる。「韓国政府は日本政府の懸念を真剣に受け取っていないのではないかと感じる」と両国と長く関わってきたある元アメリカ国務省高官は話す。

「韓国政府は、日本を朝鮮半島で重要な役割を果たす国とは見ておらず、衝突のおそれを回避するために自分たちの政策を調整する必要はないと考えている。しかしそれは大きな誤りだ」(前述の元国務省高官)

アメリカ人にとって歴史問題は二の次であり、日本、韓国、アメリカの3国間安全保障協定が脆弱化することによる関係性悪化の影響のほうが重大だ。韓国の防衛は、朝鮮半島にいるアメリカ軍と日本に拠点を置くアメリカ軍の統合にかかっており、実際には韓国が攻撃されたときには対処する日本の軍事力の協力にもかかっている。

日本側はかなり「慎重に対応している」

今回のレーダー照射をめぐる対立の深刻さについては、アメリカの軍当局者や専門家たちもその意味を分かっている。たとえば、元アメリカ空軍中佐、マイケル・ボサック氏はアフガニスタンへ2回遠征したことがあり、最近は在日米軍司令部に政府関係次官として勤務。3国間の安全保障協定を策定するという、始まったばかりながら重要な仕事にもついた経験を持つ。

そのボサック氏も、日本のP-1 哨戒機の一件を巡って日韓の間に深まる隔たりを憂慮する。日本側は問題の処理を両国の防衛省間ルート内に留めようとするなど、かなり「慎重に対応して」おり、安倍晋三首相のような上層部のコメントは主に記者からの質問に答えたものにとどまっている、とボサック氏は言う。しかし今や「両サイドがその態度を強めて」おり、解決を見出すのは「不可能になってきている」(ボサック氏)。

「私は日本側が動画を見せることで決着をつけて次に進んでいくことを期待していたが、レーダーのデータを示すことによって、より厳しい態度をとることになった」とボサック氏は言う。

「韓国側はそれを望んでいないようだが、それも当然だろう。軍事行動レベルでは、自衛隊は、同盟国軍が射撃統制用レーダーで自分たちを照射してきたのにそれを認めないのだから、まさに憤慨しているのはわかる。彼らにとって、行為そのものよりもその後の対応が我慢ならないのだ」

「問題は、その政治的対応が軍事行動レベルでのいかなる解決をも阻んでいること。つまり、韓国海軍がこのようなことを2度と起こさないための措置を施したのかどうか、日本の自衛隊にとってはいまだに不明だということだ」

別々の問題である一方で、徴用工や慰安婦問題をめぐる日本の怒りやいらだちが、安全保障面での日本の反応に影響を及ぼしていることにはほぼ疑いがない。「さまざまな状況で何らかの改善がみられない場合でも、日本が韓国に対して辛辣に対応するとは思わない」とボサック氏は言う。

「一方で、日本が文政権に対してこれ以上働きかける努力を一切やめることを選択すると見ています。今回のP-1機事件は譲れない一線のようなものになっており、それが、日本側が厳しい態度を取り続ける理由なのだ」

アメリカが介入する可能性はあるのか

韓国人の中にはこれらの件の対処について、特に韓国の安全保障に及ぼすその影響について文政権を批判し、アメリカに2国間を取り持つよう介入を求める声もある。

日韓関係の悪化で日韓米3国協定が弱体化する懸念がある」とする記事を、保守系日刊紙『朝鮮日報』が先ごろ掲載した。「米朝非核化会議が失速したままの状況で、悪化する日韓関係が、朝鮮半島有事の際に素早く実行に移す必要のある『ミサイル防衛協定』といった日韓米の対応姿勢に問題を引き起こす可能性があると観測筋は指摘している」。

朝鮮日報はアメリカが慰安婦協定の仲介で果たした役割を指摘し、「日韓慰安婦協定は、実際には日韓米協定であり、トランプ政権と議会が安倍首相に署名するよう圧力をかけて作り上げたのだ」と、元国立外交院長の尹紱敏氏は紙面で述べた。「同盟国を重要視したオバマ政権は日韓関係を、アメリカにとっての戦略的要素と考えていたが、トランプ政権は、日韓関係と日米関係とを分けて見ている」。

過去のアメリカ政府も、北東アジアの2つの重要な同盟国間の論争に介入するのに、つねに消極的ではあったが、しかし同盟体制を維持するには、時としてその種のリーダーシップを必要とするのだということも理解していた。

しかし、今回筆者が足元の危機に対してアメリカの高官たちにその対応を尋ねたところ、その答えを得ることはできなかった。現在の危機に際して明らかに行動を起こそうとしないトランプ政権の態度は、世界におけるアメリカのリーダーシップを放棄した結果を改めて示している。