重村智計(東京通信大教授)

 韓国国防省は、海軍艦艇による自衛隊哨戒機へのレーダー照射事件で日本に謝罪を求め、反論動画に自衛隊映像を勝手に「盗用」した。動画を見た日本人は「盗人猛々(たけだけ)しい」「嘘の上塗り」と受け止めるであろうが、感情的になってはいけない。

 窮地に立つ文在寅(ムン・ジェイン)大統領が反日感情をあおり、支持率アップと、いわゆる「徴用工」問題で日本企業への差し押さえ実行を狙う「挑発」と「問題すり替え」作戦に転じたことがハッキリした。折しも、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が新年演説で内政の困難さを浮き彫りにした。南北首脳ともに難題に直面している。日本は焦らず気長にかつ冷静に、原因と事実究明、そして再発防止を求めるべきだ。

 日本は、文大統領が重大な危機に直面している現実を冷静に理解すべきだ。昨年末になって、支持率が43%までに激減した。年を越してもこの傾向は変わらないだろう。

 韓国では「大統領支持率が40%に落ちたら回復不可能」といわれる。国民は経済悪化と外交の行き詰まり、とりわけ対北朝鮮政策で文大統領に失望している。

 特に就職難の20代男性の支持率は20%台で、危険水準を超えている。韓国紙によると、インターネット世論の70%以上が「政府の主張は信用できない」と書き込んでいる。

 大統領を支える革新・左派勢力は、このままでは2022年に行われる次期大統領選で負ける危機的状況にあると受け止めている。任期5年の大統領が就任1年7カ月余で支持率40%台まで落ち込むようでは、3年後に左派政権は崩壊してしまう。権力維持を狙う革新・左派陣営には、まさに死活問題だ。 このような厳しい状況の中で、自衛隊機へのレーダー照射問題が起きた。文政権の参謀たちは支持率アップの「絶好の事態」と誤った判断をしたのだろう。「『軍国主義者』の安倍晋三首相が事件を捏造(ねつぞう)した」と国民の反日感情をあおれば、支持率が上がると計算した。

 そこで、韓国のメディアに「支持率が下落した安倍首相が仕掛けた」と書かせ、自分たちの状況を安倍首相に置き換える「詐欺的演出」に出たのである。日韓関係が悪化すれば、「徴用工」判決による日本企業資産差し押さえも、実行しやすくなる。なかなかの悪知恵だといえる。

 そもそも、韓国と北朝鮮は「工作国家」である。巨大な工作機関があり、工作で真実を曲げてきた。そうして、南北朝鮮は「金大中大統領(当時野党指導者)を拉致していない」「日本人拉致はない」と平気でウソをつき、勝手な「解釈」を続けた。最近の「徴用工」判決と慰安婦問題は典型的な「解釈変更」のケースだ。まさに南北朝鮮は「解釈」と「三百代言的手法」で国際問題を偽装する「すり替え手法」の天才だが、決して国際政治の主役ではない。

 今回の問題でも、韓国国防省は火器管制レーダー照射を認めずに「謝罪」を要求し、「公表の前になぜ話し合わなかったのか」と問題をすり替えた。自衛隊は、韓国側に連絡を取り説明を求めたが、1日待っても返事がないので公表したにもかかわらず、だ。

 国防省報道官は声明で「自衛隊機が威嚇的な低空飛行をした」と述べ、謝罪を求めた。しかも、意図的に「高位級人物」との言葉を使い、安倍首相を批判した。この声明には「悪意」と「挑発の意思」がありありだ。

 国防省が報道官声明において日本の首相を批判するのは、極めて礼を失した対応だ。本来は、大統領か大統領府報道官が対応するものだからだ。国防省ごときに言及する資格はないのである。韓国側が意図的に安倍首相を怒らせ、反日感情をあおろうとしていることがわかる。韓国のいつもの手口であり、日本は決して乗せられてはいけない。

 だいたい、海上自衛隊と韓国海軍は、長年友好的な協力関係を維持してきた。海自は韓国側に協力を惜しまず、韓国を刺激する言動も自制してきた。だが、今回の声明で自衛隊機の飛行を「威嚇的」と呼ぶのは、敵対国への表現だ。

 しかも、韓国側の主張は、最初から説明がコロコロ変わっており、到底信用できない。「自衛隊機を狙ったものではない」と主張するが、それなら誰を狙って照射したのか説明しようとしない。問題処理が韓国海軍や国防省の手を離れ、大統領府に移されたのは明らかだ。大統領府が「反日感情盛り上げ作戦」を展開したのである。 事件は、2018年12月20日の午後3時過ぎに起きた。日中の明るい時間帯であり、相手を認識できたはずだ。「海上が荒れていた」との韓国側の説明もウソだった。

 なのに、攻撃を意味するレーダーを照射したのは、常識では考えられない。可能性としては「兵士が勝手に行ったか」「自衛隊機に見られると困る行動をしていたか」の二つである。

 以前指摘したように、韓国軍への指揮統制権は大統領の管轄下にあり、勝手な「攻撃」は絶対にできない。韓国の大統領はクーデターを最も警戒しており、各師団や部隊の司令官の指揮と行動は厳しく監視されてきたからだ。もし、下級兵士が勝手にしたのなら、韓国軍の組織崩壊を意味する「クーデター行為」にあたる。あくまで、誰かにレーダー照射が命じられたから実行したのだ。

 では、韓国駆逐艦は海自哨戒機に見られると困る作戦行動をしていたのか。哨戒機の飛来は、直ちに海軍本部から国防省に連絡されたのであろう。この報告に対して、国防省から「追い払え」との指令が来たのではないか。追い払う方法がないので、レーダーを照射したのか。

 なぜ追い払う必要があったのか。報道官声明では「通常の作戦活動中」「遭難漁船を救助した」と説明したが、いつの間にか当初の遭難漁船の「北朝鮮」という表現が消えた。海軍艦艇の「作戦活動」には、北朝鮮漁船を救助する「任務」はない。北朝鮮は「敵国」であり、漁船に「敵兵」が乗っているかもしれないからだ。

 とすると、北朝鮮漁船の救助活動を「発見」され、「まずい」と考えたのか。昨年末公開された自衛隊機の撮影映像を見ると、韓国海洋警察の救助艇が近くにおり、既に救助活動は終了していた。百歩譲って、韓国側の主張をその通り受け止めるのであれば、駆逐艦は自衛隊機の位置と距離を測るためにレーダーを作動させたが、間違えて「火器管制」レーダーを使ったのかもしれない。

 それなら「誤作動」と言えばいいのだが、大統領府が「支持率アップ作戦」を展開したために、事態が混乱してしまった。この韓国の政治状況がわからなければ、韓国海軍が北朝鮮船舶の「密輸取引」や石油の「瀬取り」作業を「保護」していたのではないか、との観測が生まれるわけだ。

 日本は韓国の「問題すり替え」や「ウソ」の手口に乗らずに、冷静に対応する必要がある。それには、「文大統領の支持率は近い将来に30%台に落ちる」との冷静な見通しを持ち、決して大統領府の「支持率アップ作戦」に協力してはいけない。日韓関係の悪化で、経済的にも外交的にも困るのは文政権だからだ。 韓国の新聞や世論の多くが、韓国政府発表に疑問を抱いているリアリティーを理解すべきだ。「日本は正直だ」との韓国世論の意識を悪化させてはならない。

 むしろ、日本政府は文政権と韓国民の「乖離(かいり)戦略」を取るべきだ。事実確認と再発防止の要求に徹して批判や非難の表現は避ける、慌てて「早期のうやむや解決」を取らない、このスタンスが肝要だ。過去の「その場しのぎ外交」が、結局日韓関係を悪化させた教訓に学んでほしい。

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