昨年末、運営する国立大学法人を統合することに合意した名古屋大学と岐阜大学。記者会見で笑顔を見せた名大の松尾清一総長(右)と岐阜大の森脇久隆学長(撮影:関口威人)

名古屋大学との経営統合を進める岐阜大学が、「地域科学部」の廃止を見据えた学部再編の構想をめぐって迷走している。

いったんは再編を公言したものの、学内外からの反発を押し切るよりも、昨年末に基本合意までこぎ着けた名大との統合協議に専念すべきだとの判断に傾いたようだ。全国初の県境を超えた国立大学統合のモデルを示すうえで、乗り越えるべき課題は少なくないと言える。

大学側は再編白紙を否定

岐阜大の学部再編をめぐっては、2021年度に「経営学部」を新設する代わりに地域科学部の募集を停止する方針を執行部が固め、学内で準備を進めていた。

しかし、1996年に日本で初めて「地域」の名を冠したユニークな学部が事実上廃止されるとして、現役の学生や教員、卒業生らが猛反発して署名運動などに発展。大学側は昨年中に最終決定して文科省との協議入りをする予定だったが、結論は先延ばしされていた。

地元紙の岐阜新聞は9日、「再編白紙」と報じたが、大学広報は「『白紙』にはなっていない。当面は名大との法人統合協議に専念するという方針を学長が示したが、再編自体は今後も検討を続ける」とコメントした。

地域科学部の富樫幸一学部長も「学内での会議を経た正式な決定ではない。学長や理事が場当たり的な発言をしているため、情報が混乱している」としたうえで、「学部としても先を考え、教員人事や講座体制などの見直しを始めようとしている。今回の署名運動を通して地域科学部のこれまでの取り組みを評価する声も寄せられ、励みになっている」などと話した。

法人統合については、昨年12月25日に基本合意書を締結。新たな国立大学法人「東海国立大学機構」の下で2つの大学が運営され、早ければ2020年度から新入生を迎え入れる方針を確認した。

基本合意書では、新法人として事務管理や企画部門を集約して効率化、経営協議会も一本化する一方で教育研究評議会は大学ごとに置き、「教育研究活動の独自性を維持する」と強調している。また、教職員の雇用については、法人設立時に両大学の教職員であれば原則、「新法人の教職員となるものとする」と明記された。

記者会見で、地域科学部の問題と法人統合との関係を問われた森脇久隆学長は「直接の関係はない。これは岐阜大内部の教育的取り組みの問題だ」と主張。名大の松尾清一総長も「基本的に岐阜大学の中で合意形成をしながら進めてもらいたい」と突き放した。

将来的な学部統廃合の可能性については、森脇学長が「今回は管理部門の統合であって、大学と学部については現在のまま」だと述べた。ただし、そこで言う「現在」とは、法人統合スタート時点の話のはずだ。

両者の発言からは、法人統合前に学内で解決すべき問題だという思いがにじむ。批判がくすぶったまま山積する事務調整を進めたところで、統合後に問題が大きくなって噴出する可能性もある。

基本合意では、両大学の強みを生かして「東海研究クラスター」を形成するという構想も示された。目玉は「糖鎖生命コア研究拠点」。糖鎖はグルコースやガラクトースなどの糖が細胞表面上で鎖状につながった分子で、がんやアルツハイマーなどの神経機能にも関わり、その解明が新たな創薬につながると期待されている。

名大に研究の蓄積はあるが、岐阜大も近年、新研究分野として力を入れており、法人統合の象徴として共通の拠点を置く方針だ。ほかにも農学や航空宇宙、医療情報データの統合などでノーベル賞学者を輩出する「世界水準」型の名大と、「地域貢献」型の岐阜大のよさを合わせていく狙いだ。

地域科学部は中途半端な状態?

一方、文系分野では、社会人の学び直しを促す「リカレント教育」や語学、数理データサイエンスを取り入れた「次世代型高等教育」などの共通化が挙げられている。両大学にある教育学部に主眼を置いたメニューと言えるだろう。こうした組み合わせの中で「文理融合」を掲げていた岐阜大の地域科学部は、ユニークなだけに宙ぶらりんという状態にも見える。

それを逆手にとって存在意義を発揮できるのか。もし廃止となれば、せっかく掲げた「地域」の看板も降ろさざるをえなくなる。それは今後、法人統合を考えるほかの地方大学にとっては懸念材料となりかねない。

「東海国立大学機構」には現時点で他に参加大学はないという。名大の松尾総長は「まず両大学で成功例を示し、他に加わりたいという大学があれば、まったく拒まない」と強調した。

ただし、「これが失敗すれば、後に続くところはないだろう」とも。こうした危機感とスピード感を意識するあまり、トップダウンでものごとが進みすぎているきらいもある。「無関係」とは言えない学部再編などの議論に、もっと学生や地域を呼び込んでいいのではないだろうか。