そもそも目標設定が高すぎるのかもしれません(写真:georgeclerk/iStock)

3カ月で10キロやせる! 明日から炭水化物を抜いて毎日5キロ歩いて、夜は腹筋100回――。
英語が話せるようになりたい。明日から毎日1時間、英語教材で勉強する――。
そんなふうに一大決心してみたものの、たったの1週間も続かなかったという経験をお持ちの人は少なくないかもしれません。その原因について『習慣が10割』の著者、吉井雅之氏は「何をやっても長続きしない人は、習慣のつくり方自体に問題がある」と指摘します。

身に付けた習慣でその人がつくられる

「やせて美しくなりたい」「禁煙する!」「英語が話せるようになりたい」「無駄遣いをやめ毎月少しずつ貯金しよう」など、新しい年を迎えて「今年こそは」とこれまでやれなかったことに挑戦しようと、目標を立てた人もいるでしょう。

ですが現実は、「明日から頑張ろう」「来月から頑張ろう」「来年こそは頑張ろう」「結婚したらきちんとやろう」などと、月日だけが流れ、「自分は何をやってもダメな人間だ」などと、何ひとつ継続できない自分に自信を失くし、自己嫌悪に陥ってしまう人が少なくありません。

逆にちゃんと結果を出す人も、もちろんいます。では、目標倒れに終わる人との違いは何でしょうか。「そりゃあ、血のにじむような努力でしょ」「凡人にはない才能でしょ」という声がチラホラ聞こえてきそうです。とはいえ、血のにじむような努力も“継続”しなければ何の結果も生みだしませんし、ものすごい才能を持っていたとしても、磨かなければダイヤと同じでただの石ころにすぎません。

両者の大きな違いは「どんな習慣を身に付けているか」にあります。

桑原智子さん(43歳、仮名)は、いわゆる「万年ダイエッター」。若い頃は好きな物を好きなだけ食べ、運動をいっさいせずとも165cm、体重48kgとスタイル抜群で、スタイルの良さを生かし、レースクイーンやモデルのお仕事もされていたほどの人です。

身長が高めなこともあり、ご本人が言うほど太っているようには見えませんが、35歳を過ぎたあたりから太り出し、今では体重が70kgの大台に乗り、ご本人いわく「洋ナシ型のおばさん体型」なのだとか。「何がなんでも22kgやせなければならない」と彼女は言います。

桑原さんのダイエット法は炭水化物をいっさい取らず、主食は野菜にするという、過酷な食事制限。これで確かに体重は落ちます。

しかし、桑原さんは料理を作るのも、食べるのも大好き。食材にこだわって隣町まで買い出しに行くこともあるそうです。そのためか、食事制限で体重が落ち始めると、油断して「今日だけなら大丈夫かも」となって食べてしまい、あっという間にリバウンド。それを繰り返しているそうです。「自分は何をやってもダメな人間」と自己嫌悪する日々を送っています。

脳の習性を無視した習慣づくり

江口孝夫さん(仮名)は、将来は海外で働くという夢を持っています。そうなるとやはり必要なのが英語力。もともと英語が得意ではない江口さんですが、27歳の誕生日を機に「平日は英語の問題集を1日10ページ、土日は延々と英語漬けの生活を送ろう」と決めて猛勉強を始めました。ところが、最近では、仕事で帰ってくると疲れていて問題集を開くことすら苦痛に感じる日々を送っています。ただ、その割には、大好きなアイドルのネット動画を毎日深夜遅くまで見ていて、そんな自分に罪悪感を持っています。

2人が目標達成のためにやろうと決めた習慣が、長続きしないことにはいくつかの共通点があります。

そもそも、目標達成のために決めた習慣自体を「楽しい」と感じていません。桑原さんは料理をするのも、食べるのも大好きなのに、過酷な食事制限でやせようとしてしまっています。江口さんは仕事で疲れているといっても、アイドルの動画なら深夜まで延々と見られる体力は残っているのです。

加えて、2人とも最初から高すぎる目標を設定していますし、「しなければならない」と義務化してしまっています。

一方、長年にわたる目標を見事に達成する人もいます。

菅原学さん(43歳、仮名)は、一人暮らしを始めた大学生の頃からスロットにはまり、それから10年余りもの間、ギャンブルのために親兄弟や消費者金融から借金をするなど、寝ても覚めてもギャンブルざんまいの自堕落な生活を送っていました。

そんな菅原さんを見かねたお兄さんの勧めで、依存症の治療で有名な病院に通院することになり、薬物治療と集団精神療法と呼ばれる治療を受けたそうです。

医師から渡された薬は、自殺願望がある人などの衝動を止めるときに使われる薬だったようで、それを飲むと、「スロットに行きたい」という激しい衝動は以前に比べて収まったそうです。そして、集団精神療法とは、似た経験を持つもの同志が集う「自助グループ」に入り、医師などの監督下で語り合うというものです。

ただ、通院した回数や薬の服用期間、自助グループへの参加は、ほんの数回にすぎませんでした。菅原さんはこれをきっかけに、「当たり前のことをきちんとやれる自分になろう」「日常のささいなことから自分自身を変えていこう」と決心します。

日常のささいな習慣と仕組化の効力

菅原さんの長年の悪習を断てた主な「習慣」を挙げてみます。

□ 出勤前に必ずベッドメイクしてから家を出る
□ Yシャツのボタンが取れていたら放置せずにその日のうちに縫い付ける
□ シャンプーや洗剤などは、詰め替え用で補充する
□ 土日はスーパーに行き食材や日用品を補充する

これらは、誰でもできるような簡単なものがほとんどでした。菅原さんによると、「自炊するのも、掃除洗濯、お裁縫も、きちんと丁寧にしてみると、なかなか楽しくて、今度はそれをやらないと気が済まなくなり、どんどんはまっていった」。そうなると、土日は月曜から快適に過ごすための準備で忙しく過ごし、時間に余裕ができたときは、ギャンブルのことを考えないように、大事な契約時のイメージングをし、事前に必要な準備をする時間に充てたのだそうです。

このほかにも菅原さんはこんな習慣も実行していました。

□ どんなに遠回りしてでも、パチンコ屋があるルートを通らない
□ パチンコ屋のCMが入ったら耳を塞いで顔を背けチャンネルを変える
□ パチンコ屋のチラシが入っていたら見ずに即捨てる(部屋に置かない)
□ ギャンブルの会話をしている人がいたらその場を去る

菅原さんは28歳でギャンブルを断ち、今年の誕生日で15年目になるそうです。今は2人のお子さんにも恵まれています。

誰にでも無理なく続けられる習慣づくりのコツ

菅原さんと、桑原さん、江口さんとの本質的な違いは、大きな目標を達成するためには、小さな習慣を積み重ねているかどうかにあります。無理なく継続できる“習慣のつくり方”にはコツがあります。私の考える5つのポイントを紹介しましょう。

(1)とにかくハードルを下げて継続できたという実績をまずはつくる

劇的な変化をもたらす習慣は、大きなことをすることではなく、小さなこと、ささいなことの積み重ねです。

(2)ゲーム感覚で楽しんでみよう

脳が楽しいと感じることだと無理なく続く、を意識してみます。


(3)時間と場所を決め仕組み化する

たとえば、お昼休みは、早めに切り上げて英語のリスニングをする。ダイエットのために、エスカレーターを利用せず階段を利用するなどが挙げられます。

(4)1つ前の習慣から用意する

ダイエットをしたいなら、健康的でおいしい食事作りを習慣にしてみる。会社帰りにスーパーによることを習慣にしてみる。

(5)なりたい自分、目標を達成した後の自分をイメージ化

スリムになっておしゃれな洋服を着ている自分を1日に何度も想像してみる。

「なぜ良い習慣が身に付かないのか」をまずは知り、無理なく楽しく、長く続けられる小さな習慣を構築することが目標達成のための基本中の基本なのです。