娘が描いた絵

「家族で外出」というテーマで描いた娘の絵を見て、思わず苦笑いした。鉛色の空にマスクをつけた家族たち。事実だけれど、どういうわけか、ほろ苦い思いがした。

そういえば数週間前、ソウルを流れる漢江の遊覧船に乗ろうと出かけたが、ミセモンジ(微小粒子状物質〈PM10〉)がひどかったことがある。しばらくして、ソウル中心部の清渓川広場のイベントに出かけたのに、ミセモンジのせいで早々と終わってしまい、娘が残念がったこともあった。

「鉛色の空」は私のせいではないけれど、母親として申し訳ない思いになる。

「着陸直前にスモッグに覆われた街が見えた。北京に来たのかと思った」。しばらく前、久しぶりにソウルにやってきた日本の知人がそう言った。ソウル生活が14年を数える日本人オンマも「ミセモンジがひどいときが、私が日本に帰りたくなる唯一の瞬間」と話していた。5歳になる彼女の息子は気管支炎で苦しんでいる。

随分前になるが、明洞で知人と夕食を取った。食後、知人に「懐かしいね。久しぶりに南山まで行ってケーブルカーに乗ろうか」と言ってみた。知人は即座に手を振って「だめだめ。南山にあるソウルタワーの色を見てみなよ。赤色だよ。今日は散歩はやめて、青色の時に行かなきゃ」と答えた。

ソウルタワーはその日の照明の色で、ミセモンジの濃度を知らせてくれる。人々は照明の色で散歩するかどうか決めているというわけだ。

南山・ソウルタワーの照明。ミセモンジ汚染が少ない時は青く光り(左)、汚染がひどい時には赤く灯る(右)=ソウル市提供

ソウルは、かつて人ごとだと思っていたスモッグの恐怖に日々おびえる都市の一つになってしまった。毎朝、その日の天気を教えてくれる携帯のサービスは「ミセモンジ濃度」も必ず一緒に伝える。今や毎朝、ミセモンジ濃度を気にすることが日常茶飯事になってしまった。

数年前までは、春になると黄砂が何日間か訪れ、そのたびに「中国は自分たちの過ちで、隣国にまで迷惑をかけるのか」とイライラしながら、サムギョプサル(豚の三枚肉)をほお張ったものだ。

韓国では科学的に証明されたものではないが、「ほこりをたくさん吸い込んだ日は、豚肉の脂を取れば、体内の重金属とほこりが取れる」という俗説がある。幼い頃から、ほこりがたくさん出る労働に従事する人たちがサムギョプサルを食べる光景を見て育った私は、知らず知らずのうちに同じ行動を取ってしまう。

家庭で手軽に楽しむサムギョプサル

韓国では最近、「三寒四微」という新しい造語が生まれた。「三日間は寒いし、四日間はミセ(微細)モンジ(ほこり)で息苦しい」という意味だ。日本にもある「三寒四温」の別バージョンだ。政治家は必ず公約で「ミセモンジ」を減らすというけれど、公約が実現したためしがない。

昨年1月、何事が起きたのかと思ってしまうほどのけたたましい携帯の警報音が鳴った。ミセモンジ警報を伝える文字メッセージだった。この日、ソウル市内の公共交通は無料になった。その後も、車両をナンバー別に規制したり、マスクの着用、外出自粛を呼びかけたり、様々なメッセージが届いた。

ミセモンジ汚染のため、料金免除を伝える掲示が出たソウルの地下鉄改札=東亜日報提供

一体、どれだけミセモンジを減らす効果があるのだろう。職場の同じ階の知人の女性は「義母の誕生祝いに空気清浄機を贈ったの。自分の母にも贈りたいけど、お金がかかって」と愚痴っていた。

最近、韓国内で親孝行のための人気商品と言えば、空気清浄機だ。少し前まで、特別な事情があったり、風変わりだったりする人だけが使っていたのに。今や、品薄商品だ。超ミセモンジ(PM2・5)にも対応できるフィルターだって話題になっている。子どもがいる家庭はもちろん、一人暮らしにも必要。児童や高齢者向け施設の説明会で、空気清浄機の有無は重要な説明事項になっている。

「ミセモンジがひどくてサムギョプサルを焼いたら、今度は家の中が油臭くなってしまって。窓を開けられないし、どうしよう」と知人に聞いた。知人は「一度窓を開けて換気をして、その後で空気清浄機を使えばいいのよ」と教えてくれた。

でも、本当に空気がきれいになっている実感はない。「使わないよりマシ」と思って清浄機を使っているだけだ。気分が晴れるところまでは行かない。

行政もダメ、自衛策にも限界がある。一体どうしたらいいのだろう。

ミセモンジに覆われたソウル・南山=東亜日報提供

韓国統計庁が発表した「2018年の社会調査」によれば、韓国社会の最大の不安要因は「犯罪」「安保」「環境汚染」の順だった。10人中8人がミセモンジに不安を抱いており、放射能よりも強い恐怖心を持っているという。

原因がわかれば解決も早いだろうにと思うが、中国に主な責任があるのか、韓国に問題があるのか、多様な分析が出ていてはっきりしない。黄砂にミセモンジが加わった日などは最悪の気分だ。

私のような市民ですらこうなのだから、環境は今や韓国市民誰もが考える問題になった。激情的な韓国の人々は、いったん集中すると驚くような力を発揮する。そんな力が今、発揮できないものか。

北朝鮮の核ミサイルも怖いけれど、とりあえず、呼吸だけでも安心してできる朝鮮半島になって欲しい。

我が子が描く次の絵に、真っ青な空が広がって欲しいなと思う。

晴れ渡ったソウル・南山=東亜日報提供