美術館が「治療」の場に、北米で広がる社会的処方の取り組み

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美術館や博物館の中を歩き回ることは、人生の大きな喜びの一つだ。どの都市を訪れるときも、こうした施設を巡ることは最大の楽しみであり、慎重にキュレートされたコレクションを通じて、その土地のアイデンティティーを探ることができるという人もいる。

また、観光客として訪れる人、定期的に通う人がいるだけでなく、これらの施設は結婚式やその他のイベントのためのスペースとしても利用されている。

その美術館や博物館がいま、新たな目的のために利用され始めている。カナダ・オンタリオ州にあるロイヤル・オンタリオ博物館は先ごろ、医師または医療関係者の処方箋や紹介状を持つ人たちに、無料での入館を認めるプログラムを開始した。

この同プログラムは、同州の保健当局とプライマリ・ケアを提供する医療機関の団体、アライアンス・フォー・ヘルシアー・コミュニティーズ(AHC)が行ってきたパイロット・プロジェクトの一環。

AHCに所属する医師の1人はカナダ放送協会(CBC)に対し、(同プログラムで提供される)「社会的処方」は、英国ですでに行われている活動をベースにしたものだと説明している。地域住民の健康維持のため、医療機関だけでなく地域支援の担当者が医療行為以外の方法で介入し、一定の役割を担うという仕組みだ。

一方、モントリオールではフランコフォニー医師会(MFdC)とモントリオール美術館(MMFA)の提携により、医師が治療方法の一つとして、同美術館の見学を「処方」できるようになっている。

MMFAのウェブサイトによれば、このプログラムは「さまざまな身体的・精神的な健康問題に苦しむ数多くの患者にとって、美術館を利用しやすいものにする新たな治療方法だ」。

「MMFAとMFdCは無料で入れる安全かつ快適な場所、リラックスし、活力を回復させる経験、小休止する時間、愛する人との関係を深めるための機会を提供することで、患者の回復と健康に貢献する」

MMFAにはアートセラピーのためのスペースのほか、診療室も設置されている。

「オピオイド(麻薬系鎮痛剤)危機」が拡大するなか、美術館や博物館の中にはオピオイド依存症の患者向けのアートセラピーを行っているものもある。

米ニューハンプシャー州にあるクーリエ美術館は、薬物依存症の患者の家族を対象としたプログラム「アート・オブ・ホープ」を提供している。このプログラムでは、クロードジョセフ・ヴェルネの「The Storm」をはじめとした作品についての会話を通じて、セラピーを行う。

オンラインマガジンのハイパーアラージック(Hyperallergic)はこのプログラムについて、次のように書いた記事を掲載している。

「指導員たちは、薬物依存症が本質的に荒々しいものであることや、依存症が患者の家族など周囲の人たちに巻き添え被害を及ぼすものであることについて説明できるような作品を選択している」

「・・・ヴェルネの作品には、荒れた海や難破船、混乱の中で生存者が愛する人たちを陸に引き上げる様子、遠景には薄暗い山の上の要塞が描かれている」

インディアナ州では、インディアナ大学にあるエスケナージ・ミュージアム・オブ・アートが今秋から、ネグレクトや虐待の被害に遭った子供たちのためプログラムを開始する。

美術館が社会的な空間であることを大きく超え、医学の分野にまで広がってきたと思う人もいるかもしれない。だが、それでもこうしたプログラムは、伝統的な治療方法に代わるのではなく、それらを補完するためものだ。

エスケナージ・ミュージアム・オブ・アートの館長は、インディアナ大学の学生が発行する新聞「インディアナ・デイリー・スチューデント」に対し、「美術館は病院ではない。病院を装うこともない」と述べている。「ただし、美術館には安全な空間がある」という。